最終話 こっぴどく振られた彼女に告白された


「まずはごめん。助けるのにこんな方法しか思いつかなくて。色々と辛い思いをさせてしまったことを謝りたい」


 渚の肩に手を置き、浜崎さんは少し申し訳なさそうな顔でそんなことを言う。


「っ、そんなのいらない。 あなたのお陰で私も楓くんもこうして生きてここにいる。だから、消えないでずっと一緒に——」

「ごめん」

「っ...なによそれ。私を幸せにしたいんじゃなかったのっ?」

「今の渚ならきっと自分自身でそれは掴みとれるはず。私はそう信じてる」


 泣きそうな顔でうつむいている渚に対し、あくまで浜崎さんは冷静にそう返す。その瞳には確かに渚に対する信頼があった。


「私はアナタがいないなら幸せになんてなれない」

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しい。でも、私はもう消えるからそれは無理。ごめん」

「っう...だから謝らないで」

「その上で私は渚に頼みたいことがある」

「な、なに?」


 浜崎さんが真剣な表情でそんなことを口にすると、先程まで泣きじゃくっていった渚も涙を拭いそれに答える。


「幸せになって。そして自分の周囲にいる人たちも幸せにしてあげて。きっと、渚にはその力がある」

「そんなこと私なんかじゃ出来——」

「出来る。だって、私は渚のおかげで渚と出会ってから今日まで...ずっと幸せだったから」


 浜崎さんはそこで初めて満面の笑みを浮かべる。


「雫...」

「渚には心底感謝してる。私は渚が好き。大好き。だから、渚が幸せでいてくれたらきっとアッチの世界でも楽しく過ごせる思うんだ。きっと、渚のことだから自分の為に幸せになることは出来ないと思う。だから、私の為に幸せになって、渚。それが私の幸せだから。渚なら私の気持ち分かってくれるよね? だって、私達は親友なんだから」

「.............分かった、もう泣き言は言わない。幸せになる、幸せにして見せる」


 親友の浜崎さんの想いが伝わったのか渚はようやく顔を上げ、いつものあの凛とした口調でそう口にする。どうやら覚悟を決めたらしい。


「うん、それでこそ渚」


 すると浜崎は心底嬉しそうに笑顔を零す。


「それじゃあ、楓くん...渚のこと頼んでいい?」


 そして浜崎さんは俺の方へと視線を移すとそんなことを尋ねてくる。


「大丈夫だ。絶対に幸せにするし、幸せにもして貰う。これでいいか?」

「うん!」


 俺の返事に満足したように浜崎さんはまた笑みを零す。


「じゃあ私はそろそろ——」

「ちょちょちょっと待ってください、なんで伊織だけ華麗にスルーなんですか!? 伊織にも一言くらいくださいよっ」

「ごめん、忘れてた」


 浜崎さんが別れを告げようとした所でこのまで黙っていた伊織が、そんなツッコミを入れると浜崎さんは少し口元をニヤッとさせる。

 多分、これ確信犯だろ。浜崎さん伊織弄るの大好きだし。


「さっきから伊織の扱い酷すぎません!?」

「冗談。にしても一言かぁ...私、ゲーム部抜けるから部費下りなくなるから@1探すの頑張ってね、とか?」

「浜崎先輩が消えちゃうって言うのに伊織はそんなことを気にしているって思われてるんですか!? 他のは??」

「うーん、伊織ちゃんアナタは私にとって初めて出来たオモチャだった。伊織ちゃんで遊ぶのとても楽しかった、ありがとう。とか?」

「伊織これまでずっとオモチャだと思われてたんですか!?」


 完全に遊ばれる伊織。いや、なんか浜崎さんと伊織っぽいと言えばぽいけど。


「冗談、冗談。伊織ちゃんとこうして話してるのが本当に楽しかった。私は渚以外の友人なんて作れないと思ってたけど伊織ちゃんのお陰でそれが違うって分かった。ありがとう、私にとって渚と伊織ちゃんと楓くんといたこの1ヶ月間はこれまでで1番楽しい1ヶ月だった。本当にありがとう」

「な、なんなんですか。急にそんな真面目なこと言って......。っ、そのっとても悔しいですが伊織も楽しかった...です」

「うん、ありがとう」


 伊織の言葉に浜崎さんは嬉しそうに微笑む。まぁ、なんやかんやめちゃくちゃ気があってたしなぁこの2人。


「じゃあ、本当にもういく。本当に3人ともありがとう。その、ちょっと今更これを言うのは恥ずかしいけど...時々は思い出してくれると嬉しい、じ、じゃあ!」


 最後にそんなことを言うと浜崎さんは浮かび上がり、空へと消えていってしまった。


「忘れるわけないのに、バカっ」


 そして隣の渚は浜崎さんがいなくなった後、泣きそうな顔でそれをなんとか堪えるかのようにそんな言葉を天に吐くのだった。



 *



 そんな出来事から数日経ったある日の放課後、俺は渚から呼び出しにあっていた。

 すると、先に来ていたらしい渚が少しソワソワとした様子で俺を待っていた。


「ごめん、待たせたか?」

「ううん、全然よ」


 俺の問いにブンブンと首を横に必死に振って答える渚、どうやらかなり緊張している様子だ。


「それで今日はどうしたんだ?」

「それは...その、アナタに伝えたいことがあるの」


 なにやら決心した様子の渚は俺の目を真っ向から見る。そして、


「私は楓くん、アナタのことが好き。大好き。私が言うのはとても差し出がましいけれど、こんな私でも良かったらもう一度付き合ってくれない...かしら?」


 顔を真っ赤に染め上げながらそんなことを伝えてくる。


「今度はもう絶対に離さない」

「っっっ!? うん」


 そんな渚に応えるように俺は震えている渚の体を正面から抱きしめる。彼女は、一瞬驚いたように固まるが、その後でしっかりとそれに応えてくれる。


「じ、じゃあ、よろしくね?」

「あぁ、末永くな」

「そ、それはまだ先の話で——」

「嫌なのか?」

「嫌じゃないけど...」

「じゃあ、末永くでいいじゃん」

「.............はぁ、し、しょうがないわね」

「やったー」

「本当にアナタってズルいわ」


 そして、ハグを終えた俺と渚はそんなやり取りをしながら帰路へと向かうだった。

 今度は離れることのないように、お互いのギュッと手を固く握りながら。





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 一応これで完結!


 休みの期間があまりに多すぎる本作でしたが、それでもここまで読んだくださった皆様には本当に感謝しかありせん。 完結までなんとかこぎつけたのはひとえに読んでくださる皆様の応援のお陰です。

 本当の本当にありがとうございましたっ!!!


 一応これで完結ですが書いて欲しい番外編や後日談等はリクエストがありましたら、暇な時に書こうかなと思うのでコメントしてくださると嬉しいです。


 ではでは〜。

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