8
マイがミラを認証をして扉を開けてくれる。部屋に入ると奥の明かりが付いていることに気がついた。照明の管理はマイがしてくれているので、つけっぱなしということはありえない。
「兄さん?いるの?」
奥から「ああ」という声が帰ってきた。マイと会話していれば、兄が帰っていることには気づいたはずだが、そういえば一言も発することなくここまで戻ってきたのだった。
抱えた配送物も、よく見ると兄宛だ。はるばる地球からである。
「荷物、持っていくよ」
「うん」まあ、この兄の反応はいつもこんなものだ。
ミラと兄、ヘイゾウは一つの部屋を使っていた。これは、兄妹二人でも、家族で住むとなればファミリータイプの割当を受けることができるというのが主たる理由だった。なにせ二人共持ち物が多く、これは好都合だったのだ。ミラは「兄と同居」ということに何らのプレッシャーも感じることは無いのだが、実際問題としてはこのようにひとつ屋根の下に二人揃うことは年に何回もなく、一人で住もうが二人で住もうがあまり関係はなかった。
兄は奥の自室でいつもどおり、いい加減な服装で双眼顕微鏡を覗きながら作業をしていた。かすかに何かを焼くような匂いがする。
「はい、荷物。なあに?これ」
彼はそれを受け取ると、箱を開けてみせた。
「こっちがintelの80286。こっちは80287だ。これはCyrixのCx486SLC。動作品のはずなんだけどな。ちゃんと動くやつはまず無い」
兄の趣味の骨董品である。あれも貴重だ、これも貴重だと言って1900年台後半の部品類を買い込んでくる。火星に博物館でも作るつもりだろうか?
兄へイゾウはミラの見るところ自分の二倍くらいは天才だった。この火星ですら兄の頭脳は特別視されていた。その代償であろうか、自分の三倍は駄目人間だった。
元々の専門は電子工学、通信工学、AIエンジニアリング。ここに来てからエネルギー伝送工学も専門に加えたらしい。いずれも、ミラにはさっぱりわからないジャンルだ。
ただ、博学タイプのミラと違い、自分の興味のあることを集中的に学ぶ人で、ミラから見ると時折「無知だ」と感じることもあった。
少年の頃から抜群の成績と実績を挙げ、ミラよりはやいスピードで最初の学位を取った。すでにその時点から多くの企業、大学から就職の引き合いがあったが、さらに大学で専門を増やすと、突然、開発局に入り火星移民となった。
そのきらびやかな経歴と裏腹に、私生活はひどいものだった。先ほどのように好きなものを好きなだけ買って積み上げる。ほっとけば部屋の中は服が散乱。身づくろいには全く頓着しない。休みはごらんのとおり、工作してるか、本を読んでいるか、論文を書いているか。食事はしているのかいないのかわからない。だが、ミラが積極的に干渉するとかなり改善されるところがあり、そのことが「この兄は私がいなきゃダメだ」と彼女に思わせてしまう原因となっていた。
彼が火星に行くと言い出した時、ミラは相当うろたえた。そんなことをしたら三か月で干からびるのではないかと思ったからだ。実際はそんなことはなく、兄はちゃんと火星で生き延びていた。その事実を知り、ミラは本当は自分の方が少し兄に寄りかかっていたのではないかと感じた。
軽度のブラコン。それがミラの自己診断であった。自覚があるからいいのだとミラは割り切っていた。
現在、兄は開発局でかなり重要な地位にあるらしいのだが、実はミラは兄の仕事内容がよくわかっていなかった。通信の担当者なんだから、通信がぶつ切りになるのは兄の責任なんだろう、くらいにしか思っていない。それは、あまりにも専門が違うということも理由ではあったが、それ以上に兄がまったく自分の話をしないということのほうが大きかった。
ミラは自分の仕事内容も、日常も割と兄に知らせていた。それに対し、兄は自分の話は全くしない。下手をすれば返事もしない。だから、兄がどこでどんな仕事をしているか知りたければ、人づてに聞くしか無いという有様だった。
