第6話 空っぽ少年は喧嘩の仲裁をする
「おい!!無視すんなよ!!!」
突然怒号が響いたのは、寮への道のりを重い荷物を持ちながら歩いている最中だった。
突然のことに驚き思わず荷物を床に下ろす。
そしてそのまま首だけを少し後ろに向けた。
「······うわ」
一瞬、それは極上のアメジストだと思った。
だがその少年がほんの少し体を動かした瞬間、レッドベリルのような色に変わったのを見て、勘違いに気が付いた。
一部はイエローダイヤモンドのようにも見える。
それは一人の少年の髪だった。
僕と同じような新品の制服を着ていて、髪はかなり長い。
姉さんより長いんじゃないだろうか、膝裏まである。
そしてその宝石の如き髪は、角度によってキラキラと輝きながら色を変えていた。
すごい、僕があんな髪が欲しかったと思うような、完璧な色だ。
いつかあんな色を出せたらどれだけ高揚することだろう······。
滅多にない興奮に僕は浮かれ、理想の色にゆっくりと近づいて行った。
それはつまり、喧嘩のど真ん中に近付くのと同じで······。
「なんだっ?てめえ!」
「あっ」
気が付いたら、僕は少年の胸倉を掴みあげる大柄な上級生(らしき男)の目の前にいた。
そして同時に、今まで見えなかった少年の顔がこちらを向く。
「······わ、綺麗······」
思わずそう言ってしまうほどに、力強い琥珀色の瞳を持つ少年は美しかった。
うん、他人の美醜なんて家族くらいしか認識していない僕がそう思うんだから間違いない。
というか、この学園全体的に顔面偏差値高い気もする。
さっきの受付の青年もかなり綺麗だったと思う。
うろ覚えだけど。
なんというか、もう。
目の前の少年に関しては、芸術品を鑑賞するような気持ちにすらなる。
まあ、そんな趣味ないけど。
でも、僕のポロッとこぼした言葉に何を思ったのか。
少年はふっと笑うと。
胸倉を掴む手をサッと払った。
大きい音がした。
痛そうだった。
「いっ······何をする!!!」
「うるさいな、やめてくれる?ボクがあんまり美しいからって嫉妬はおよしよ」
「はぁ!?」
「えっ?嫉妬······?」
嘘でしょ、この人そんな理由で下級生に絡んで······?
「な、何か勘違いしてんだろ!言っとくがこいつはなぁ!」
「ああ、それと君、名前を聞いてもいいだろうか、ボクを美しいだなんていい目をしているじゃあないか」
「あ、ありがとう······?」
「無視すんなや!」
サラッと褒められて(?)思わずお礼を言ってしまったら、上級生からギャンギャンと怒りの声が飛んできた。
「こいつが人の荷物蹴っ飛ばしといて謝罪の一つもねぇから、教育的指導をしてやったんだよォ!」
「おや、お前の荷物程度どうせ安物だろう?美しくない、ボクに足蹴にされたこと、光栄に思うがいい」
「思えるかぁ!!!」
······あ、あれ?
なんだかとんでもなく面倒なことに首を突っ込んで言ってしまった気がするが、ふと置きっぱなしの荷物を思い出しとりあえず喧嘩の仲裁を図る。
「ま、まあ先輩落ち着いて······」
「うるせえ!ていうか俺は新入生じゃボケがァ!」
「えっ」
「えー、嘘でしょ?ブサイクすぎじゃない?」
「ちょ」
「んだとテメェぇぇええええええ!!!!!」
わ、わ、わ、どうしよう。
やっぱり薄いながらも困惑と焦りが滲み始める。
今からでもこの場を放棄して逃げようか······なんて考えるが、母さんの言葉を思い出し、辞める。
「······『首を突っ込んだなら最後まで責任を取りなさい』······いや、これは母さんが自分自身に言い聞かせてたことだっけ······」
「何ボソボソ言ってんだ!」
「あ、すみません」
さて、どうするか。
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