橙のラパン

第9話 空っぽ少年は獅子に翻弄される

「ここ······かな?」

「そうみたいだね」


ロロイユと二人で辿り着いた先には、やっぱり開放的な廊下の右側に絢爛豪華な宮殿の扉と言える大きな両開きの扉があった。

左を見れば窓のない、ただ天井を支えるための柱がいくつも並んでいるだけの場所。

一応窓枠的な立ち位置なのかちょうど座りやすそうな段差があって、向こう側は庭園になっている。

少し向こうに行けば庭園に出るためのちゃんとした道があるが、ここからでもいつでも出られそうだ。


「もう一人······か、静かな子ならいいけど」

「どうだろうねぇ」


ロロイユが心底嫌そうにつぶやく。

何かトラウマでもあるのだろうか。

そして、僕はその大きな扉に手を添えて、思い切り推し開いた。


「わあっ!!!」

「ぅ、え」


そして次の瞬間には僕は廊下の複雑な文様を刻んだ天井を見上げていた。

びっくりして目をぱちぱちさせていると、ロロイユの慌てたような声とともに、のそりと僕の上で何かが動いて、ひょこりと僕を覗いた。

勝ちきな瞳は、黒々としていて、そして僕と同じ、縦長の瞳孔をしていた。


「とらだ!トラだね?とらだァ!」

「え、えー」


うん、多分もう一人の同室者なんだろうけど······全然顔が見えない。

近すぎ。


「トラはねぇ、オレとおんなじなんだよ!すごいんだって!」

「へ、へー」

「何呑気に相槌打ってるんだい!ほら、さっさとおどき!」


業を煮やしたロロイユが、のしかかっていた少年を持ち上げる。

力強っ。


「······わ、ライオンだ」

「えへへ、オレ、しし?なんだぞ!」


ピクピク動く耳はボサボサの髪と同じ金茶色で、さっきも思った通り大きくつり上がった猫目は黒々としている。

ライオン特有の尻尾が機嫌良さげに振られていて、ライオンというより犬のような······いや、気の所為だろう。


「君は?」

「へへ、オレはぁラパン!ラパン・レオンハートっていうんだって母さまがいえって!」

「全部言ってるじゃないか!」


ロロイユがやっぱりぷりぷりと怒りながらそう言った。

うーん、ラパンのお母さんは大変だろうな。


「でも母さまもじつは言うのわすれちゃうからもんだいないよって言って父がそれだめじゃないっていって母さまにばーんってされてた!」

「前言撤回、全然大変じゃなさそうだった」

「君の父君は生きているかい!?」


うん、なんだかすごくお父さんに同情するよ。


「だいじょうぶ!父は嬉しそうだった!」

「それもそれでどうなの······?」

「やっぱりイロモノは収まるべきところに収まるんだな」


ロロイユの言いようもアレだけど、まあ確かにその通り······かな?


「ええっと、とりあえず中に入らない?」


僕の提案に、ロロイユとラパンは顔を見合せた。

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