また、自分の感情を伝えるという点については、なにか決定的に回路が抜け落ちているのではないかと思うほどだった(が、さっきのような話はスラスラとする)。だが、私だけは兄の感情の伝え方を理解している。これもちょっと馬鹿馬鹿しい言い方だと感じながらも、ミラは本気でそう思っていた。確かに、兄妹だけに通じるこというものはある。
「兄さん。私、シュートに失敗しちゃった」
作業に戻っている兄に対し、後ろからそう声をかけた。
「そう」
彼は、作業を止めることなく、それだけ返事をした。これだけでも、普通の相手なら怒り出すところだろう。だが、妹には兄が真剣に話を聞いていることがわかっていた。
「レポートは書いたんだけど、全然原因がわからないの。きっと、私がなにか致命的な計算間違いをしたんだと…思う」
兄は、少しだけ顕微鏡から目を離し、首を傾げて見せた。
「それで、私、大事なパートナーを失っちゃったかも」
チ…とヘイゾウの手元で小さな音が鳴り、わずかに煙が上がった。兄を見て、すこし落ち着いていたミラの感情は、急激に崩壊を始めていた。
「私…彼女と仕事がしたいって思ってたのに。もう、彼女とじゃなき嫌だって思ってたのに失敗しちゃって」
「彼女はすごく仕事のできる娘だから、だから出来のわるいパートナーは嫌いだから。それで何度もパートナーを変えてるし、だからそうならないように頑張ったのに、失敗して」
「彼女も私の仕事がしたいって言ってくれたのに、こんなひどい失敗をしたら、きっともう相手にしてくれない。大事な、大事なパートナーだったのに」
ミラは兄の後ろで座り込んで下を向き、床にポロポロと涙を落していた。兄と違い、「いい子」であったミラは、少女のころから両親の前でもめったに涙を見せることはなかった。ミラが泣くのは、兄の前でだけと決まっていた。
「兄さん、私、どうしよう…」
そもそも、人間関係をつくる能力が絶望的に欠如している兄にこの相談をすること自体が間違っている。そう思っても、兄に聞いてほしかった。やっぱり、私は兄さんに寄りかかってる。自立していないのは私の方だ。それでもいい。それでも、兄さんに助けてほしい。
「ねえ、ミラ。君は、いつからそんな完璧主義者になったんだっけ?」
兄の声は突然だった。そんな返事があるとすら思っていなかったのだ。
「僕の知っているミラは、『いいじゃないそれくらい』っていう、おおらかな妹だったよ」
「だって、それはフェリカが。彼女はとてもすごい娘で、完璧にできるパートナーでないと納得しなくて」
ヘイゾウは精密用の半田ごてをラックにかけ、顔を上げた。
「そんな娘が、あの最初のシュートの後もつきあってくれていたの?」
「え…?」
ミラは少し混乱していた。兄に些細な事で泣き言を言ったことは何回もあるが、こんな兄を見たことがない。いつも、ちゃんと聞いてくれるし、アドバイスもくれるけど、たいていの場合は「こうすれば?」みたいな端的なものだった。
「一回目のシュートの後も、二回目のシュートの後も、ミラは楽しそうだった。あの最初のシュートの後も、楽しく仕事ができたんでしょ?」
「それは…それは…」
「ミラが言ったみたいな人だったら、そもそも二回目のシュートは無いし、あってもきっと楽しいものじゃなかったんじゃない?仮に仕事が続いても、そんな相手をミラは大事なパートナーなんて呼ばないと思うけどね」
天才兄妹と呼ばれ、二人ともに常に完璧主義みたいに世間では言われているが、正直誤解だとしか言いようがない。兄はこんな有様だし、妹はもともと「いいじゃない」が口癖だ。
あの最初のシュートはフェリカの気をひこうと思って作り込んだものじゃない。あれがミラの”素”であった。なのに、いつの間にかフェリカとの仕事は完璧じゃなきゃいけない。フェリカの知りたいことには完全に答えなきゃいけない。そう、思うようになっていた。
なぜだろう。ミラは自分の心理がよく理解できていなかった。だって、フェリカがそう求めたから。違う。フェリカはそんなこと言っていない。フェリカが喜んでくれるから?これはそうだ。仕事も、それ以外の会話も、フェリカの求めに十分応えればフェリカは喜んでくれていた。先生、先生って言って頼りにもしてくれた。だから完璧じゃなきゃいけない…。
