野営にて (改)

 「‥‥‥起きてください、旦那様」

 「馬車が止まったわよ。起きて、レイス様」


 リリアとルルアが俺に呼びかける声が耳に入り、肩を軽く揺らされる。


 馬車が止まったのなら起きなければいけないが、もう少しこの微睡の中に居たい。

 そう思いつつ頭を少し横に動かすと違和感がある。


 最初に眠った時よりも顔に当たる感触が硬い。

 いや、柔らかさはあるのだがどことなく筋肉質のような感じのする硬さだ。

 ほんの少し目を開けて顔の下にある服の色を確認するが、眠る前に見た色と同じメイド服の白と黒だ。

 なら何故硬さが違う‥‥‥‥?


 ‥‥‥一つの可能性に思い至った。


 それを確認するべく首と一緒に視線を動かし、膝の持ち主の顔を確認する。

 ‥‥‥‥‥。


 「‥‥‥どうりで硬いわけだ」

 「レイス様、それ、どういう意味?」


 俺が頭を預けている膝の持ち主はルルアだった。

 いつの間にかリリアからルルアに変わっていたようだ。


 ルルアは体を鍛えているので見た目からは分かりにくいがだんだんと筋肉がついてきている。

 なのでそれに対応して体もだんだんと硬くなっているわけだ。


 それはそれで悪くないのだがこう言った部分で弊害があるとは。

 内側の筋肉だけ鍛える鍛錬を考えておこう。


 「言葉通りの意味だ。最近鍛えているせいか筋肉質になっていてリリアより感触が硬い」


 俺はルルアの膝から頭を上げ、起き上がりつつそう答える。


 「‥‥‥そうなるように私の体を弄ったのはレイス様でしょ」

 「なんのことだか」


 ルルアの誤解を招きそうな言葉を軽く受け流す。


 「‥‥‥ふんっ」

 「‥‥‥おい」


 ルルアは俺が惚けたのが気に入らなかったのか不満をあらわに俺の膝に倒れ込んできた。

 徹底抗戦の姿勢で退く気がない。

 

 リリアに助けを求めようと目を向けると、当てにならないことがよくわかった。


 「ずるいです‥‥‥。旦那様、ルルアの後で私も膝枕してください」


 俺が馬車から降りることができたのは30分後のことだった。




 =====




 馬車が止まったのは平原に流れる川の側だった。

 外はすでに夜の帷が降りており、焚き火が焚かれている馬車周辺以外は何も見えない。


 どうやら今日中に街に着くことは難しいのでここで野営を行うらしい。

 元々一日目は野営の予定だったらしく使用人達は特に困ることなく野営の準備を行なっている。


 俺は特にやることもないのでその様子を見ていることにする。


 「地面に直接座るのは気に入らんな。『地操作メイキング アース』」


 魔法を使って地面を操作する。

 地面を盛り上げ、成形し、硬質化、性質変化で土から石の性質に変化させる。


 「ふむ。思ったよりもいい出来だな」


 できたのは一見玉座のような見た目の椅子だ。

 横幅は広く3人ほどが余裕で座れる広さがある。

 まあ、その意味は言わずとも分かるだろう。


 俺がその真ん中に腰掛けると、それが当たり前のように寄り添う形で左右にリリアとルルアが座る。


 実は今使った魔法、かなりの練度が求められるレベルの高い技術なのだが、この2人は一ヶ月で何度か俺の魔法を見せたので驚くことはない。

 リリアに至っては魔法を学んでいるせいか興味深そうに自分が座っているものを観察している。


 だが、魔法を使ったのは人がいない場所だったので使用人達はもちろん父や妹、弟もこのことを知らない。

 なのでこの場にいる全員の目線がこちらに向いていた。

 誰も彼も驚きで顔中が満たされている。


 なので、あえてなんでもないふうに言ってやる。


 「気にするな。そのまま続けろ」

 

 使用人達は俺の言葉には逆らえないのでこちらを気にしつつも作業に戻る。


 そしてこちらに近づいてくる人影が二つ。

 いや、近づいてくる人影一つに飛び込んでくる人影一つが正しいな。

 その人影が誰かといえばーー


 「お兄様!い、今のはなんですか!?すごいです!」

 「まさかお前がそこまでの魔法を使えるとは知らなかった。一体、いつの間に覚えたんだ?」


 妹のシャルミリナと父のゴルドだ。


 一ヶ月前の出来事以前と全く同じ態度に戻ったシャルミリナの頭を撫でながら父に答える。


 「できれば聞かないでいただけると助かります。手札は隠しておきたいですから」

 「む、そうだな。私から聞くのはやめておこう」

 「ありがとうございます」

 

 父は実に物分かりがいい。

 余計な手間が省けて助かる。


 「私は!?お兄様、私には教えてくれますか!?」

 「ダメだな」

 「むぅ〜〜〜〜っ!」


 やっぱりシャルミリナはこっちの方がいいな。


 ちなみにクラインは少し離れた場所からこちらを憎々しげに睨んでいた。

 鬱陶しい。

 

 

 

 

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