第14話 宝石少年は諦める
「可愛い!ロロ」
「新しい服よ、素敵でしょう?」
「このレースが上品だわね」
三人の姉たちは気が強く、母後を確実に引いていたし、人間不信気味の弟を目にいれても痛くないほど可愛がっていたらしい。
ボクには当たり前で、誰も彼もがボクを大切にするものだと認識していたからこそいじめで引きこもるほどのダメージを受けたのかもしれないが。
とにかく、引きこもっている間中姉たちの趣味に付き合わされ、色々な服や装飾品を纏った。
段々楽しくなってきて、それが普段着になり始める頃には、ボクはすっかり少年らしい骨格を手に入れた。
髪も随分長くなって、姉たちのおもちゃになる。
ボクは家の中で生きる生活が楽しくて、すっかり外に出る気は失せていた。
家族以外に期待するのを諦めた、とも言う。
その頃には子供の虐め如きで人間不信になるようなヤワな精神じゃなくなったが、それでも根本にジョシュを初めとした同年代の子供たちへの嫌悪があったからだろう。
その頃だった。
ボクの元に、入学許可証が届いたのは。
***
「ロロイユ、学園に行きなさい」
「······は?」
「ちょ、お父さん何を言うの!?」
行かないつもりだった。
興味もなかったから置いておいた。
でも、父さんは見たこともないような真剣な顔をしていた。
物静かで、滅多に喋らない、空気のような父。
何も言わず妻と娘の言うがままに行動する父が、ボクに諭すような言葉をかけていることに脳がバグる。
父は、今まで何も言わなかった。
どれだけ着飾って、外を嫌悪しても、仕方の無いことだろうと言うだけだった。
でもまるで、これは。
「ロロイユ、お前もそろそろ、大人にならなくては」
母は、何も言わなかった。
***
その日の夜、部屋の机の上に入学許可証を置いて、珍しく窓を開けた。
農村でそれなりに大きな家の、一番景色のいい最上階の部屋。
それがボクの部屋だった。
ベランダに出ると、夜の農村が見える。
残念ながら街のような光の重なった明るい景色は見えない。
ただ、だだっ広い畑が広がって、所々に家が点在しているだけのつまらない景色だった。
「······学園、ねぇ」
随分と品のいい封筒に入った入学許可証だった。
金箔の文字が入っている。
「······ボクには、関係······」
「ロロイユ!」
ない、といい切ろうとした時に、随分と懐かしい声が響いた。
反射的に目を向けた先に、見覚えのある赤い赤だった髪。
爬虫類のような瞳が、熱を持ってボクを見た。
怖気がする。
吐き気がする。
どうしてあんなにこの男が嫌いだったのか、やっと気がついた。
こいつは、ボクを自分のヒロインだとでも勘違いしているのだ。
ボクがいつか、自分のものになるのだと信じて疑っていない。
「俺と一緒に逃げてくれ!」
ああ、こんな奴に騙されてボクを嫌っている少女たちが、心底哀れで、羨ましいと思った。
ボクもその中の一人なら、こんな気持ちにはならなかったろうに。
ふつふつと湧き上がる気持ちのまま、机の上の入学許可証を取った。
視線を落とす。
『ロロイユ・ジュエリッタ殿』
それはまるで、挑戦状のようで。
「ロロイユ!俺の手を取って······!」
「······だね」
ヒーロー気取りの男を、ちらりと見下ろす。
空気が変わったことに気が付いたのか、男はおかしな顔をした。
「?ロロイユ······?どうしたんだ?」
「どうして君がそんな馬鹿げた勘違いをしたのかは知らないけど······ボクがお前のものになるわけないでしょ?馬鹿なの?」
「は······」
どうやら、この男は初対面の言葉を照れ隠しだとでも思ってたのかな。
それだと随分とおめでたい頭だな。
「もう一度言ってあげるね?その空っぽな頭に叩き込んでよ······嫌だね!絶ッ対に!お前のものにだけはなってやらない!」
ぽかんとした顔で突っ立っている馬鹿を一瞥して、ボクは背を向ける。
もう、迷わなかった。
さっさとこんなとこ出ていってやる。
どこに行ったところで、きっと面倒ごとは付きまとうし、そう簡単に信頼できる人物なんてできないだろうけど。
でも、何もしないよりましなんじゃないか?
そう思って、ボクは前を向いた。
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