お披露目とプレゼント (改)
帝都に到着してから二日、第二王子の婚約発表のパーティー当日となった。
すでに太陽は地平線に沈み、夜の帳が帝都に降りている。
公爵家の別邸の庭では馬車の準備を専門の使用人達が行っており、ランタンの光がいくつも動き回っている。
その光景を部屋の窓から眺めている俺の耳には先ほどからリリアとルルアの楽しそうにはしゃぐ声が入ってきていた。
現在俺の部屋は魔力によって作られた不透明な壁によって区切られており、その壁の向こうから2人の声が聞こえている状態だ。
その理由はーー
「このドレスすごく可愛いですっ。これで旦那様に喜んでもらえますっ」
「私が思ってた通りのデザインっ。イリーナさんすごーいっ」
そう、ドレスである。
何故今のタイミングで2人がドレスで喜んでいるかといえば、ドレスを目にするのが今日が初めてだからである。
ドレス自体はイリーナの手腕もあり公爵邸を出発する3日前にはできていたのだが、2人がドレスを見てしまうと気分がふわふわし続けて何もできなくなってしまうからと直前に見るようにしたいと言ったのだ。
そのため今日になるまで2人がドレスを見ることはなかった。
その間ドレスはレヴィアナが保管しており、ドレスを持って来るついでにドレスを着慣れていない2人のサポートをさせている。
普段は落ち着いているリリアまではしゃいでいてなかなかに大変そうだが、レヴィアナなら大丈夫だろう。おそらく。きっと。
しばらくすると部屋を区切っていた魔力の壁が解けるように消えていき、その向こうから2人が姿を現した。
「私のドレス姿、どうですか旦那様?」
「変じゃないかしら、レイス様?」
リリアは肩が出る形でスカート部分にレースがあしらわれた薄いピンク色のドレスを身に纏っており、ルルアはスカート部分に太ももの辺りまでスリットの入ったどこか妖艶さを感じさせる水色のドレスを身に纏っている。
2人とも贔屓目なしに基本的に見た目の優れている貴族令嬢以上の美しさを持っている。
思わず2人の姿に見惚れてしまい言葉を返すのに少し間が空いてしまった。
「‥‥‥よく似合っている」
「ふふっ。ありがとうございます旦那様」
「もうちょっと何かあってもいいと思うんだけど‥‥‥でも、ありがと」
2人とも俺のたった一言に頬を染めて感謝を伝えてくる。
悪くはない。
だが、先にやるべきことを済ませておきたい。
そのためにレヴィアナには帰ってもらう。
「レヴィアナご苦労だった。また何かあれば呼ぶ」
「承知しました。マスター頑張ってください」
魔法陣の中に消えていく際、レヴィアナは拳をグッと握ってそんなことを言ってきた。
俺が何をしようとしているのかわかっているらしい。
俺は2人の方に向き直ると虚空から二つの小さな箱を取り出した。
「リリア、ルルア」
「はい」
「何?」
「お前達にプレゼントだ」
「「えっ?」」
2人が声を揃えて驚いた。
何げに2人の声が揃ったのは初めてだな。
俺が差し出した箱をそれぞれ受け取るとリリアが聞いてきた。
「あの、開けても、いいですか?」
「ああ」
箱に結ばれたリボンを解き、ゆっくりと蓋を開け2人が中を見た。
「可愛いです‥‥‥」
「綺麗‥‥‥」
2人に俺が渡したのはネックレスだ。
リリアには様々な色が混ざり合って生まれる独特の色を持つパパラチアサファイアがあしらわれたネックレスを渡した。
石言葉の一つに一途な愛というものがありリリアを表すのに相応しいと思いこれを選んだ。
ルルアには鮮烈な色彩が特徴的なスピネルという宝石があしらわれたネックレスを渡した。
石言葉は努力、発展、向上だ。
これもまたルルアを表すのに相応しい。
この二つのネックレスは宝石自体はそこまで大きくはないのだが、下品になりすぎない程度の存在感があり2人の美しさをさらに引き上げてくれる。
リリアはネックレスを箱から取り出すと俺に差し出した。
「旦那様がつけてくださいますか?」
「あ、私もつけて」
2人の差し出してきたネックレスを受け取り首の後ろで金具を止める。
2人は自分の首につけられたネックレスを見て嬉しそうに頬を緩めると俺に真っ直ぐ目線を向けた。
そして姉妹そっくりな笑顔を浮かべて言った。
「ありがとうございます、旦那様。大事にしますね」
「レイス様、ありがとうっ。嬉しいよ」
「ああ」
この表情を見れたのなら選んだ甲斐があった。
「そろそろ時間だ。行くぞ」
「はい」
「うん」
別邸の前に用意された父達が乗るのとは別の馬車に乗って帝城へ向かう。
帝城に向かう途中で何台かの馬車が後ろについてきているのがわかった。
おそらくパーティーに参加する他の貴族だろう。
これを見て2人がまた緊張するかもしれないと思ったが、どうやらその心配はいらないらしい。
2人とも俺が私たネックレスを見てニヨニヨと緩んだ笑みを浮かべている。
‥‥‥余裕そうでなによりだ。
帝城に到着した。
俺が手を貸し2人が馬車から降りたところで前の馬車から降りてきた父に声をかけられた。
「レイス」
「なんでしょうか父上?」
「その2人は、誰だ?まさか皇帝陛下が主催するパーティーに連れていくとは言うまいな」
「連れて行きますよ。2人は俺の女です。連れて行ってもなんら問題はありません」
父から威圧感が発せられる。
クラインやシャルミリナであればこれで言うことを聞くのであろうが、あいにく相手は俺だ。
この程度なんの問題もない。
「貴族でもないものを連れて行けば我がヒーヴィル公爵家の品格を疑われる。その2人を連れていくことは許さんぞ」
「誰もあなたの許可など欲していません。それにどんなパーティーであろうと使用人を連れていくことに問題はありませんし、その時の使用人の服装に規定もありませんから」
「‥‥‥‥レイス」
「これ以上何もないのでしたら先に行かせていただきます、父上」
俺は父をその場に残しリリアとルルアを連れて帝城の中に入っていく。
「行くぞ」
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