デート-2 (改)

 服を購入し店を出ると15時を少し過ぎており、お茶をするのにちょうどいい時間だったのでどこかの喫茶店にでも入ろうと言う話になった。

 ちなみに購入した服は俺がレヴィアナ同様に使うことのできる空間系の魔法に収納した。


 服屋からほど近い場所にある喫茶店に入ることにし、2人が通りの風景を見たいと言うことでテラス席に腰を落ち着ける。

 店内は暗めの木材を使って作られていて落ち着いた雰囲気があり、客は俺達を含め数組だけなので居心地のいい環境になっている。


 店員が持ってきたメニューを眺めていると、注文が決まったリリアが店内を見回しているのが目に入る。

 俺が視線を送っているのに気がついたのかリリアが俺の方に顔を向けた。


 「旦那様、注文は決まりましたか?」

 「ああ」

 「ルルアは?」

 「私も決まったよ」

 「それじゃあ店員さんを呼びますね。すいませーん」


 席に来た店員に注文を済ませ運ばれてくるのを待っていると、通りからこちらの席に1人の男が近づいてきた。

 

 男はこちらに来るまでフードを被っていたが、席の前に来るとフードを外しその顔を見せた。

 男は優しげな雰囲気を纏った顔立ちをしており、若干幼さを感じるがそれが気にならないくらいに大人びている。


 その男はまるで俺が見えていないかのようにリリアとルルアに声をかけた。


 「こんにちは。席をご一緒してもいいかな?そこの通りを歩いていたら2人の綺麗な姿が目に入ってつい話をしたくなってね」


 なんだコイツは。

 俺はその男を睨め付けながら口を開く。


 「貴様、目が腐っているのか?同じ席に男がいるのによくも声をかけられたものだな」


 そこで俺の存在に気がついたかのように男は目を向けてきた。

 その目には俺を嘲笑うかのような感情が浮かんでいる。


 「おや、これは済まないことをしたね。でも2人がとても退屈そうに見えたから」

 「どうやら本当に目が腐っているらしいな。2人はお前を拒む態度を見せているだろう?」


 俺が当然と言わんばかりの態度でそう返すと、男は2人に視線を向ける。


 俺の向かい側に座るリリアに視線を向けた男はその顔に小さくない驚きと少しの疑念の表情を浮かべた。

 どうやらかなりの自信があったようだな。


 男は次にルルアの方に視線を向けた。

 また同じような表情をするのだろうと考えていると、予想していなかった言葉が男の口から発せられた。


 「どうやら、そっちの子は僕の誘いを受けてくれそうだけどね?」

 「ーーーは?」


 ルルアの方に向けた目に映った光景に理解が及ばなかった。



 ルルアは男の方を見て頬を赤く染め、媚びるような目をしていた。



 自分の中でだんだんと際限なく時間の流れが遅くなっていくのがわかる。

 そしてそれと同時にルルアのが見えてくる。

 気持ちの悪い何かがルルア自身の心を押しつぶそうと蠢いており、ルルアの心はそれに必死に抗っている。


 それが見えた俺は、これまで感じたことがないほどの不愉快さ、怒り、支配欲、独占欲を抱いた。


 俺ともう1人アザーが混ざり合う。


 静かに椅子から立ち上がった俺は男と真正面から向き合う。

 男は柔らかな笑みを湛え、瞳に嘲笑の感情を宿しこちらを見ている。


 「女の子が自分以外に見惚れていたからって暴力はよくないな」

 「‥‥‥‥‥」


 俺の瞳には何も感情が宿らない。

 

 だが、体の中は嵐のように荒れ狂っていた。


 口を開き言葉を発せば、もう1人アザーの声も俺の中で響く。


 「‥‥‥‥俺は」


 ーー我は


 「お前の存在が」


 ーー貴様という存在が


 「実に」


 ーー実に


 「実に」


 ーー実に



 声が、重なる。



 【不愉快だ】



 瞬間、俺を中心に濃く鋭い魔力が同心円上に広がっていく。


 それはリリアを通り抜ける時には僅かな抵抗を、ルルアを通り抜ける時には小さな破壊を、男を通り抜ける時には消滅を感じた。


 男はその顔を苦悶の表情に歪め膝を折り、地面に這いつくばる。


 「がっあぁぁぁっ。ぐっ‥‥‥‥がはっ」


 男の口から血が流れ落ちる。


 俺はそれに一切目を向けることなく2人の方に向き直る。

 リリアはすでに椅子から立ち上がり気を失ったルルアを支えている。


 「帰るぞ」

 「はい」


 俺はルルアを横抱きにして持ち上げると金貨を数枚、代金としてテーブルの上に置き、リリアを連れて通りに出る。

 去り際に振り向くことなく男に向かって告げる。


 「次はない」




 =====




 屋敷に戻ってきてから一刻ほどの時間が経ち、窓の外が茜色に染まり始めた。


 「ん‥‥‥」


 少し薄暗くなった俺の部屋のベッドで眠るルルアが声を漏らし、瞼を開いた。

 焦点の合わない瞳で周りを見て俺に目を向けた。


 「起きたか」

 「レイス様‥‥‥。姉さんは‥‥‥?」

 「リリアはそこで寝ている」


 俺はルルアが寝るベッドの足の方を示した。

 そこでは椅子に座ったリリアがベッドに上半身を預けて寝ている。


 ルルアは上体を起こしリリアの姿に頬を緩ませると俺の方に目線を向けるが、すぐに申し訳なさそうに逸らしてしまう。

 あの気持ちの悪い何かは完全に消えているが、どうやら記憶は残っているようだ。


 「ルルア」

 「レイス様、その、私ーーんむっ」


 こちらを向いたルルアの顎を掴んで固定し、その唇に噛み付く。

 閉じたままの唇を舌を使って強引にこじ開け、ルルアの口の中に舌を差し込む。

 突然のことにルルアは驚いているが俺を拒む様子はない。


 「ん‥‥‥んぁ‥‥ん、はぁ‥‥‥」


 ルルアがこちらに完全に体を預けたのを確認しをルルアの中に入れる。

 がルルアの体に定着したのを確認し口を離す。


 「はぁ‥‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥」


 息を荒くしているルルアをそのまま自らの腕に抱く。


 「俺はお前が望んでもお前を手放すことはしない。たとえお前がどんなことをしても、どんな態度を取っても手放さない。忘れるな」

 「‥‥うん‥‥ありがとう、レイス様‥‥‥」


 涙を流し始めたルルアを強く、抱きしめる。



 あの男が使っていたのは魅了の魔法チャームや精神干渉系の魔法などではない。

 あれはもっと、人間の深い部分にあらゆる障害を破壊して干渉する力。



 すなわち、悪魔の力だ。


 


 



 

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