出発 (改)

 帝都へ出発する当日になった。


 今回帝都へ行くのは当主である父、クライン、シャルミリナ、俺そしてその全員の世話をする使用人15人、護衛の騎士30人だ。

 大所帯での移動になってしまうが公爵家の人間が4人も行くのだから仕方がないだろう。

 

 支度を終えて表向き専属メイドという肩書きで同行させるメイド服に身を包んだリリアとルルアを連れて玄関ホールに向かう。

 そこではすでに今回帝都に向かう3人が待っていた。


 「お待たせして申し訳ありません、父上」

 「構わん。レミアとの別れもすませていないからな」


 父が口にしたレミアというのは父の妻、つまりは今世での俺の母親だ。

 母親といっても普段顔を合わせるのは食事の時くらいでそれ以外ではほとんど顔を合わせることはない。

 なので俺としては別れなんてしなくてもなんの問題もない。


 そうして少し待つと母が玄関ホールに現れた。

 母は父と当主が不在の間の屋敷の管理について話をし、その後何言か言葉を交わす。

 次にシャルミリナとクラインと話をし、シャルミリナを抱きしめた。

 そして俺の前に来た。


 「レイス、視察から帰ってきてそんなに期間が空いていないけれど大丈夫?」

 「はい。問題ありません」

 「そう。ならよかったわ。気をつけてね」

 「はい」


 会話はそう多くはないが、母の言葉の節々から俺を思いやる気持ちが感じられる。

 顔を合わせることは少なくとも愛情はあるということだろうか。


 そして別れを済ませるとそれぞれ馬車に乗り込み、母と屋敷に残る使用人達の見送りを受けて帝都に向けて出発した。




 =====




 「退屈だな」

 

  公爵邸を出発してから一時間。

 こうした移動中でも楽しむことができる娯楽の存在する前世を知っている身としては退屈でならない。

 視察の時のように魔力操作の鍛錬なんかをしてもいいのだが、そういった気分ではない。


 「私も暇」


 俺の言葉に続けてルルアもそう溢す。

 俺のように前世がなくても馬車での移動は退屈なものらしい。


 「ねえレイス様、帝都まで何日くらいかかるんだっけ?」

 「4日と半日」

 「長いな〜‥‥‥‥」


 そういいってルルアは馬車のシートに背を預ける。

 俺も同じようにシートに背を預けつつ、ここまで会話に加わってこないリリアに目を向ければ、一人静かに本を読んでいる。

 見えている本の内容から察するに魔法書だろう。


 最近リリアは回復系統の魔法書だけでなく攻撃系統の魔法書もよく読んでいる。

 本人曰く、俺の手助けをできるようになりつつ自衛手段を手に入れたいから、だそうだ。

 主目的に俺が関わっているあたりリリアらしいと思う。


 「旦那様、どうかされましたか?」


 俺が目線を向けていたのに気がついたのか、リリアが魔法書から顔を上げ声をかけてくる。

 

 「いや、特にこれと言って用はないが‥‥‥。そうだな、せっかくだ。膝を貸してくれ」

 「はい♪」


 リリアは膝の上に置いていた魔法書を閉じて横におくと膝をポンポンと叩いた。


 「どうぞ、旦那様」


 リリアは俺の隣に座っているのでそのまま体を横に倒し、頭を膝に預ける。

 程よい柔らかさとリリアの甘い香りに頭が包まれる。


 「どうですか旦那様?」

 「悪くない」

 「よかったです」


 俺の返事に嬉しそうにしているリリアは片手で俺の頭を撫で始めた。

 リリアは力加減がうまくだんだんと眠くなってきた。


 「リリア‥‥」

 「はい」

 「少し、眠る‥‥」

 「はい。馬車が止まったら起こしますね」

 「ああ‥‥頼む‥‥」


 俺は押し寄せてくる眠気の中にその意識を落とした。




 「視察の時もそうだったけど、馬車の中だと私って空気なの?」

 「後で譲ってあげますよ。だから拗ねないでください」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る