デート-1 (改)

 どうやらリリアはデートというものに憧れがあったらしいのだが、何もしておらず守られているだけの状態で図々しく要求をするのは納得がいかないということで我慢していたらしい。

 だが、その我慢も限界寸前の状態で俺がデートという単語を口にしたので抑えきれず飛びついてきたと。

 あの後、我に返ったリリアは顔を真っ赤にしてそう白状した。


 そして現在、俺達は帝都の街並みの中にいる。

 俺を真ん中にして右側にリリア、左側にルルアという形で3人で並んで歩いている。

 もちろん腕を組んだ状態でだ。

 正直歩きにくいのだが、2人がどうしてもと譲らなかったためにこうなっている。


 「旦那様と、お買い物♪」

 「‥‥‥‥♪」


 2人とも見るからにご機嫌だ。

 リリアはいつにも増して幸せそうな笑みを浮かべて言葉をこぼし、ルルアはその表情と足取りが弾んでいる。


 そんな状態の2人と帝都を歩き飲食店や服飾店、道具屋などが集まる通り、いわゆる商店街までやってきた。

 帝都の商店街だけありヒーヴィル公爵領内のものよりも規模が大きく 多くの人で賑わっている。


 「わぁ‥‥‥。すごいですっ!」

 「すごい数の人‥‥」


 2人は人の数に圧倒されつつも嬉しそうにはしゃいでいる。

 リリアは嬉しさが溢れ出して低く飛び跳ねている。


 とりあえず飛び跳ねるのはやめてほしい。

 腕を組まれている俺にも振動が伝わってきて視界が揺れる。


 「旦那様!早くいきましょう!」

 「レイス様早く!」


 2人に腕を引かれるようにして人混みの中に入っていく。

 人が多いとは言っても3人程度であれば歩くことができるスペースはある。

 両側に並ぶ店を見ながら歩みを進める。

 2人揃ってしきりに顔を動かして様々な店やその前に並ぶ商品に目を向けていると、ルルアがある方向に指を差し声をかけてきた。


 「レイス様、姉さん。あそこの服屋さん行こう。可愛い服がいっぱい飾ってあるよ」

 「いいですね。私もああいう服が欲しいです」

 「つい先日新しいものを買ったばかりだったと思うが?」

 「レイス様、服は何着あってもいいの。それにいっぱいあればいろんな私たちを見れるよ?」

 「旦那様、あんな服を着た私たち、見たくありませんか?」


 2人揃って上目遣いでこちらを見上げてくる。

 

 ‥‥‥‥‥。


 「‥‥‥行くぞ」

 「ありがとうございますっ」

 「レイス様大好きっ」


 店に入ると程よく間隔を開けて並ぶ様々なデザインの服が目に入ってくる。

 2人は俺から腕を離すとそれぞれ服を手に取って選び始めた。

 俺もせっかくだからと色々と服を見てみようと棚の方に足を進めた。


 しばらくすると両手に幾つかの服を持ったリリアが側に来た。

 リリアは両手に持った服を片方ずつ俺に見せながら言った。


 「旦那様はこちらの清楚な感じの服と可愛らしい感じの服、どちらがお好みですか?」

 

 服の好みなんてものは考えたことがなかったので咄嗟に答えることができない。

 俺が何も言わないでいるとリリアは何か思いついたのか、クスリと笑みを浮かべ背伸びをして俺に顔を近づけてきた。


 「‥‥それとも、旦那様はえっちな服の方がお好みですか?」


 揶揄うようにそんなことを囁くとリリアは元の体勢に戻り、何事もなかったかのように質問の答えを求めてくる。


 「どっちがいいですか?選んでください」

 「‥‥‥清楚な方だ」

 「こちらですね。わかりました。ルルアにも伝えておきますね」


 そう言ってリリアは俺に背を向けようとしてピタリと動きを止めた。

 そして小悪魔のような笑みを浮かべ振り返る。


 「旦那様。えっちな服は近いうちに見せてあげます。楽しみにしててくださいね♪」


 そう言うと今度こそルルアのもとに戻って行った。


 「‥‥‥あれが聖女とは到底考えられないな」




 別の場所で服を眺めていると今度はルルアが俺のもとに来た。

 ルルアはその手に服を持っておらず、ほんのりと頬を赤く染めている。


 「その、今から私達服の試着をするんだけど、レイス様にも見てもらいたいなーって‥‥‥」

 「見るだけか?」

 「できれば感想も‥‥‥」

 「わかった」

 「やったっ。行こ、レイス様」


 そう言って笑顔を浮かべたルルアは俺の手をひいいて試着スペースに引っ張っていく。

 そこにはすでに清楚系の服を何着かハンガーラックに掛けたリリアが待っていた。


 「ルルア、ありがとうございます。では旦那様、今からここにある服を試着しますので感想をくださいね?」

 「わかった」

 「じゃあルルア、着替えましょう」

 

 2人はカーテンによって区切られた試着スペースに選んだ服をハンガーラックごと持って入っていった。

 

 近くの壁に寄りかかり2人を待っていると試着スペースのカーテンが開かれ、まずリリアが出てきた。


 「旦那様、どうですかこの服?似合ってますか?」


 リリアは上は前を閉めるボタンの部分だけにフリルの装飾がついたシンプルな白のシャツ、下にはライトブラウンのロングスカートを履いている。

 髪色を考えて選んだであろう服は色の全体的な統一感がある。

 そして装飾が少ないことに加え足首ほどまでの長さがあるロングスカートによって清楚な雰囲気がよく出ている。

 リリアの雰囲気にも合っている。


 「よく似合っている。それこそ誰にも見せたくないほどに」


 俺の言葉にリリアは笑顔を浮かべると側に来て腕に抱きついた。


 「ありがとうございます、旦那様。次はルルアの番ですね」


 そういうとリリアはカーテンの向こうのルルアに向けて声をかけた。

 すぐにカーテンが開かれ少し恥ずかしそうにしているルルアが出てきた。


 「ど、どうかしら?」


 ルルアはウエストをリボンで軽く絞った白のワンピースに上からライトブラウンのカーディガンを羽織っている。

 リリアと同じ色合いの服ではあるのだが、普段のルルアよりも若干大人びた雰囲気を感じるので同じだとは全く感じない。

 そして、ウエストを絞るリボンによってリリアほどではないもののバランスの取れた体のラインが少し出ている。


 「似合っている」


 感じることは同じだ。

 だがルルアは俺の言葉に不満があるようで頬を膨らませている。


 「‥‥‥姉さんに言ってたことと少し違う」


 どうやら似合っているの後に言った言葉を自分も言って欲しかったらしい。


 「似合っている。誰にも渡したくないほどに」

 「ありがと、レイス様」


 リリアの時とは少しだけ変えて言ったが正解だったらしい。

 同じことをそのまま言ったら言わせた感があるだろうしな。


 ルルアが空いている方の腕に抱きついてくると同時にリリアの方の腕が軽く引かれた。


 「旦那様、私はそこまで言われていません」

 「‥‥‥‥」


 リリアは誰にも"見せたくない"と"渡したくない"の言葉の違いに不満があるようだ。


 ‥‥‥‥‥‥。


 「リリアも、誰にも渡したくない」

 「‥‥‥嬉しいです」


 どうやら満足したようだ。


 そんな感じで2人は何度か試着を行い、最終的に最初の服と別の服をそれぞれ三着ほど買った。

 

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