ミラは生涯を通じて、自分を大きく見せる必要を感じてこなかった。普通の意味では、ミラは十分いい子だったし、成績も抜群だったので、両親へのアピールなど必要なかった。初等学校の同級生は正直見えている世界が違っていたし、飛び級してからの同級生は皆お兄さん、お姉さんだったので、年少であることを隠れ蓑にしていればよかった。火星に来てからは周りもみな凄いなので、自分はこんな凄いなんてアピールに意味はなかった。兄は(駄目人間だが)学術の世界では巨人で、太刀打ちすること自体が非現実的だとしか思っていなかった。
同年代の友達がいないので、女性としてのアピールをする必要も感じていなかった。母や祖母は「いいものを身に着けなさい」というタイプだったのでそれなりにはしていたが。
唯一の例外は、子供の頃に習わせてもらっていたバレエだけだ。これこそ、彼女なりの背伸びであったが、能力的に人並み以上にはなれないことに気づき、やめてしまった。
ミラは、自分ができることを普通にしていれば、十分人より優れていた。自分のできること、出来ないことはよく理解していたし、人の期待に応えるために、自分を拡大してみせる必要もなかった。
だから、ミラは今まで理解していなかった。フェリカに対して抱いていた感情を。そして、何故一度の失敗でこれほどまでに絶望しているのかを。
フェリカの思う通りの自分であれば、フェリカは私を特別だと思ってくれる。でも、そうでなかったら…。
フェリカによく見られたい。完璧な人だと思われたい。そして…好意をもたれたい。
これは、虚栄心だ。私は見栄を張っている。その見栄が、自分を、もしかしたらフェリカをも傷つけている。
ミラの心の中に、わずかに理性の光が差し込んできた。自分の考え方の未熟さに、急な恥ずかしさも覚えた。それでも、今心を占める巨大な不安さを掃き出すことはできない。
「だけど、フェリカが。フェリカがどう思っているか…。やっぱりこんなパートナーはダメだって思ってるかも」
ヘイゾウは顕微鏡の台から、つまめるほどの小さな基板を取り上げ、なにかに取り付けをしていた。
「それだけは、本人に聞くしかないかな」
ミラの全身に緊張が走った。自らを抱きかかえるようにしていた手の指先に、二の腕にできた鳥肌の感触が伝わってくる。それは、怖い。怖いよ、兄さん。
ヘイゾウは椅子をくるりと回し、ミラの方を向いた。その手には、小さなケースに収まった基板があった。ミラの目の前でふたを閉めると、それはあまりセンスがいいとは言えないが、装身具としては何とか許容範囲といえるペンダントとなった。
「はい。どうぞ」
「何?」
「お守りだ。いつもの通り、何の役にも立たないだろうけど」
兄は時々こういうよくわからないプレゼントをくれた。本人の言う通り、役に立ったためしはないけど、ミラは兄の不器用さを感じながらいつも身に着けたり、持ち物の中に忍ばせたりしていた。そう、よくわからないプレゼント…。ああ、そうだ。あの時は―。
ミラの脳裏に、兄との古い記憶が蘇った。そうだ、あの時も兄さんはこんな風に工作をしていた。
8歳のときだったはずだ。工作をしている兄に食事の時間だと伝えに行った。兄はその時からもうすでにあんな調子で、顔も上げずに「うん」とだけ返事をした。それが不満だったミラは「行こうよ!」と兄の手を引っ張った。そのはずみだろう、作業台から兄の工作物が落ち、2つに別れてしまった。パーツケースもひっくり返って、なんだか色の線が入ったひょうたんみたいのが沢山床に散乱したことも覚えている。
兄はとりたてて声を上げることもなければ、表情を変えることもなかった。一方的にパニックに陥ったのはミラの方だった。
ミラは、食事も取らずに自室に走り、ベッドへと逃げ込んだ。母が「どうしたの」と扉の外で言っていたが、全く耳に入らなかった。
