第2話 空っぽ少年は追い立ちを語る

僕は、自分で言うのもなんだが『つまんねぇ奴』である。

友達が出来ても一週間どころか三日も持ったことがない。

三日坊主で飽きられる側の存在、それが僕。


と、言うのも、極端なまでに自我が薄い、という一面のせいである。


この世界に存在する人々は、みんなそれぞれ『自分』を持っている。

些細なことでも大きなことでも、みんな自分を持っているからこそ喧嘩が絶えず、そして同時に笑い声も絶えない。

それは彼らに、個性のかたまりとも呼ばれた魔物という存在が混ざっているからだった。

昔······それこそ神話の時代は、極端なまでに数が少なく、一種族一体もざらだった魔物は、人間や異種族と交わることで進化を重ね、亜人、という名を持つ人型の新人類としてこの世界に誕生した。

例えば。

フラワーフロッグというカエルの魔物と人間が交わった結果生まれた子なら、肌が薄く緑がかったり頭や手足に花が咲いたりと、が出る。

そして同時に、その性格にも魔物の特性が出ることが多かった。


そしてそんな世界で、僕と兄姉の父はカラータイガー。

自由自在に体の色を変え狩りをする魔物であり。

今どき珍しいことに何とも交わらない結果の純粋な魔物だった。

つまり、極端に少ない同族で血を繋いできた猛者である。

そしてそんな父が恋をしたのは、これまた絶滅危惧種の純人間であるシルヴィだった、という訳だ。


カラータイガーの特徴は、なんと言っても自由自在に帰ることの出来る体の色だ。

兄は父の血が濃く出たせいで、最近は珍しい獣の頭を持っている。

反対に姉は母の血が濃いのか、体の色を変えられなければ人間にしか見えない。

そう、僕が帰ることの出来ない色を、二人は自由に変えることが出来る。

兄は感情が高ぶると色を綺麗な赤に染め、冷静になると段々と青くなっていくなど多芸だし、姉はその日の気分でファッション感覚。

たまにステレスしたりして友達で遊んでいるらしい。

なんとも言えない趣味······それでも、趣味だ。

僕には、暇つぶしをするための趣味、それすらない。

何も無ければただ静かに立ち尽くして、誰にも気がついて貰えない、そんな空気みたいな存在が、僕である。

ふわふわしていて掴みどころがない、と言われればそうなのかもしれないが、何も決められないことをふわふわとか、好きなものを答えられなくて誤魔化すことを掴みどころがないとか言われても困る。

でも、そんな感情さえすぐに霧散してしまうのだから、やっぱり僕は『つまんねぇ奴』なのだろう。


燃え上がる炎のような真紅も、透き通る青空の如き青も、僕は永遠に身に纏えない。

服を着たところで、無個性は隠せない。

元より、亜人が増えたことで白髪白目が価値をなくした時点で僕に存在する個性なんて消えていたのかもしれない。


······なーんて、悲劇のヒロインぶってみたところで、やっぱり特に感じることは無いのだけれど。

楽観的、達観視。

多分そんな言葉すら似合わないし、正直言ったらこうやって思考すること自体面倒だと薄々思ってはいるのだが、思考をやめたらその瞬間無我の自分に飲み込まれそうで、こうして考えることをやめられないのだ。

どうしようもない男だ、僕は。

いや、そのうち自分の性別という個性すら曖昧になって、消えていってしまいそうだけど。

こうしてどうでもいいことを考えることでしか自我を持つことが出来ないなんて、本当に僕って薄っぺらなんだな、と心から思う。


······それすら霧散したのは、もう諦める他ないだろうが。

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