第12話 空っぽ少年は朝を迎える

「······」


むくりと起き上がる。

体から毛布がずり落ちて、同時に両脇から身動ぎがする。

二人ともまだ眠っているようだった。

音を立てないように滑り降りて、そっと毛布をかけ直した。

うん、変な夢を見たな。

三人で同じ夢を見るとかありえないけど、ちょっと楽しかったかもしれない。


「······わ」


ふと窓の外、心地よい風の吹き抜ける場所に目を向ける。

寮の存在する不思議な空間、その地平線の向こうで、純白が輝いて夜を晴らしていた。

それは正しく、女神の如く。

そう讃えられる夜明けの景色だ。


「······」


あんな色が、出せれば······。

ただの白ではない、紛うことなき純白を、この身に纏うことが出来れば。

それは、抗いがたい魅力に感じた。

そっと手を伸ばす。

眩い光に輪郭が溶けた。

白い手に影がかかって、陰る。

そしてその一瞬、僕はありえないものを見た気がした。


「えっ?」


一瞬、ほんの一瞬、瞬きよりも短い時間、確かに。

己の指先が、あの光のように強く純白に輝いた気がしたのだ。

すぐさま顔の前で手を確認する。

すっかりいつも通りの指先、やはり薄い落胆とともに振り返る。

そして、ほんの少し心臓が跳ねた。


「······二人とも、いつから?」

「さっき、だね」

「ロロイユがのぞき見してたからいっしょにやった!」

「は!?巫山戯たことを抜かすんじゃないよ!」


寝起き姿のまま立っていた二人は、話している間にまた言い争いを始めた。

まあ、ロロイユが一方的に怒鳴っているだけだが。

昨晩見事な歌声を披露したラパンの口からは半開きで『うー』と言う声だけが漏れていた。


「あ、そういえば」

「うん?」


ふと思い出し、口を開いた。


「変な夢見たよ、高笑いする男の子の夢」

「ボクも見たな、それ」

「えっ?」


ロロイユが間髪入れずに打ち返してきた。


「あれだろ?よく分からん黄色っぽい髪色の」

「クリーム色、赤みがかった黄色だよ」

「クリーム色······なんでそんなに詳しいのかは知らないけど、その色だね」


詳しい理由は······まあ、色に関係する亜人だから。

ちなみに宝石と花も少し嗜んでいる。

流石に石言葉や花言葉は知らないけどね。

鮮やかな色を持つものに影響されると色が変わりやすいらしいから。

その点ロロイユは完璧な素体だと思う。

まさに宝石そのものの容貌だ。


「ていうか、やっぱりロロイユも見たんだ?」

「ああ······ちなみにお前は?」


ロロイユが傍らのラパンに目を向ける。

うん、夢の中にはラパンもいたね。


「んー?あー、あいつ?けしたからダイジョーブ!」

「意味がわからん」

「あはは······」


消した······ねぇ。

僕の頭には、「消えて」と叫ぶ獅子の姿がくっきり残っていた。

物覚えが良いもので。

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