『パールシェリア』-4 (改)

 そんなこんなでようやくドレスのデザインを決め始める。


 ドレスのデザインは完全に俺の好みで決めてもいいのだが、2人とも昨日からとても楽しみにしている様子だったので好きに決めさせることにする。

 だが、貴族のパーティーで着るようなドレスとは無縁の生活を送っていた2人にはどういったものがあるのかわからない。

 なので店の商品を保管している倉庫の方で実物を見ながら決めようという話になった。


 そうして向かったのは四階建てである『パールシェリア』の地下。

 一階の店員専用通路の一番奥にある広い階段を降りていくと目の前に両開きの扉が現れた。


 「さあ、着いたわよ」

 

 イリーナは俺たちにそういうと扉に自分の手を押し当てる。

 すると扉全体に赤色の魔法陣が浮かび上がり、青色に変化すると解けるように消えた。


 今の魔法陣は魔力認識型の鍵だな。

 これはあらかじめ魔力を登録した者が手のひらを触れることで施錠が解除される仕組みの特殊な鍵だ。

 魔法陣の副効果として扉に強度増強の魔法を付与するので大きな商会や貴族の間で人気が高い。

 人気の服飾店であるからこその備えだろう。


 「どうぞ、入って」


 イリーナに促され中に入る。


 「わぁ‥‥‥‥」

 「すごい‥‥‥‥」


 中は倉庫とは思えないほど色とりどりの服やドレス、アクセサリーが綺麗に並べられており、床や壁、天井も木材を使用していて上の店内とそう変わらない。

 倉庫と言うよりも大きなクローゼットという方がしっくりくる。


 「2人とも中を自由に見てきていいわよ。気に入ったものがあったら服でもアクセサリーでもいいから持ってきて。レイが買ってくれるわよ」


 倉庫の中のものに見惚れていた2人に声をかけたイリーナがそう言って俺の方に目線を流してくる。

 2人を見ればリリアは申し訳なさそうにしながらもどこか期待するように、ルルアは思いっきり期待するようにこちらを見ている。


 ‥‥‥‥これをダメと言える人間がいるのなら連れてきてほしい。


 「好きなものをもってこい。金のことは気にするな。ただし、どんなドレスがいいかも決めろ」

 「ありがとうございます、旦那様」

 「ありがとう、レイス様っ。姉さん行こう」

 「ええ」


 2人はお礼もそこそこに倉庫の商品の中に突撃していった。

 その姿を見ているといつの間にか隣に立っていたイリーナが口を開く。


 「レイはあの子達に甘いわね」

 「悪いか」

 「いいえ。レイは初めて会った時から見た目以外変わらないと思っていたけど、それなりに変わっているわね」

 「‥‥‥‥」

 「でも、その原因が女の子なあたりお姉ちゃん心配だわ」

 「‥‥‥いつからお前は俺の姉になったんだ」

 「初めて会った時から、ね」


 そう言ってイリーナは嬉しそうに笑った。




 それから一時間ほど倉庫の入り口付近に待機していたが、一緒にいた方が2人が気に入ったものを運んでくる必要がなくなると、イリーナが言うので俺達も移動することになった。


 イリーナの本心としては暇になったから楽しそうな方に行きたいといったところだろう。

 

 リリアとルルアを探しつつ商品の中を歩いていく。

 どこを見ても服やドレス、アクセサリーが所狭しと置かれている。

 それなのにどれも質の良い状態で置いてあるあたりさすが人気店だ。


 周りの商品を眺めつつ歩いているとアクセサリーの置いてある一角に目線が吸い寄せられた。

 そちらに近寄ってみると、そこには指輪やネックレスが集められている。

 ガラスケースの中に入れられたそれらのアクセサリーはどれもが一目見て感嘆の息が漏れるほどの輝きと美しさを持っている。


 「レイはそこのアクセサリーが気になるの?」

 

 俺が足を止めたのに気がついたイリーナが隣から同じようにガラスケースを覗く。


 「ここに入っているのはどれもが一級品かつ一点物のアクセサリーよ」

 「そうか」


 イリーナの話を聞きつつもガラスケースから目線を逸らさない。

 これと言って欲しいものがあるわけではないのだが、なんとなく全てに目を通すべきだと考えてしまう。


 ガラスケースの中のアクセサリーに目を滑らせているとふと目が止まるものがあった。


 「イリーナ」

 「何?」

 「この二つのアクセサリー。合わせていくらだ?」




 =====




 俺とイリーナが2人と合流したのは入り口を出発してから10分経ってからだった。

 やたらと広いので2人を探すのに手間取った。


 2人は少し開けたスペースでいくつものドレスを自分の体に当てて確認しながらドレスを選んでいる。

 近くには何着かの服とアクセサリーが重ねて置かれている。

 おそらくあれがドレスとは別で2人が買いたいものだろう。


 「リリア、ルルア」

 「あ、旦那様」

 「ドレスのデザインは決まったか?」

 「はい」

 「私も決まったわ」


 2人は嬉しそうにそう言ってくる。

 イリーナはメモ帳とペンを持つと2人に近づいていく。


 「それじゃあ2人ともどんなデザインがいいか教えてくれる?」

  

 リリアとルルアの2人はいくつかのドレスを手にどういった形にしたいかをイリーナに伝え、イリーナはそれをメモ帳に書き込む。

 それは10分弱で終わり、イリーナは次に2人が購入する商品の値段を計算し始めた。


 商品を手に取りつつメモ帳に値段を書き込んでいるイリーナの動きがピタリと止まる。

 

 「リリアちゃん、ちょっとこっちに来てくれる?」

 「はい」

 「これ、リリアちゃんが欲しいものってことでいいのよね?」

 「‥‥‥‥っ。はい」

 「ならいいわ。頑張ってね」

 「ありがとうございます」


 何かリリアが選んだ商品のことで話しているらしいがここからではどんなものか見えないし、2人が具体的な言葉を使わないので予想することすらできない。

 イリーナと話し終わったリリアが俺のところに戻ってきた。


 「リリア、イリーナと何を話していたんだ?」

 「旦那様には秘密です♪」

 「そうか」


 一応聞いてみるが答えてはもらえなかった。

 まあ、いずれ教えてくれるだろう。



 ちなみに、この日使った金額は小さな屋敷が一つ買えるほどの値段だった。

 





 

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