帰還と双子-2 (改)

 『ロード・オブ・ジャスティス』というゲームは主人公の選択によって複数のルートに物語が分岐する。

 その複数あるルートのどれを選んでもレイスは最終的には死んでしまう。

 そしてその死因のほとんどに間接的または直接的に関わってくるのが弟であるクライン・ヒーヴィルだ。


 クラインはシャルミリナとは双子の兄妹という関係であるため、その容姿は方向性は違えど整っているという点では同じである

 その容姿は柔らかさを持ち爽やかな印象を受けるものであり、社交界やパーティーに出席すれば貴族令嬢が常に側によってくる。

 それに加え身体能力が高く頭も切れるため現在ではヒーヴィル公爵家の人間としてレイスよりも認知されている。

 そんなクラインが何故レイスを殺そうとするのかといえば、主人公と同じくその性格が理由である。


 クラインは主人公と同じく正義感がとても強い。

 主人公ほど真っ直ぐではなく清濁併せ呑むことができるが、それでも普通の人より正義感が強い。

 だが、その正義感で欠点とも言えることが一つ。


 それは思い込みが激しいことだ。


 クラインは公爵家の嫡男ではないとは言えそれなりの権力を持ち、自身の優れた身体能力と合わせほとんどのことを実行し成功させてきた。

 それゆえに自分の考えを疑わず、それが正しいと思い込む。


 そのため正義感とは真逆の行動を取るレイスを完全なる悪と見做して殺すのだ。




 =====




 そしてその性格は俺が転生したこちらでも変わることはない。

 現時点ではクラインが悪と見なすような行動をしていないため、好かれても嫌われてもおらず多少距離のある兄弟という関係だ。


 だが、それも今日までだろう。


 「おかえりなさい、兄上。視察はどうでしたか?」

 「特に問題はなかったな」

 「そうですか。ところでそちらの女性達は?」


 クラインがリリア達に目を向ける。

 それに釣られるようにシャルミリナも俺の方から覗くようにしてリリア達を見る。


 「視察先で見つけた者たちだ。俺の専属メイドにする」

 「そうですか‥‥‥‥」

 「むー‥‥‥‥お兄様、専属メイドを増やすのですか?」


 俺の言葉にシャルミリナは頬を膨らませて不満を表し、クラインはリリア達を観察するかのように視線を動かしている。

 そしてその視線はセリーナでピタリと動きを止めた。 

 正確にはセリーナの首に刻まれた奴隷紋だ。


 「ーー兄上」

 「なんだ?」

 「そちらの銀髪の女性の首についているものは、なんですか‥‥‥?」

 

 クラインが声を震わせながら俺に尋ねてくる。

 

 「見ての通り奴隷紋だが?」


 俺が当然のようにそう答えればクラインは怒りに染めた顔をこちらに向けた。


 「どういうことですか!?奴隷は帝国では禁止されているはずです!?何故視察に行った兄上が奴隷を連れて帰ってくるのです!?」

 

 ギャンギャンと顔の近くでうるさい。

 それにコイツ特有の思い込みがすでに発生している。


 「お前は一体何を言っている?」

 「は‥‥‥‥」


 クラインの顔から怒りの色が抜け落ち、代わりに困惑でその顔が満たされる。


 「帝国で奴隷制度は禁止されていない。もう一度帝国の法を学び直せ愚か者」

 「なっ‥‥‥。そんなはずはありません!僕は確かに帝国で奴隷は禁止されていると!」


 困惑に満たされた顔を再び怒りに染めたクラインがそう口にする。


 コイツの家庭教師は何を教えたのだろうか?


 俺はため息を吐きだし、口を開く

 

 「だとしたらお前の理解度が足りないだけだな。確かに近年帝国では奴隷制度に反対する声が多く上がっていて、大々的に奴隷売買が行われることは無くなった。だが、奴隷制度が禁止されたわけではない。奴隷を売買しても、所有しても罪に問われることはない」

 「だ、だとしても!その行為は人として許されることではありません!今すぐ彼女を奴隷から解放してください!」

 「断る」

 「は‥‥‥‥」


 今度はクラインの顔が愕然とした表情になる。

 ‥‥‥面白いなコイツ。他にどんな表情があるのか気になるな。


 まあ、それはともかく。

 やっぱり、さも自分が正しいかのように物を言ってくる奴は嫌いだ。

 実に不愉快極まりない。


 「何故俺がお前に指図されなければならない?コイツは俺自身が稼いだ金を使って買ったんだ。文句を言われる筋合いはないぞ」

 「あ‥‥‥ぅ‥‥‥」


 魔力を解放し、威圧感を放ちながら言うとクラインは言葉を出せなくなっている。


 「それに人として許されることではないと言ったか。では聞こう。人として許されることとはどの程度までのことを言うのだ?奴隷制度は本当に許されないことか?奴隷制度が存在するおかげで発展した国があり、奴隷制度のおかげで救われた人間もいる。それは事実としてこの世に存在する。それでもまだお前は奴隷制度を許されないことだと言えるのか?」

 「ぁ‥‥‥‥‥」


 もう話はできそうにないな。


 「行くぞ」

 「は、はい」

 「‥‥‥‥‥」


 言葉を発しなくなったクラインを置いて自室に向かう。

 その後から返事をしたリリアとリリアに手を引かれるルルア、セリーナとレヴィアナが付いてくる。

 そして歩き出してすぐに今にも消えそうなクラインの声が聞こえてきた。


 「ゆ、許さない‥‥‥。きっと、後悔しますよ、兄上‥‥‥」


 おそらく憎悪に満ちた瞳でこちらを見ていたのだろうが俺は全く気にしていなかった。


 「シャルにも嫌われたか‥‥‥‥?」


 クラインよりもあそこに置いてきた妹にも嫌われたかもしれないと言うことの方が大事だったからだ。

 

 

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