怒られるのが怖かったわけではない。というか、兄が自分に対して怒りを顕にしたところなど見たこともなかった。兄が大切にしているもの、ましてや、いま労力をかけて作り上げているものを壊してしまい、兄が自分に失望するのではないか、嫌われるのではないかという恐怖に取り憑かれていたのだ。
兄は、この頃にはすでに天才と言われる地位を確立しており、親が子に求めるようなこと(勉強しなさい、学校の成績はどうなの?、進路はどうするの?)は力でねじ伏せていた。にもかかわらず、母はまともな反応をしない兄にいつも文句を言っているようだった。
今思うと、母は単純に兄が理解できなかったのだろう。その兄との比較によるものか、ミラに対する母の口癖は「ミラは素直でいい子」だった。母には愛されている実感があったが、一方でそうは見えない兄が可愛そうだと思っていた。そして、それは「いい子」であれば愛されるが、そうでなければ嫌われるんだ、という刷り込みにつながっていた。
ミラは兄が好きだった。ミラの知っている範囲で、兄の人生唯一の落第は試験当日にミラのバレエの舞台を見に来たことによるものだ。ミラは兄に見てくれるようにせがんだが、父が「ヘイゾウはその日大切な試験があるんだ」といって無理であることを伝えていた。にもかかわらず、当日、兄は父母とは離れた席からミラを見守っていた。ミラは大よろこびしたが、兄は例によって後で母にさんざん問い詰められていた。これも例によって、兄は聞いているのかいないのかわからない態度を取っていたが、あまりのことに心配になってミラは兄にどうしてと聞いた。「試験なんかいつでも受かる。ミラのこの日に代わる日はない」いつもどおりの、端的な答えだった。ミラはその日からたとえ読み取れなくとも、兄の自分に対する愛情を疑ったことはなかったし、兄を敬愛していた。
その兄から嫌われてしまう、ということは当時のミラにとって、世界の半分を失うようなものだった。ベッドで泣き、うつらうつらして、気がつくと兄がベッドの横で小さな作業テーブルを置いて工作をしていた。
はじめは怖くて兄を見られなかったが、そのうち、その手際に引き込まれてベッドの中からそれを覗き見ていた。はんだ工作などというレトロな作業をまじまじと見るのはそれが初めてだった。そのうち、兄の手元の装置が様々な光を発するようになった。兄はそれに様々な部品を取り付け、最後に小さい本物の鉢におさめ鉢植状に仕立てた。
それは、光ファイバーでできた花で、声をかけると光るという単純なおもちゃだった。
「はい、ミラのだ」
兄はそれを差し出し、妹はベッドの上に座り込んでそれを受け取った。
「きれい、きれい」
ミラは喜んで花に声をかける。声をかけると花は光り、ミラの心はさらに癒やされた。
兄はこれを作っていたのか。兄さんにかかれば、あれくらいのことなんでも無いのかも。そして、これをくれるということは、兄さんは私のことを嫌いにはなってないんだ。
大人になってから考えてみると、あれは兄に騙されていたかもしれない。兄が作っていたものは別の物で、くれた花はミラを安心させるために急遽でっち上げたものだったかもしれない。兄はそれくらいのことはすぐできるくらい電子部品を抱え込んでいた。今ではその数十倍のパーツを積み上げており、「あの花光らなくなった。直して」と要求すると、かならず代替のパーツを用意して直してくれた。
花ができた頃はもう夜中だった。夕食を取っていなかった二人は、暗いリビングに行って、冷蔵庫から食べるはずだった夕食を勝手に出して、二人きりの食事をした。それは、兄と秘密を共有する、背徳的な食事だった。そして、幼いながらに自分の思い込みの怖さを理解した。
そう、あの時も大好きな人に嫌われたと思った。自分で勝手に。ああ、なんて私は成長していないんだろう。あの時は、兄さんが私の部屋に来てくれた。今はそうはいかない。そもそも、私はフェリカよりお姉さんなんだ。私が行かなきゃ…。
ミラは震える手で携帯端末の電源を入れた。これまで、完全に電源を切っていたのだ。
「フェリカに…連絡…。でも、今迷惑かも…」
まだ理由を付けてやめようとするの、私は。
「どうなの?」
ヘイゾウが聞いた。誰に?
