紫のロロイユ
第5話 空っぽ少年は入寮する
アヴァドラ魔法学園。
水の精霊ウンディーネの末裔である学園長が護るこの学園には、水の力が溢れている······らしい。
僕が目を開けるともうそこは既にアヴァドラ魔法学園の敷地内だった。
どうやってここに来たのか何も覚えていないが、後ろに新入生であろう人たちが少しづつ増え始めたので慌てて前に行く。
『水の楽園』と評されるほどの美しさを持つと言われるが、漆黒の城を背景に若々しい緑と魔法の水という美しい色彩はミスマッチだった。
どうやら敷地内と言っても学校の外らしい。島の中にいるのか。
庭園のように整備されている場所だった。
入寮式なのでおそらく寮へと続く場所なのかもしれない。
ふと見た先に白いテーブルに着いている優しげな青年がいた。
長机の上には名簿や万年筆、鍵の束など様々なものが並び、『新入生受付』という文字が踊る。
「こんにちは、新入生ですね?」
「あ······はい」
にこにこと微笑みかけてくれるのは紫がかった白髪に最上級の紫水晶のような美しい瞳をした青年である。
制服を着ているので多分生徒。
それと、背中に蝶の羽が広がっているので、多分妖精族か何か。
「お名前をどうぞー」
「えっと、エヴァン・カラーポート······です」
?なんだ?
口を開いた瞬間、妙な甘さが舌を刺激した。
変な顔をしていたのだろうか、青年は困ったように苦笑した。
「はは······ごめんね?僕、『砂糖妖精』の亜人なんだ。僕のそばにいると魔力のお砂糖が舞ってしまうんだよ。大丈夫、魔力だから時間が経てば消えてなくなるから」
「あ······そうなんですね」
「うんうん、じゃあ確認もできたから、これ、『金の太陽』の鍵ね。あそこの太陽モチーフのところをくぐって歩いたらあるから、金色でわかりやすいと思うよ」
「ありがとうございます」
渡された鍵は黄金の太陽のモチーフで、しっかりとした重みがあった。
指し示された方向に進むと言われたように太陽のモチーフの門が真正面に見えてくる。
ちなみに右には銀の月のモチーフ。
左には銅の星のモチーフだ。
僕は辺りを見渡しつつも真正面に進んだ。
門をくぐりぬけた瞬間、景色がガラリと変わる。
「わあ······」
淡白な感動ではあるが、確かに感動した。
と、言うのも目の前の景色が一瞬でまるで砂漠の宮殿のような豪華なものに変わったのだ。
予め寮の説明を見て、三つの寮のうち『金の太陽』は砂漠の国の伝統文化を、『銀の月』は極東の国の文化を、そして『銅の星』は龍雲国だがなんだかの国の文化を取り入れているらしい。
なんでも学園にいる間様々な知識、文化に触れて成長して欲しいとの事だが······風の噂で学園長の趣味なのではと聞いたことがある。
とにかく、すごい開放感のある寮だ。
道幅は広く、変な形をした屋根は紫や緑など色とりどりで、少しづつ色を変えて模様を付けたりしているらしい。
でも亜人の住処はかなり変なところが多々あるから、まあまだ序の口だろう。
僕はジャングルの奥地に敷いたシートの上で生活している人を知っている。
「······えっと、あっち······かな」
そうして僕は道に立てられた案内板に従って歩き始めた。
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