014 

 交易都市ヴェルディア。アルデリア王国の北東部に位置し、富んだ霊脈によって自然が作り出した魔鉱石の採掘と諸外国との利便性の高い交易によって発展した大都市である。

 流通の要所を占めるこの街には多くの行商人や旅人、冒険者や魔術師が行き交いしていた。

 大きな荷物を運ぶ場所を追いかける子どもたちの様子が微笑ましい。

 朝の時間帯ということもあってか、人々は商いの準備に忙しい。

 その大通りをアディンとゼノビアが歩く。

 アディンはこの地方には珍しい黒髪にすれ違う人々の視線を集めている。

 一方のゼノビアはというと、その美しい白銀の髪を外套のフードですっぽりと隠していた。

「今度服を買う機会があったら、フード付きのものにするよ」

「そのきれいな黒髪を隠すつもりなのか? もったいない」

「僕は目立つことが嫌いなんだ」

 そういうとゼノビアがふふっと微笑んだ。

「ゼノビアはそのフードを外さないのか?」

「私がフードを外したら、この通りがちょっとしたお祭り騒ぎになってしまうよ。私はこう見えて有名人だからね」

「はいはい」

 二人が並んで歩いていると、前方に不恰好な鎧に身を包んだ冒険者パーティーの姿があった。

 身に包む鎧や剣が真新しい。その表情には微かに緊張と期待に満ちた表情が混在していた。

 年齢はアディンと同じ十八と同じかそれより少し下であろう。これから初めて仲間とともに冒険に行こうとしている新人ルーキーであることはアディンの目から見ても明らかだった。

「今日のゴブリン退治でドベだったやつが飯奢りな!」

「ちょっと勝手に決めないでよ、初めての依頼なんだから、まずは成功させることが最優先でしょ!」

「相手はゴブリンだろ? だったらオレの剣術の方が強えし、余裕だって」

「相手はゴブリンでも、油断しないようにしなきゃでしょ!!」

 パーティーの少年と少女の会話を聞き流しながら、アディンとゼノビアは彼らの側を通り過ぎる。

「あれだけ慎重な女の子がいたらあのパーティーは安心だな」

 新人ルーキーたちから離れたところでゼノビアが呟いた。

「だね。いくら弱いと言ってもゴブリンはモンスターだ。用心することに越したことはない」

 アディンが新人たちに振り返る。

 初めての冒険に胸を躍らせ、不安や緊張を払拭するように仲間に冗談を言う少年と、仲間が暴走をしないように慎重に諭す少女。そして彼ら二人のやり取りを見て笑みを浮かべるその仲間たち。

 実にいいパーティーだ。願わくば彼らの初陣がよきものでありますように。

 アディンはそう心で願い、ゼノビアの方を向いた。

「なあ、ゼノビア――」

 次の行き場所について聞こうとしたアディンはそこで言葉をやめた。

 ゼノビアが新人の冒険者たちの様子を見て、微かに涙を浮かべていたのある。それはまるでどこか懐かしむように、子どもの頃によく遊んだ場所に久しぶり訪れたかのように。

 ゼノビアはただ感傷に浸っていた。

 思えばアディンが初めて会った時からゼノビアはパーティーに所属していなかった。 

 ゼノビアの勇者の肩書きと実力、そしてその美貌であれば冒険者パーティーから誘いを受けても不思議ではないはずだ。勇者は特定の冒険者パーティーに所属してはいけない、なんて決まりがない限りゼノビアがソロで活動しているのは少し不自然だ。

(これは何か訳でもあるのか?)

 なんとなくこれ以上は踏み込んではいけないと躊躇させていると、ゼノビアが勤めて明るく振る舞った。

「すまない、目にごみが入ったようだ。そうだ、交易都市名物のドラゴンピザを食べに行こう! すぐに並ばないと食べられないからな」

 ゼノビアがアディンの手を引っ張る。その握った手は予想以上に力強かった。

 

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