「今なら問題ないかと思います」
返事したのはマイだった。一瞬だけ、え?なにかおかしくない?という考えが頭をよぎった。
「だそうだよ」
兄のアドバイスはいつもの通り端的だ。説明もなにもない。だけども、これで連絡をしない理由はなくなってしまった。
「兄さん」
ミラの声に、兄はわずかに視線を動かす。これで、この兄妹はコミュニケーションが取れている。
「お願い、そこで聞いていて」
こんな会話を、兄に聞いてもらいたがる妹がどこにいるのか。だけど、もしフェリカに拒絶されたら自分がどうなるかわからない。その時兄がそばにいてくれなくては…。
「マイ、フェリカに連絡して」
心臓があらん限りの能力を発揮して全身に血液を送る。血流量が多すぎて、いまにも昏倒しそうだ。
「先生!!?」
第一声は、ほぼ絶叫と言っていいものだった。
「先生!先生!先生!なにやってるのさ!なんで?なんでだよう!」
フェリカの声を最後に聞いたのは、わずか3日前だ。それなのに、あまりにも長い断絶だったと感じる。涙が溢れかえり、膝下に落ちる。
「フェリカ、ごめんなさい。私が…私が勝手に、だけど、だけどやっぱり私…」
「なんで、先生が謝るの!?ゴン爺からも謝れって言われた!きっと勝手なことを言ってた。先生を苦しめるようなことを言ってた!ごめんなさい!だから、だから!」
「きっと何か失敗したんだ!だから、アルシノエの調整も全部やり直した!先生とお話するために新しい本も沢山読んだ!苔の勉強もしたんだ!だから!」
「フェリカ、私が、私がなにか間違えたの。だからフェリカに嫌われるって勝手に思ったの。だけど、どうしてもフェリカがいいの。フェリカとじゃなきゃ、このお仕事続けられないの」
「そうだよ!ああ、そうじゃないよ。先生のこと嫌ったりしないよ!先生の仕事は他のヤツには出来ないって!させないよ!だからさ、だから…」
もう、フェリカの会話も破綻ぎみになってきていた。
「だからもうあんなふうに通信切らないで!一緒に仕事させて!沢山お話して!……」
ついに、フェリカの通信から泣き声が溢れてきた。ミラは一つ一つ「うん」「うん」と応えていた。
ヘイゾウは、もう大丈夫だろうと立ち上がった。ミラはその兄の服の裾を引っ張った。これが、アンダーシャツの裾なのだから締まらない兄だ。
フェリカとこんな話をしているのに、兄さんにまだいてほしいなんて、なんて甘えた妹だろう。でも、兄さんに聞いていてほしい。私とフェリカの間のことをわかってほしい。
「それで、苔類のことはどんな勉強をしたの」
ひとしきり感情を吐き出したあと、グズグス言いながらミラが聞いた。
「だいたい、苔なんて見たことないと思ってたんだけど、なんか水槽の中にも…」
ヘイゾウは、作業をすることもなく、その会話を黙って聞いていた。
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