第18話 空っぽ少年は貴族と邂逅する
「······フォン?」
なんだっけ、それ。
僕は一瞬考えた。
そして直ぐに、六大国の一つであるヴェリンジェン帝国にのみ存在する貴族制度であると気が付いた。
獣人が主に構成したとされる地域に誕生した国で、弱肉強食は魔族などと変わらないものの、一度負けたら絶対服従、主に強い忠誠を誓う性質があるため、そのような制度が根付いたのだ。
貴族には姓と名の間にフォンという称号を与えられる。
貴族たちはそれを名誉に思い、大切にしていると聞いた覚えがある。
そしてどこかで見たと思ったら、学園長の名前だった。
ヴァネッサ・フォン・リュキミア。
うん、フォンが付いているね。
「如何にも!ぼくはローズエラ伯爵家の嫡男、ナシェリエだよ!!!」
うん、何も言ってない。
あと多分君は寮を間違ってないよ。
逆になんで『銀の月』だと思ったのかな。
「ふーん、で、そのお貴族様がボクらになんのようなわけ?」
「ふっ、随分と目立っている奴らがいたからね、少し忠告に来たのさ!」
「······チュウコク?なんだそれ」
「あははっ!ズバリ!新一年生で一番目立つのは······ぼくだ!!!君たちは大人しく引き立て役に徹するがいいさ!アーっハッハッハ!!!」
······変な人に絡まれてしまった。
「えーと、ナシェリエ······様?は、なんでそんなことをわざわざ······?」
「おお!弁えているじゃないか白い庶民よ!そうか!聞くなら教えを与えてしんぜよう、理由は簡単、家訓だからな!」
「家訓······どんなのですか」
「自分が!一番!目立てと!そういう家訓さ!!!」
すごい。
こんなにも会話文にビックリマークが乱舞している人を生まれて初めて見た気がする。
でもそんな微かな感動もすぐに掻き消えて、冷静にナシェリエを見つめる。
ナシェリエの姿は、一言で言うと······薔薇。
頭には真紅の花弁が咲き誇り、大きく猫のような瞳は新緑の色をしている。
ロロイユと同じようなレースやフリルの着いた制服から見える肌には、棘のある蔦が絡み付いている。
多分、植物系の魔物の亜人だと思う。
植物系の魔物は全般が弱いが、獣人系の多い国で伯爵家にまで登り詰めるってことは、相当強い家系のはず······もしかしたら両親のうち非戦闘系の血を濃く受け継いだのかもしれない。
ちなみに獣人ではないけど大型の肉食獣魔物の亜人である僕やラパンは強い方に入ると思う。
僕は虎、ラパンに至っては獅子だから。
ところで。
「······目立っているのはロロイユ様で、僕らは目立ってないと思うけど」
「······エヴァン、それ本気で言ってるわけ?」
「いや······だってみんなロロイユ様を見てるだろう?」
「まあ、確かにボクは美しいよ?でも言っておくけどエヴァンやラパンも相当に見られてる······人は美しいものに敏感だからね、美貌に自覚がないのは罪だよ」
「白い庶民よ、宝石の庶民の言う通りだ!そのように自分を卑下するのは世界の認識への無礼だぞ!!!」
「は、はぁ······」
なんか二人がかりで怒られたんだが。
そしてナシェリエは目立って欲しくないのではなかったのか。
「全く、その美貌を鼻にかけない姿勢は素晴らしいが、もう少し着飾ったり、髪型に気を使ったり、できることは多くあるだろう?世界の損失だな······」
「そこまで?」
「当たり前でしょ!仮にもボクの友人を名乗るなら、もっとオシャレに気を使って······って、待って?さっき宝石の庶民とか呼んでなかった?」
あ、ロロイユが気がついてしまった。
空っぽ少年と楽しい学園生活を ものくろぱんだ @monokuropanda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。空っぽ少年と楽しい学園生活をの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます