第11話 空っぽ少年は夢を見る

「さて、そろそろ寝ようか」


大掃除が終わり、大浴場で汗を流して、部屋に戻ってきた。

どうやら僕たちは最後の利用者だったようで人がいなかったからのびのびできた。

ほかほかとお風呂上がりで湯気が出ている気がするよ。

初日だから何もせずにそのまま寝る。

それぞれで振り分けた場所にそれぞれ向かう。

明日は寮のレクリエーションがあるから、早めに寝なくちゃ。

ロロイユも似たようなことを言っていたけど、どうやらラパンは不満だったのだろう。


「えー、オレ寝たくないよぉ······」

「はぁ?文句言わないでくれる?これ以上はお肌に悪いの!」

「眠くねぇもーん······チョットはなそーよ!」

「どうしてボクが!ほら!さっさとお眠り!」


布団に潜り込んだところでそんな声が聞こえてきた。

見ると、ぶすくれたラパンに捲し立てるロロイユの姿。

僕はもう結構眠いんだけど、二人は全然平気そうだ。

ぎゃあぎゃあと騒ぐ声がうるさくて、二人に声をかけた。


「ねえ、一緒に寝る?」

「そもそも─────────え、なんて?」

「うわぁい!ねるー!」

「えっ、あっ!ちょ、ちょっと待ってよ!」


***


「ラパン、眠くなった?」

「ううーん、まだぁ」

「全く、さっさと眠るんだよ?」

「うん、ロロイユもー」


二人に挟まれて、光の消えた寮部屋で息を潜める。

両隣から二人分の呼吸が聞こえるのはなんとも言えない不思議な気分だ。

あの後結局ロロイユも僕のベッドに潜り込んできた。

今もふにゃふにゃ返事をするラパンを叱りつけている。

寝慣れないベッドの上で僅かに身動ぎして、ほぉっと息をついた。


「うーん······」


あと一歩、寝れない。

別に興奮しているわけじゃない。

変わった環境に興奮できるほど自我が育っていれば、きっと体の色だって容易に変えることが出来たろう。

モゾモゾと体勢を変える。

同じようにロロイユもうごうごと動いていた。

そんな寝れない二人に、声が降った。


「······寝れない?」

「······ラパン?」


暗闇の中でぱっちり目を開いたラパンを見つける。

夜目が効くのだ。

月の光で僅かに輝く黒い瞳がじいっと隣に横たわる僕を見つめる。


「子守唄を歌ってあげる」


いいよ、も大丈夫、も、全部飲み込まれて行った。

それほどまでに、口を開いたラパンの声は魅力的で、圧倒的で、眠りを誘われる。


「おやすみ、おやすみ、太陽よ。どうか世界に祝福を。眠る子等に祝音を。おやすみ、おやすみ太陽よ。月が沈み、再び朝日が昇るまで。おやすみ、おやすみ、太陽よ。どうか我らに微睡みを。眠る世界に星々を」


暖かくて、優しくて、まるで、まるで───。


***


その日僕は変な夢を見た。


僕はロロイユとラパンと三人並んで前を見ている。

するとその先で、クリーム色の髪をした顔の見えない少年が高笑いするのだ。

ぽかんと三人でそれを見ていると、どこからが現れたガスマスクの少年が、思い切り高笑いする少年の頭をぶっ叩いた。

そうしてどしゃっと地面に潰れた少年を見て、隣のラパンが声高らかに言った。


「『消えて』!!!」

「えっ、『言霊獅子』!?」


そうして夢は覚めた。

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