誘い (改)

 公爵邸にある図書室の扉を開き中にはいると、本が持つ特有の匂いが鼻を通り抜け肺の中に入ってくる。

 図書室は吹き抜けの二階構造になっており、見渡す限りに本棚に収まった大量の本が見える。


 そんな図書室の一階。

 規則正しく並んだ本棚の間にあるいくつかのテーブルが置かれたスペースにリリアはいた。

 テーブルに大量の魔法書を積み重ね、その手に持つ魔法書にゆっくりと目を通している。

 俺が来たことにも気が付かないほど集中しているらしく近づいても魔法書から顔を上げようとする気配がない。


 ‥‥‥ふむ。

 リリアの隣にある椅子を引き、リリアの方を向いて座る。

 これでもまだ気が付かない。

 俺はリリアの顎に手を添えると、顔をこちらに向かせその瑞々しい唇に自らのそれを触れさせる。


 「んむっ‥‥‥‥」

 

 ここまでしてようやく気がついたのかリリアが目を見開く。

 だが、驚いたような表情をしていたのは一瞬ですぐに頬を赤く染め、恍惚の表情で唇を強く押し付けてくる。

 魔法書もテーブルに置いて両手を俺の首に回す。


 「んっ‥‥‥‥」


 こうして唇を強く押し付けられるとついつい舌を入れたくなってしまうのだが、それをするとリリアはしばらく動かなくなるので話ができなくなる。

 なので今回はリリアの唇を軽く舐めるだけで我慢して、口を離す。


 「ぁ‥‥‥‥」


 口を離すとリリアの口から切なそうな声が漏れる。


 「旦那様ぁ‥‥‥」


 ‥‥‥理性がやられそうだ。


 ぐっと堪え、ここに来た要件を話すことにする。


 「‥‥‥それはまた後でだ。先ほど決めたが、お前は3週間後俺と一緒に帝都に行く」

 「帝都、ですか?」


 不思議そうに首を傾げる可愛らしいリリアの姿を目に焼き付けつつ、先ほどのパーティーの件と魔法学院に通ってもらうことを話す。

 俺の話を最後まで黙って聞いていたリリアは特に驚くこともせず、微笑みを浮かべ当然のようにこう言った。


 「私は旦那様のものですから、旦那様がいるのならどこへでも行きますよ」

 「‥‥‥そうか」


 表面上はなんでもないかのように装えたと思うが、内心は驚き三割嬉しさ七割と言ったところだ。

 こんなことを言われるとは。

 ‥‥‥中々悪くない。


 「旦那様、パーティーのことでいくつかお聞きしたいのですが」

 「なんだ?」

 「そのパーティーに参加する時私はどのような肩書きで参加すればよろしいのでしょうか?」

 「俺の専属メイドだな」

 「わかりました。では当日はメイド服を着ていけばいいのでしょうか?」

 「違う」

 「えっ?」

 「リリアはドレスだ」


 リリアは専属メイドという肩書きで参加するのだからメイド服を着て行くと考えたのだろう。

 だが、リリアは専属メイドである以前に俺の女なので、メイド服でパーティーに参加させるわけがない。


 それにこういったパーティーでは使用人達が給仕を行う。

 その中にメイド服でリリアが参加すれば他の使用人達と同じように給仕をさせられるだろうから連れて行く意味がなくなるし、俺以外の人間にリリアが奉仕をするのは気に食わない。

 男の貴族に触れられでもしたら先程とは別の意味で理性が飛びかねない。

 会場を血の海にする訳にもいかないしな。


 こう言った理由を淡々とリリアに聞かせると、リリアは頬を赤く染め嬉しそうに笑っている。


 「ふふっ。旦那様の想いを感じれてすごく嬉しいです」

 「‥‥‥そうか」


 こういうことをサラッと言わないでほしい。

 

 しばらくの間嬉しそうにしていたリリアはある程度落ち着くとまた口を開いた。


 「もう一つ聞きたいのですが他には誰を連れて行くのですか?私だけということはないでしょうし」

 「ああ、ルルアとセリーナも連れて行く予定だ。レヴィアナは連れて行く必要はあまりないし、いつでも呼び出せるからな」

 「では、2人もドレスを?」

 「そうなるな」

 「でしたら、旦那様の好みのドレスを教えてくださいね。三つまで希望を叶えてあげられます」


 実に楽しそうにリリアは笑っている。

 ‥‥‥そういう楽しみ方もあるのか。

 第二皇子の婚約には微塵も興味がないが、リリア達の俺好みなドレス姿を見れると考えるとパーティーが少し楽しみになってきた。


 「それで、聞きたいことはこれだけか?」

 「はい」

 「それじゃあ俺はルルアのところに行くーーんむっ!?」


 話は済んだので席を立ち、ルルアのところに向かおうとしたらリリアに肩を抑え込まれ口を塞がれた。


 「んっ‥‥‥ちゅぅ‥‥‥はぁ‥‥。話が終わったら続きをしてくれる約束でしょう?旦那様」

 「‥‥‥後でするとは言ったが、話の後とはーーんむっ」


 問答無用で口を塞がれる。

 まあ、これはこれで心地いいのでいいか。




 だが、何事にも限度というものはあるわけで。

 流石に一時間以上もキスをし続け、終わる気配がないとなれば強制的に終了させる。

 

 少し開いているリリアの唇の間に舌を滑り込ませ、リリアの口内を蹂躙する。

 リリアの歯をなぞるように舌を動かし、舌同士を絡ませる。

 最初は焦らすように、次第に激しく。

 

 「んんっ‥‥‥んぁ‥‥‥はぁ‥‥んむっ‥‥」


 あっという間にリリアの体から力が抜けていく。

 リリアをそっと椅子に座らせる。


 「ふぅ‥‥‥。口の周りが‥‥‥」


 口の周りをハンカチで拭いつつ図書室を出てルルアのもとに向かった。




 最終的に、連れて行くのはリリアとルルアで、セリーナは行かないことに決まった。

 セリーナが行かない理由だが、


 「私が行ったら皆私に集中しちゃって意味がなくなるでしょう?奴隷オークションの会場でアレだったんだから」


 ということだ。

 

 セリーナは場の空気を支配するほど容姿が完璧だからな。

 連れて行ったら面倒な問題が起きそうだし、これが正解だろう。

 

 ドレス姿が見れないのは残念だが。


 


 


 

 

 

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