第2話
四
数日後、
博海はそれを受け取り
粗方の内容を察知した紬は「引き寄せて終った以上、仕方のないことです」と、腹を括ったように、凛々しく言い放った。
栞は辺りを確認し「どうしたら善い? の」と、
「そう
「ならば、
「良いわよ、
栞は言うと、肩をすぼめたまま、出て行こうとした。
そこへ
「な~に、お母さん」と、祷が現れた。
「かなちゃんをお迎えに行ってくれないかな」
祷は笑顔で、「解った」と言い、紬と栞を掻き分けて靴を履き、飛び出して行った。
それを見送った紬は
「子供は来客に敏感よ。
漸くして、祷が、
「かなちゃん、お寿司をとったから、みんなで食べようね」
「有り難う、
「そうかい。なら善かった。おめでたくないけど、厄祓いしようね」
「バカなこと言ってないで、
「有り難う、
「ダメだよ、お父さん。おばさんを泣かしちゃ」
「違うのよ祷ちゃん。これは、嬉し涙なのよ」
「さぁさあ」
紬が手招きして、ぞろぞろと連なって、部屋うちに入って行った。嵐の前の静けさも、家族の団欒の前では、影を忍ばすしかできないでいた。
五
帳が地上を
祷の好奇心が、眠気を遠ざけ、祷を
「博正の無鉄砲にも、呆れたものだな」
「超えてはいけないものほど、越えたがるものですよ」
「幼児心理? ってことかい」
「好奇心旺盛なのは確かだけど、今回はやり過ごすことのできない状況だったんじゃないかしら」
「どういうこと? なの、栞」
「こうなったから話すけど、
「
「
「両親が死亡して、養女になったことね。
「ならば、博正が、うさぎ赤瞳さんと文通していることを知っている以上、探している真実も解る? わよね」
「男の子が産まれないからな。だからと言って、赤の他人が知っている理由にはならないぞ」
「神の眼、の恐ろしさは、理解しているわよね」
「人に見えないものが視えるだけ? だろう」
「それは、義兄さんの
博海が、紬の顔色を窺った。
「そうかもね? でもそれは、乙女の意志よ」
「紬さんの、知っていることを教えてよ」
紬は俯いたが、閃いたように顔を挙げて、話し始めた。
「
「先読み? だから先読みのできるなんちゃって科学者との連絡に拘ったのか」
「いえ、それは違うわ。冊子を持ち込んだ時のことを、
「あれから
「歯車が噛み合ったとしても、動力になるには、時間が掛かる? ってことじゃないのかな」
「なら訊くが、何故今? なんだ」
「祷にしても、夢にしても、
「そう来たか?
「博正さんの不注意で、なにかしらの
「
「
「そうね。嘘を本当にするために、嘘をつき続けたのが、現在ですもんね」
「だとしたら、嘘の犠牲になるんだから、せめて真実を知りたいわよね」
「まだ、犠牲になると決まった訳じゃないぞ」
「今回の手紙が、それを教えているわよ」
「そうもとれるが、
「それは楽観視し過ぎです。相手が
「そうやって、乙女さんは命を落としたのよ」
「北条が平家の
「武田家が、真田家を十二神将に
「ねぇ、
「博正さんと、うさぎさんの文面から察するに、結界の中? なんじゃないかな」
「そこしか、考えられないもんね。どのくらい、あるのかな?」
「
「発掘される古代の秘宝は、そんなものばかりだもんね。手にしたいという欲は湧かないのかなぁ」
「なんちゃって科学者は、欲に
「もののけ、 ってことなのね」
「
「それが本音だから、善く想ってない訳ね」
「総てが想いだからな。でもその想いを
「際限がないのが欲だもんね」
栞の言葉に各々が、妄想に取り込まれていた。
六
「
「多分になるけれど
「どうして?
「戦争で、乙女さんが護った血が、失われたからよ」
「それが、事実? なのか」
「うさぎさんが生きていれば、視ることも可能なはずだけど、抹殺された現実が、鍵を握るはずよ」
「ならば、博正も抹殺される? よね」
「なら、直ぐに止めさせなくては」
「もう、遅いわ。
雲海夫婦が宙を見上げ、神頼みするように、手を併せていた。
「博正は、豊臣家が、中臣家の血縁と言っていたわ」
「平家が再び実権を握った、とは、口が裂けても言えないですからね」
「百姓から関白まで上り詰めるなんて、夢にも視れない世の中なはず? だよな。戦国時代なんだから」
「同じように、夢の大安売りで、夢を観れなくしたのが、敗戦後の時代背景だもんね。もし、
「そうかも知れん。後は、どうするか? しか残らんからな」
「先ずは、祷と夢を護り抜くだけよね、
「それは禁句よ? 栞」
「この期に及んでも、体面に拘る? の、
「別々の方が、安全だ、と、四人で協議したでしょう、栞」
「
「そうかしら、双子(祷と夢)を産んだのは、
「
「かも知れないけれど、祷の知っていることと、夢の知っていることがちぐはぐなら、最終的に殺されるんじゃないかな」
「うさぎさんは、『最後の最期は、自らが決断して生き延びるしかない』と、綴っていたろうが」
「抹殺されても残すことに拘った『冊子』のことよね」
「絶版という、世の中から抹殺されることを回避するための手段でしかないはずだからな」
「それでも、博正は、うさぎさんに辿り着けたわ。博正曰く、文通に
「電磁波のことよね」
「
「だからそれを、悟り(疎通の解放)と定めたんでしょう。
「神の眼はあれど、神の耳はないみたいだからな」
「五感は補うものよ。人間は錯覚を克服できないようだからね」
「それすらも、『選ばれし者』の宿命のような気もするがな」
「それが、あの
「どういうこと? だい」
「ある会見で、視ている子供たちのために、
「その人それぞれの立場はあると思うが、陽の目の当たった者と、そうでない者の違いは生ずるからな」
「その言葉が出た時点で、誠意は神棚の上に措かれてしまっているわ。犯罪行為だけ憎んで、犯罪人を憎まずなんて、綺麗ごとでしかないんだからね」
「栞は、祷と、夢に向かって、自分の身は、自分で護れ? と言えるの」
「犠牲になるくらいなら、それもあり? でしょう」
「その良心が、生死を分けるとしても? それこそが、親の傲慢にならないかしら」
「生き延びる覚悟って、それくらい大事なはず」
「言わんとすることは解るが、まだ小学生の双子に、そこまで強要できんだろう。
「だから、神の眼を持つ、うさぎさんに視てもらいたいんでしょう」
「そこまで想っていても、血縁のない
紬の言葉に、栞がなにかを閃いた。
「うさぎさんは、裏切り者に殺されたよね」
「本当の死か解らないぞ? なにせ物語だからな」
「裏切り者ではなく、裏切らせた者よ。組織の中にそういう資質を持つ者を創ったら? どうかしら」
「博正に訊いてみるわね」
「今宵は
「果報は寝て待て、と言うからな」
博海の言葉で、会議の終了となった。
母たちが添い寝に来ることを悟った双子が、狸寝入りをして待っている。そうとは知らない、紬と、栞が、抜き脚差し脚でやって来て、隣に横たわり、ゆめの中に堕ちていくのに、
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