第3話 空っぽ少年は制服を採寸する
アヴァドラ魔法学園。
六大国のみならずどの国にも属さない、天空島に存在する学園。
見た目は黒々とした悪魔城みたいな形で、島の周りを超高性能のバリアが囲っている。
自然豊かで、島からどんな原理なのかは分からないが湧き続ける水が流れ落ち、円球のバリアの内側に溜まることで巨大な海もどきを生み出している。
入るどころか脱出さえ不可能なこの学園に行くには、生徒、または教員として専用の許可証を得る他ない。
その上許可証は発行された本人以外に使えないため、盗んだところで意味もなく、歴史的価値のある備品なども学園長の許可がない限り持ち出せない上壊すことすら出来ないという徹底ぶり。
ついでに生徒や教員にはそういうものにあまり興味が無いというか······個性の尖った人物が入ることが多いらしい。
まあ皆無ではないし、個性自体あるかも分からない僕のような人間が入学を許可されるくらいだから、多分例外もある。
そして今日、僕はそんな学園に入学する前準備として、制服の採寸を行っていた。
***
「じっとしてくださいねぇ〜」
しゅるしゅると音を立てるメジャー······は、目の前の女性の服の下から伸びている。
耳に明らかに付属物のようなハサミが付いていたり、フワッフワの髪にまち針が突き刺さっていたり、
まるで毛糸で作った
来ているドレスも色とりどりの布を継ぎ接ぎにしたような斬新なもの······だが、このレベルは結構いるから、実際はあんまり目立たない。
こうして一個体として見れば際立った個性なのだが。
だが少し視線をそらせば、彼女の親族なのであろう同じような特徴の人物があくせく働いている。
まあ、案外そんなもんである。
胴回りを計られていて暇だったので着いてきた母と姉を見る。
すると、ちょうど視線の先で男勝りの姉が自分を綺麗に見せるために伸ばしていると公言している長い髪が華やかな桃色に染まった。
ついで、白いハート模様がたくさん浮かび上がり、ぴょこぴょことダンスを踊るように動き始めた。
居をつかれるが、どうやら気に入る服があったようだと気がつく。
ああいう時の姉の反応は素直だ。
主に色だが。
テンションが上がっているのか、後ろ姿だけで見える肌が一瞬真っ赤に染まってチョコレート色に落ち着く。
うん、今日も絶好調だ。
だがその隣の母は、色よりももっと素直だった。
ここに父が居ないことを父が地団駄を踏んで悔しがりそうなほど目をキラキラ頬を紅潮させ、ついで小さくぴょんぴょん飛んでみたりして。
胸の前で手をグーパーグーパー······うん、父さんの前でやるべきじゃないかな?
多分父さんなら他の人より千倍くらい身悶えて地面を転がって神に感謝を捧げるような気がする。
子供たちより母さんの方が五万倍大切だって公言してるもの。
でも、そんな父さんに非難が集まったりはしない。
そこがこの世界クオリティ、その程度のヤバいやつ、ならそこかしこにいるのだ。
とは言ってもヤバいやつと思っているのは僕だけなのかもしれないけど。
昔っから自分の個性を探しているせいで、独特の感性を手に入れてしまった。
時たま意見が噛み合わない時は大抵これのせいなので相手に合わせた方が世間一般の普通に近いのだ。
うーん、実に難しい。
ま、どうでもいいや。
そろそろ採寸も終わりそうだし、あとは二人の買い物に付き合って終わりかなぁ。
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