ささやかな抵抗 (改)
使用人の用意した料理を食べ終わり、焚き火を眺めながら俺はリリアとルルアと寛いでいる。
辺りは暗闇に包まれているが寝るにはまだ早い時間帯なので馬車の中と同じように暇を持て余していた。
街であれば何かと暇つぶしをできるものがあったかもしれないが、ここは川が側にあるだけの平原だ。
暇を潰せそうなものなど一つもない。
ぼーっと焚き火を見つめていると少し離れた位置に騒がしさが生まれていることに気がついた。
そちらに目を向ければ何人かの使用人達が小さな天幕をいくつか張っていた。
「旦那様、あの天幕は何に使うのですか?」
俺と同じように目線を向けたリリアが尋ねてくる。
ルルアも興味深そうに見ている。
「あれは俺達公爵家の人間が寝る時用の天幕だ。どうやら明るいうちに天幕を張るのを忘れて今やっているようだな」
「旦那様達の天幕ですか。では使用人の皆さんはどこで?」
「乗ってきた馬車の中だな。まあ、何人かは寝ずの番で天幕の側に控えていることになるが」
俺の言葉にルルアが嫌そうな表情を浮かべている。
正直ルルアが何故そんな表情を浮かべているのかが俺には理解できなかったが、リリアの言葉でその理由を理解した。
「私たちは天幕の側と馬車の中、どちらにいればいいのでしょうか?」
「‥‥‥そういうことか」
どうやらルルアは、自分も馬車の中で寝るか天幕の側で待機をすると思ってあの表情を浮かべたらしい。
リリアも同様に考えているようだな。
俺はそんな2人に告げる。
「お前達は俺の天幕で一緒に寝てもらうぞ」
「えっ」
「へっ?」
2人の口から困惑の声が上がる。
「で、でも旦那様。あの天幕は3人も寝れるようなスペースがあるようには思えないのですが‥‥」
「あれでも中はそれなりに広い。3人くらいであれば寝れるだろう」
「うぅ‥‥‥突然すぎますよぉ‥‥‥」
リリアは薄暗い中でも分かるくらいに顔を赤くしている。
なんとも可愛らしい。
リリアの様子を見て楽しんでいると、反対側からルルアが不満の混じった言葉を発してきた。
「レイス様って1人で勝手に決めちゃうことが多い気がする‥‥‥」
「問題でもあるのか?」
「あるよぉっ。‥‥今日は体を拭くくらいしかできないから、匂いとか‥‥‥気になるし」
「あっ。私もです‥‥‥っ」
ルルアの言葉にリリアが賛同する。
姉妹揃って顔を赤くしている光景はなかなか見ることはないな。
「気にすることはない。お前達は良い香りだ」
俺がルルアの髪を一房持ち顔を近づけつつそう答えれば、リリアとルルアはバッと体をのけぞらせるようにして俺から離れた。
魔法で作った椅子に座っているからそんなに離れることはできていないのだが。
「レイス様っ、デリカシーなさすぎっ!」
「だ、旦那様のいじわるぅっ!」
両側から恥ずかしさの混じった怒りの言葉が飛んでくる。
2人の声が耳に入った何人かの使用人や護衛の騎士達がこちらに視線を向けてきている。
側から見たら俺が2人をいじめているように見えたりするのだろうか?
そう見られたところで何も問題はないのだが。
俺は背もたれに預けていた体を起こすと左右の手をリリアとルルアそれぞれの腰に回し、自分の方に引き寄せた。
「「きゃっ」」
2人揃って短く可愛らしい悲鳴をあげながら俺の腕の中に収まる。
いかにも怒っていますよという顔をしながらこちらを見上げてきているのだが、どうにも可愛くて仕方がない。
「そう怒るな」
「怒りますよ。女性の匂いを勝手に嗅ぐなんて失礼ですっ」
「そうよ。謝ってレイス様」
どうやら謝らなければ許してはもらえないらしい。
「悪かった。これでいいか」
「なんか釈然としないけど‥‥」
「‥‥‥許してあげます」
しょうがなくといった感じだが許しをもらえたようだ。
2人は表情を柔らかくする。
俺はそれを見て2人と一緒に背もたれに体重をかけ、口を開く。
「それはそれとして、今夜一緒に寝るのは確定事項だ」
「えっ」
「なんだ、馬車の中で寝たいのか?それなりに体が痛くなると思うぞ」
「うっ。そ、それは‥‥‥」
「リリアは俺と一緒に寝るようだが?」
「えっ?ね、姉さん?」
ルルアが反対側のリリアに顔を向けると、リリアは困ったような微笑みを浮かべて言った。
「もう匂い嗅がれちゃいましたから、もう良いかなって。旦那様と一緒に寝れるのは純粋に嬉しいですし」
「だ、そうだが?」
「う、うぅ‥‥‥。わ、私も、一緒に寝る‥‥‥」
ちなみにごねていた割に2人はあっさりと眠りについた。
軽く胸をいじっても起きないほどには熟睡していた。
‥‥‥‥リリアの方が柔らかかったな。
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