『回復』の聖女-1 (改)
「やれ」
リーダー格らしき人物が指示を出すと外套を被った奴らのうち二人がこちらに向かってきた。
こちらの視界に入らないようにその2人の後ろからもう1人来ているな。
俺は剣を取り出すことも魔法の準備をすることもなく口を開いた。
「レヴィアナ、今指示を出した奴以外を殺せ」
「承知しました」
俺の命令に従って前に出てきたレヴィアナは懐から短剣を取り出し、自らの腕を切り裂く。
腕に生まれた傷口から血が流れ出し、レヴィアナの腕を伝う。
「気でも狂ったか」
それを見て外套を纏った者達はは嘲笑を浮かべるが、次の瞬間にはその顔から表情が消え、瞳から光が消えた。
外套を纏った者達は俺達のいる方向とは真反対の方向に飛んでいき、その勢いのまま地面に体を打ちつけて動かなくなった。
地面に倒れ伏す三つの死体の胸にはぽっかりと穴が空き、そこから流れ出した血が地面を赤黒く染め上げている。
「『
血の流れ落ちる手を前に翳したままの姿勢でレヴィアナがそう呟く。
『
この魔法は体内に流れる血を槍の形に変化させ、相手に攻撃する魔法だ。
槍の大きさや威力は血の量や圧縮具合によって変化するが、体内に一定量の血液を保有しておかなければ活動することができない人間では小さく弱いものしか放つことはできない。
その点、悪魔であるレヴィアナは魂が本体のようなものなので、体内の血液の量が減っても活動に支障が出ることはなく、槍の大きさや威力が自由だ。
その魔法によって瞬く間に3人が死亡し、残りの一人もーー
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
足を貫かれていた。
芋虫のように地面を這いずり回っている様がなんとも面白いがこのまま死んでしまっては生かした意味がない。
俺は地面を転がり回ったために外套のフードが外れ、素顔が見えている男に近づくと髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。
涙やら鼻水やら土やらで汚れた顔は実に汚らしい。
「お前の所属、ここにきた目的、その理由を答えろ」
「ぐ、だ、誰が、貴様なんぞに‥‥‥」
「そうか」
俺は魔力を操作し頭を掴んでいる方の腕に集中させ、組み上げた。
「『
「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
本来この魔法は記憶を吸収するだけの代物だ。
だが、必要魔力の倍以上の魔力を込めると耐え難い苦痛が全身を駆け巡り、さらにその苦痛によって脳が破壊されることを発見してからはもっぱらそちらの方向で魔法を使っている。
魔法によって引き出した情報によると、こいつらは他領の貴族が送ってきた暗部の人間らしい。
そしてこいつらを送ってきた他領の貴族というのがレッサー侯爵。
確かレッサー侯爵は次期宰相として次の宰相の地位を約束されていた人物だったか。
だが、皇帝が俺の父を宰相の地位につかせたことでそれがなくなってしまったため、父をとてつもなく恨んでいると。
そして、その恨みを晴らすために父を失脚させようとしたらしい。
その失脚させる方法というのが先ほど言い争っていた少女、正確には言い争っていた少女の姉に関係があるようだ。
とはいえ、この少女の姉の情報については直接確認しなければならない。
下手をしたら実に面倒なことになる。
俺は髪を掴んでいた男を投げ捨てると、今の出来事のショックで地面にへたり込んでいる少女の方を向いた。
少女は怯えたようにビクッと体を震わせた。
「安心しろ。お前には何もしない。それよりもお前の姉に会わせろ」
少女の姉に会わせろというと少女は一瞬前の怯えた様子がすぐに消え、警戒心を露わにしてきた。
「あ、あなたも姉さんの力が目的なの?だとしたら私はここを絶対に退かない!」
「‥‥‥‥‥それは、俺が貴族だとしてもか?自分の命がなくなると分かっていてもお前はそこを退かないのか?」
「退かない!たとえ相手が貴族でも王族でも私はここを退かない!」
俺の質問に対して即答した少女の瞳には警戒心の他に覚悟と決意が滲んでいた。
‥‥‥‥‥‥‥面白い。
「気に入った。いいだろう。レイス・ヒーヴィルの名においてお前達を俺の庇護下におこう」
「庇護下に、おく?」
「そこに転がっているような奴らからお前たちを守り、豊かな生活を送らせてやるということだ」
「‥‥‥‥‥信用できない」
少女は疑うような目を向けてくる。
気持ちは分からんでもないが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「信じるも信じないも自由だが、そこは通してもらうぞ」
「ちょっと!」
少女を押し退けて扉を開き中にはいる。
部屋は狭くすぐに全体を把握することができる。
そして部屋に置かれた一つのベットの上にその人物がいた。
俺はその人物の近くに歩み寄り、質問をしようとしたができなかった。
その人物、俺よりも年上であろう少女は不規則に苦しそうな呼吸をしていた。
彼女は病に犯されていたのだ。
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