到着 (改)
2日目以降は馬車での移動が難しくなる日没までには街に着くことができたため野営を行うことはなかった。
それと、野営の時にリリアとルルアと一緒に寝たのが存外心地よかったので、以降も一緒に寝るように言ったら2人はすんなりと受け入れていた。
何か吹っ切れたらしい。
心なしか以前より物理的な距離も心理的な距離も近くなった気がする。
「あ!レイス様見えてきたよ。あれが帝都?」
公爵邸を出発してから五日目。
太陽が傾き始めた昼過ぎ、窓の外の景色を眺めていたルルアがそう言った。
ルルアが見ている方向に目を向ければ帝城とその周りを囲む帝都とその城壁が見えた。
「大きいですね」
同じく窓の外を見たリリアがそう溢す。
2人は帝都に来たことがないそうなので当たり前の反応だ。
「あんなに大きいところで開かれるパーティーに出るんだよね。なんか緊張してきた」
眉を八の字にしたルルアがそんなことを呟いている。
リリアも言葉に出さないものの同じような心境なのだろう。
帝都で開かれるパーティーなんて、貴族同士の見栄の張り合いをするためだけのものなんだがな。
「俺の側にいればいい。公爵家の人間と分かれば軽々しく話しかけてくる奴もいない」
「‥‥‥‥ふふっ。ありがとうございます、旦那様」
「私も、ありがと‥‥‥」
隣に座っているリリアは俺と腕を組みながら、ルルアは上目遣いに俺を見ながら感謝の言葉を口にした。
‥‥‥ふむ。
悪くはないな。
=====
城壁にたどり着くと護衛の騎士達がヒーヴィル公爵家の家紋を門番に示し、通行許可を得る。
普通であればいくつかの審査が必要な城壁を俺達は馬車の中にいるだけで何もせずに通過することができる。
貴族の特権だな。
そのまま馬車に乗ったまま帝都内を進み、ヒーヴィル公爵家が帝都に所有する別邸に到着した。
この別邸は今回のように帝都に用がある時に宿泊などを目的として使用している。
領地の公爵邸ほどの大きさはないとはいえ、ヒーヴィル公爵家の格を示すための大きさはある。
つまり、帝都の中でもかなり大きい建物ということだ。
馬車から降り、扉を開いて中に入ると綺麗に並んだ別邸の使用人達が声を揃えて出迎えの言葉を口にする。
『おかえりなさいませ』
「ああ。ご苦労」
父が言葉を返すと2人のメイドが近づいて父の上着を受け取り部屋に案内する。
俺やシャルミリナ、クラインにも同様にメイドが近づいてくる。
「おかえりなさいませ、レイス様。上着をお預かりいたします」
「ああ」
「それではお部屋にご案内させていただきます。そちらのメイド達はどうしますか?」
そう言って俺の後ろに控えるリリアとルルアに目線を向けるメイド。
「このまま連れて行く。2人は俺の専属だ。ここの仕事を教える必要はない」
「かしこまりました。それでは」
先導するメイド背を追い、長い廊下を歩く。
ふと窓の外に目を向けると手入れの行き届いた綺麗な庭園が目に入った。
かなり腕のいい庭師を雇っているようだな。
後で少し歩いてみようかと考えているとメイドが歩みを止め、こちらに振り返った。
部屋に到着したらしい。
「こちらになります」
「ご苦労」
「そちらのメイド達は隣の部屋でよろしいでしょうか?」
「いや、こいつらの部屋は用意しなくていい。俺と同じ部屋で構わん」
「かしこまりました。それでは何かありましたら部屋の中にあるベルをお鳴らしください」
「わかった」
「失礼します」
メイドは一礼をして去って行った。
俺はメイドの後ろ姿を最後まで確認することなく扉の方に向き直り、扉を開く。
当然のようにあまり利用することのない部屋の中は客室とそう変わらない。
大きなベッドが一つにソファーとテーブル、あとは意匠の凝らされた椅子が二つほど置いてある。
俺は部屋の中に入ると後ろの2人の方に振り返る。
「荷物を片付けたら着替えろ。いくつか普段用の服を持ってきているだろう?」
「持っていますが、着替えてどうするのですか?」
「帝都を少し歩こうかと思ってな」
「デート?」
ルルアが小さく首を傾げた。
そういった発想はなかったがデートと言えばデートだな。
「そうなるな」
「旦那様大好きっ」
リリアが思いっきり飛びついてきた。
押し倒され背中を打ちつけた。
痛い。
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