第7話 空っぽ少年はまず自己紹介から始める

「ええっと、ええっと」


こういう時はまず······。


「うん、自己紹介をしないか」

「「は???」」


うん?なんか間違えただろうか······二人して変な顔してこっちを見る。

まあ、勢いを殺すことには成功したけど。

母さんがよく言ってたからな、喧嘩はお互いのことをよく知る事から始めるって。

父さん(妻全肯定bot)も同意してたし間違いない。


「僕はエヴァン・カラーポートと言う。よろしく」

「······」

「はぁ······」


あれ、やっぱり微妙だな······とりあえずこのままつっ切ろう。


「あなたは?」

「は?俺ぇ?」


訝しげな顔をする大柄な少年を見る。

しばし黙って眉間に皺を寄せていたが、少ししてボソリと呟いた。


「フィネル······フィネル・パワテロイだ」

「そうか、よろしく、フィネルくん」

「お、おう······?」


そして次に、興味なさげな顔をしている綺麗な少年に目を向ける。


「君は······?」

「······なにこれ、馬鹿らし」


嫌そうに呟いて、けれども少年は溜息をつきつつ言った。


「ボクはロロイユ、ロロイユ・ジュエリッタだよ。ジュエリッタ様と呼ぶことを許そう、美しい名だろう?」


すごいな、ちょっと見習いたいくらいの自己肯定感だ。

高い鼻をツンと上向け、フンと鼻で笑ったロロイユは、フィネルに目を向けもしない。


「でも、お前には呼ばれたくないね」

「て、めェ······!!!」


な、なんか悪化してるような······?

こういう時、人の機敏に疎いと困る。

次はどうすればいいんだったか······ええと。


「うーん······お互いの話をよく聞いて······よし」


そうだった、両方の話に耳を傾けるんだった。


「あー、フィネルくん?」

「なんだ!?」


やっぱりフィネルっていいひとだと思うんだよね。

どれだけ怒ってても反応してくれるし。


「どうしてロロイユくんに」

「ロロイユ様」

「······ロロイユ様に荷物を蹴飛ばされた······んだ?」

「それは······」


うん、ロロイユの名前の修正には触れなかったね。


「俺は、ついさっきここに来たんだ」


フィネルはそう話し始めた。


「俺は『金の太陽』に向かう道すがら、怪我をした上級生を見つけたんだ」

「えっ、珍しい······」

「だが、俺のガタイが良すぎるせいで怖がらせちまって······保健室の場所を聞き出して連れていくのに時間がかかったんだ」

「へー、その間荷物は置きっぱなしか?」

「そうだ。急いで戻ったらこいつが人様の荷物を思い切り蹴飛ばしてそのまま歩いてったんだよ!信じられねぇ!」

「うーん······」


なんかこれだけ聞くとフィネルが完全なる被害者のような······いやいや、双方の意見を聞いて、だから。


「ロロイユ······様、どうして荷物を蹴ったことを気が付かなかったの?」

「······言っても意味ない」

「え、そんなことないと思うけどな」


ロロイユは目を見開いてこちらを見た。


「どうしてそんなことしたのかわかんないけど、母さんはちゃんと両方の意見を聞いて結論を出せって言ってたよ、ロロイユ様にも、なんか理由があるんじゃないか?」

「······それは······」


ロロイユはしばらく黙り込んで、美しい顔で百面相した後、おもむろに床に蹲って、をまくり上げた。

すると······。


「わ、すごいな······」

「······ほう、せき?」


ロロイユの左足······いや、今気が付いたが、左手も。

どうやら宝石で出来ているようだ。


「······ボクの左半分は、ほとんどが宝石で出来ている。関節はあるし動くが、感覚があまりないんだ」

「······つまり」

「······荷物を蹴飛ばしたのに気が付かなかったのは、まあ······謝る、済まなかったなパワー」

「いや······謝って貰えたら別に······て、おい!俺はパワーじゃねえ!パワテロイだ!!!」


······せっかくいい感じの雰囲気だったのにさぁ。

ま、いいか。

どうせもう興味も薄れちゃったし。

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