呼び出し (改)

 メイドの言伝を聞き、父がいる執務室に向かう。


 執務室の扉を三度ノックすると中から父の入室を促す声が聞こえたので、扉を開き中に入る。

 てっきり呼ばれたのは俺1人だと思っていたが、執務室のには妹のシャルミリナと弟のクラインがいた。


 シャルミリナは1ヶ月前の出来事以来、俺にどう接するべきかわからなくなったようで以前よりも言葉を交わす回数が減ったが、最近ではだんだんと元の関係に戻りつつある。

 一方クラインはあの出来事以来俺と話すことは全くなくなり、さらには姿を見ただけで憎悪のこもった瞳で睨んでくる。

 今も例に漏れず睨んできているので正直、鬱陶しい。


 内心そんなことを考えつつもそれを表情に出さず、2人と同じ位置まで進む。

 俺が2人と同じ位置に立ったところで執務机の椅子に腰掛けていた父が口を開いた。


 「いきなり呼び立ててすまないな3人とも」

 「前置きは結構です、父上。要件をお願いします」


 先程メイドにセリーナとの時間を邪魔されたのは元はといえば父のせいなので、表情には出さずとも、自然と態度に出てしまう。


 「そうだな。お前達にもするべきことがあるだろうから手短に説明しよう。今回呼んだのは近々開かれる第二皇子殿下の婚約発表のパーティーの件だ」

 「婚約発表のパーティー、ですか?」

 「そうだ」


 シャルミリナが父の言葉を繰り返す。


 「先日、第二王子殿下の婚約が決定したのでその正式発表を行うためのパーティーだ」

 「お相手は誰なのでしょうか?」

 「リシャール公爵家の長女、ミリアンナ嬢だ」


 ミリアンナか。

 懐かしい名前だな。


 ミリアンナとは同じ公爵家ということで何度か顔を合わせたことがある。

 確か俺と同じ歳だったと思うが、最後に会ったのが何年も前のことなのではっきりと覚えていない。


 「話を戻すが、今回のパーティーはお二人の婚約発表の以外にもう一つ目的がある」

 「‥‥‥‥?それはなんでしょうか?」


 シャルミリナが首を少し傾けて父に問う。


 「第二皇子殿下が2年後に入学する高等魔法学院および卒業後の補佐候補を探すことだ。そのため殿下と同じ歳はもちろん、歳の差2つまでの貴族の子息令嬢がパーティーへ参加することになっている」


 ふむ。補佐、つまりは取り巻きということか。

 だが、皇子の取り巻きとなればそれは貴族子息のことを示すので、この場にシャルミリナを呼ぶ必要はなかったはずだ。

 なのにシャルミリナも呼ばれたということは、このパーティーは3つ目の目的として第二皇子の側室探しも兼ねているのだろう。

 とは言っても公爵家の人間を側室にすることはあり得ないので、シャルミリナは形だけの参加になる。

 他の貴族令嬢が招待されている中公爵令嬢だけ招待されないのは体裁が悪いからな。


 そんなことを考えている間も父の話は進み、日取りの話に入っていた。


 「婚約発表のパーティーは一月後に開かれる。なのでその1週間前、つまりは3週間後にここを出発する。それまでに準備を整えておくように」

 「「はい」」

 「うむ。もう行っていいぞ」


 父の言葉にシャルミリナとクラインはそのまま執務室を出て行く。

 2人が出ていき、完全に扉が閉まったタイミングで俺は父に切り出す。


 「父上、1つお願いがあるのですが」

 「なんだ?」 

 「はい。すでに聞き及んでいるとは思いますが、一月前の出来事でクラインと長時間同じ空間にいるのは問題があるかと思いますので私だけ別の馬車で行かせていただきたいのです」


 これは建前だ。

 クラインが同じ空間にいようがいまいが俺にはあまり関係ない。


 なら何故別の馬車を用意しようとしているか。

 その理由は単純。

 リリアとルルア、セリーナを連れて行くためだ。

 

 俺は2年後に入学することになっている高等魔法学院にリリアとルルアも入学させようと考えている。

 魔法学院は帝国内から多くの平民や貴族が入学してくる。

 学院内では平民と貴族でクラスが分けられるが、同じ学院内であれば貴族と接する機会が嫌でも多くなる。

 そのため貴族への対応や貴族になれさせるために今回のパーティーに連れて行こうと考えているのだ。


 だが馬車が一台の場合、帝都に行くまで3人と別の馬車での移動になり、パーティーに連れて行くことも困難となる。

 なので3人と同じ馬車に乗るためにも、パーティーに連れて行くためにも別の馬車が欲しいのだ。


 父は俺の言葉に少しの間を開けて答えた。


 「わかった、もう一台馬車を用意しよう。パーティー前に気疲れをされても困るしな」

 「ありがとうございます」

 「だが、今すぐとは言わんがそのうちクラインとの仲を回復させておけ」

 「善処します。では、失礼します」


 最後の父の言葉を受け流し、執務室の外に出る。

 扉を完全に閉めると足をリリアがいるであろう図書室の方へ向ける。


 「さて。あいつらにはどんなドレスが似合うか‥‥‥」

 

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