朝焼け色の願い
第13話 宝石少年は追い立ちを語る
ボクは農村の生まれである。
農村の、明るくとびきり気立てのいい母と、無口で印象に残らない父との間に生まれた四番目の子供。
それがボク、ロロイユ。
***
「なぁ、何してんの?」
「アリをかぞえてる」
後ろからかけられた声に目も向けず間髪入れずに答えた。
自分の影で暗くなっていた地面にもう一つ影ができる。
「それ、たのしい?」
「たのしい」
多分ボクの顔を覗き込んだんだろう。
隣から感嘆の吐息が漏れ出た。
***
ボクの母には『魔性の宝石姫』という魔物が混ざっていた。
希少な宝石の体、宝石の瞳、宝石のドレス、宝石のティアラ。
亜人ですら乱獲されるほどに美しく、希少な種族。
母は遠い地で、数少ない仲間と共に生きていたが、ある日住処を追われ、家族を狩られ、必死にこの地に住む叔父叔母の元へ逃げ延びてきた。
亜人の特徴が薄かったが故に外に出た二人は快く母を迎え、家の畑の跡継ぎにした。
母はたいそう美しく、村中の未婚の男に求婚されたけど、最終的に母が婿として選んだのは、黙々と畑を耕し続けるだけで誰の目にも入ることの無い『透明な
誰もが父を妬み、何か裏があるのだと囁いた。
けれども母は戸惑う父に、心底愛おしげな視線を浴びせたのだという。
そうして二人は女神の祝福の元、夫婦となった。
三人の姉が生まれ、そして、最も母後を受け継いで生まれた美しい子供。
それがロロイユだった。
***
「なぁ、おれのお嫁さんになってよ」
不意にそんなことを言われて、ボクは目を丸くして相手の顔を見た。
つんつんの赤い髪にギョロっとした爬虫類の目をしている男の子。
確か、村の子供たちの中心人物で、村長の息子。
顔を真っ赤にして、じぃっとボクを見ている。
それがなんだか気持ち悪くて、思わずボクはこう言った。
「なにいってるの?ボクは男だよ。気持ち悪い!」
立ち上がって、少年に背を向けた。
舐めるような目が気持ち悪くて、ボクは慌てて家に帰った。
その日からだった。
子供たちに虐められるようになったのは。
最初は些細なことだった。
いつものように一人輪から外れたボクに、前を見ないで走ってきた子供がぶつかったのだ。
「うわっ!」
「うっ······」
二人してひっくりかえった。
途端に子供たちが集まってくる。
「いてて······」
「大丈夫か?」
「あれ?なぁこいつジョシュを振ったやつだ!」
「ほんとだ。こいつ男なんだろ?」
「ほんとに付いてんのかよ」
「なぁ、何とか言えよ!」
口々に囀って、最後はギロリと睨みつける。
ボクはぎゅっと口を引き結んで、静かに立ち上がった。
「あっ!逃げるな!」
「待てよ!」
走り出せば後ろから響く子供の甲高い声。
うざったくて、気持ち悪い。
ジョシュとかいう少年に会ってから、子供の目を怖いと感じるようになった。
***
「······なぁ」
「······」
ジョシュとかいう少年は、ボクが虐められるようになってからも度々話しかけてきた。
意味がわからなかった。
頬を染めて、じっとこちらを見ているのだ。
それが、とても気持ち悪い。
「なんで話してくれないの」
「······」
虐めてくるようなやつと話したくない、と。
そうボクは意地を張っていた。
ジョシュとかいう少年が、いじめのことを知らないことも、この少年への扱いが更に子供たちのいじめを加速させることも分かりきっていたけど、ボクはそれでも無視をした。
早く消えてくれればいいのにって、そう思った。
***
髪を引っ張られたり、押し倒されたり。
さすがに泥を投げつけられる頃には、家族にそのことがバレてしまったらしい。
カンカンに怒った母と姉たちが子供たちの親に乗り込んで行った。
父も止めないあたり、相当怒っているようだった。
農村でも大きな土地を持つジュエリッタの怒りは無視できるものでは無かったようだ。
みんななかよしこよしで支え合う農村の中にも、静かに力関係は存在していた。
結果として、あんなに陰湿で、陰口から始まったいじめはあっという間に無くなった。
それでも、人間不信になりかけのボクは誰も彼も信用出来ず、ジョシュが近付いてくるのにも耐えられず、ボクは家に引き篭った。
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