パーティー-1 (改)

 使用人が開いた扉を通ると会場内から多くの視線がこちらに集中する。

 

 その視線の数にリリアとルルアが僅かにたじろいだ。

 俺が軽く視線を向けると2人ともすぐに落ち着きを取り戻し表情を引き締める。

 

 入り口から会場の中に歩いていく中で様々なささやきが耳に入ってくる。


 「今入ってきたと言うことは公爵家の方々か」

 「そうだろうな。リーシャル家とヒーヴィル家だろう」


 俺達の素性について囁く声。


 「あれってクライン様じゃないかしら?」

 「どこ?本当っ。クライン様よっ」

 「いつ見てもかっこいいわぁ」


 クラインに目を奪われる令嬢達の囁き声。


 「あの美しい2人の女性は誰だ?どこの家のご令嬢だ?」

 「わからない。これまでに見た記憶がない」


 リリアとルルアに注目する子息達が囁く声。

 そしてーー


 「でも、あの2人をエスコートしている真ん中の男は知っている。確かヒーヴィル公爵家の嫡男だ」

 「嫡男ということは次期当主か。だが、今まで名前を聞いたことはないぞ?」

 「俺もだ。クラインの名の方がよく聞くな」


 2人をエスコートする俺について囁く声。

 それらの声を聞き流し歩き続ける。


 今回のパーティーは立食形式のものであり、会場の三分の二程度のスペースに料理の乗ったテーブルがいくつも置かれている。

 その中で人のいないテーブルを見つけ、近くまで行き足を止める。


 先ほどよりも幾分か視線の数は減ったが、2人の容姿が災いして完全にはなくならない。


 「見られていますね‥‥‥」

 「レイス様、私なんかおかしかった‥‥‥?」


 2人は未だに俺の手を離さず上目遣いで不安そうに聞いてくる。

 ドレス姿で、普段見ることの少ない不安そうな表情が新鮮でもう少し眺めていたかったが、グッと堪えて口を開く。


 「いや、問題ない。この視線はお前達の容姿に引き寄せられているものだ。自信を持て」

 「旦那様以外の人に見られても嬉しくありません‥‥‥」

 「私も、姉さんと同じ‥‥‥」


 そう言って2人が体を寄せてくる。


 それを受け入れ2人の体温を感じていると後ろから声をかけられた。


 「失礼、少し宜しいでしょうか?」

 「‥‥‥‥何の用だ?」


 邪魔をされたことで眉間に皺がよるのを感じつつ後ろを向くと、そこにいたのは1人の貴族子息だった。


 「初めまして。私はレッサー侯爵家の次男、コーリッド・レッサーと申します。レイス様にご挨拶を申し上げたくお声をかけさせていただきました」


 そう言って目の前の貴族子息ーーコーリッドは俺に対して軽く頭を下げる。

 

 本来ならこうして格下の貴族が挨拶に来た場合、相手に対して何かしらの返答をしなくてはいけないのだが、俺はあえて何も言わない。

 それを不思議に思ったのかコーリッドが顔を上げる。


 「レイス様?」

 「‥‥‥‥一つ聞こう。お前は、我がヒーヴィル公爵家をどう思う?」

 「‥‥‥どう、と言いますと?」

 「お前が我がヒーヴィル家に対して思っていることをそのまま言葉にすればいい。何も思わないのならそれでもいい」


 コーリッドは少し考え込む様子を見せると、俺と目を合わせて口を開いた。


 「他家に対して失礼な言葉になりますが宜しいでしょうか?」

 「構わん」

 「権力や地位に溺れた名ばかりの貴族家とは違う、真に実力のある本物の貴族家だと私は感じております」

 「ーーなるほど。面白い。お前とは機会があればまた話したいものだ」

 「ありがとうございます。では、他の方々も待っているので私はこれで」


 軽く一礼をしコーリッドは去って行った。


 それを目で確認したリリアが声を顰め俺に囁く。


 「旦那様、あれが私を利用しようとしたという‥‥‥」

 「レッサー侯爵家の人間だな」


 レッサー侯爵家は以前、スラムに住んでいた『回復』の聖女であるリリアを利用し帝国の宰相である俺の父を失脚させようとした家の名だ。

 リリアとルルアには視察が終わった後に時間を取り、そのことを伝えていた。


 リリアの件を主導したのはおそらくレッサー侯爵家の当主だろうがその子供も関わっていることも考えて確かめてみたが、その可能性は薄いだろう。

 言葉にこちらに対する負の感情がなかったからな。

 それに俺の問いに対するコーリッドの言葉。

 あれは他人を引き摺り下ろそうとする人間が使う言葉ではないからな。


 コーリッドが去って行った方を見ているリリアの頭を軽く撫でる。

 俺の手を受け入れ表情を緩めるリリアに薄く笑みを浮かべ、口を開く。


 「安心しろ。何があっても俺が守ってやる」

 「ありがとうございます、旦那様」

 「レイス様、私は?」

 「ルルアもだ」




 =====




 その後もコーリッドと同じように挨拶にくる貴族達に適当に対応していると会場の奥、一段高くなり豪奢な椅子が置いてある場所のすぐそばで1人の騎士が声を張り上げた。


 「皇帝陛下、並びに第二皇子殿下、その婚約者ミリアンナ・リーシャル嬢がいらっしゃいます」


 その声に会場内の貴族全員が姿勢を正し、そちらの方向を向く。


 会場の奥に設置された皇室の人間が使う扉が開き、3人の人物が入ってくる。

 皇帝が最初に会場に入り、その後に第二皇子、ミリアンナと続いた。

 皇帝が中心に立ち、その左側に第二皇子、ミリアンナが並んだ。


 その中の1人、第二皇子に俺の目が止まった。

 リリアとルルアも同様だ。


 何故ならそこにいたのはーー


 

 先日、ルルアに悪魔の力を使った男だったのだから。


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