第四章 叛逆/灰の魔導士

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 ――現在、アルデリア王国北東部交易都市ヴェルディア。

 件の化け物『赤騎馬』が最後に報告された森の入り口にて、総勢二十七名が討伐隊に編成された。アディンは初め人数が少ないのではと思ったが、前回の討伐作戦での悲惨な結果を噂で聞いて、ここまで集められたのは上々なのではいかとすぐに考えを改めた。

 アディンとゼノビアのもとに一組の冒険者パーティーが近づいて来た。

「おいおい、あんたが噂の勇者さんかぁ? まだガキじゃねえか、しかも女」

 声の主は二メートル近い巨体をもつ男だった。重苦しい防具で日に焼けた肌を覆っている。力はあるが、俊敏性がないというのがアディンの評価だった。

「私に何のようだ」

 ゼノビアが冷たく男に言い放つ。その視線を受けて、男は肩をすくめた。

「おお怖いこわい。そんな仏頂面じゃあ、男もよって来ねぇぞ。欲を吐き出す相手もいなくて、カリカリしているのは分かるけどよぉ。それともなにか、俺様が相手になってやろうか?」

 男の後ろにいるパーティメンバーと思われる二人の男と一人の女がクスクスと嗤う。次に彼の視線がアディンに移った。

「おっここに男がいたなぁ。なんだその髪。オークの小便で染めてるのか?」

 再び後ろでどっ、笑いが引きおこる。

 そこでシュッ、と空気を切り裂く音がした。ゼノビアが腰に差した長剣を引き抜き、男の鼻先へと剣先を向けたのだ。その抜剣はフェンリとの修行で培ったアディンの動体視力ですら見えないものだった。

「うっ⁉」

「私を侮辱するのは構わない。だが、私の友人を侮辱することは許さない」

 その怒気に当てられてか、男達は去って行った。

 一悶着が終わったのを確認し鎧を着た騎士風の男が皆の前に出て話し出した。

「私は領主の代理でここにきたロズウェルだ。早速だがこれから標的名を統一する。標的の名は『赤騎馬』だ。血のように赤い馬と騎士のような姿をした者が乗っている姿をしているという報告からこの名前にした。依頼主はこの交易都市の領主様だ。報酬金は期待してもらっていい」

 依頼主である領主の代理人がそう言うと、どっ!と冒険者達から歓声が上がる。

「これから5つの班に分かれて行動してもらう。手分けして赤騎馬を探し見つけ次第、空中に向けてこの魔道具を打ち、サインを送れ。5つの班で合流し、この化け物を皆で叩く」

「けっ、そんなのいるかよ。その化け物たちは俺たち四人で十分だ」

 やはりというべきか、そう言うのは先程ゼノビアに暴言を吐いた大男だった。

「待て、敵の正体がまだはっきりとわかっていない以上、うかつに少人数で仕掛けるのは危険すぎる」

「抜かせ腰抜けが。お前それでも勇者か」

 ゼノビアの忠告をはねのける大男。

「俺たち四人が化け物の死骸を持ち帰るところを見せてやる」

「その傲慢さが命取りになるぞ」

 ゼノビアの言葉に耳を傾けず、大男を含めた四人のメンバーが森の中へ入っていった。

 他の討伐隊のメンバーも各々で班を作る。そして、彼らもまた森の中へと入っていった。

 残されたのは、アディンとゼノビアのみ。

「行こうか、アディン」

「ああ、行こう」

 そして、この二人もまた森の中へと足を踏み入れた。

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