第31話 出会い
「本当に助けられました。ありがとうございます。それと、巻き込んでしまって申し訳ありません」
「もういいっているのだけど...」
その後、警察からの色々な事情聴取を受け終えようやく解放された俺は一緒に事情聴取を受けていた恩人である少女に頭を下げていた。しかし、どうやら彼女は感謝されることにはあまり慣れていなかったらしく、少しばかり困った様子でそう呟く。
「それよりもアナタはなんであんなことをしたの? 私にはそれが分からないわ。なんのメリットもないじゃない」
すると、彼女は話題を変えるようにそんなことを尋ねてきた。その口調は馬鹿にするようなものではなく、ただただ単純に本当に疑問を抱いているようだった。
「自分の為です」
「えっ!? いや、だからアナタにメリットないわよね?」
俺は思ったことを包み隠さずそのまま口にするが、彼女は更に戸惑った様子。
「あの場面で無視を選んでたら自分が自分を嫌いなりそうな気がしたんです。それで、何もせずに
「...アナタ変わってるわね」
「そうですかね?」
しかし、俺の続く言葉を聞いた彼女は少し目を丸くしてそんなことを呟く。
「でも、あれは危険よ。私が助けなきゃ危なかったでしょう?」
「だからこそ、助けて貰えてラッキーでした。感謝です」
「いや、私は気をつけなさいって言っているのだけど」
彼女は呆れているような怒っているような口調でそう告げる。
「そう言えば名前ってなんて言うんですか?」
「それ...言う必要あるかしら?」
「恩人の名前くらい知っておきたいです。ダメですか?」
「別にダメって言うわけじゃ...はぁ。十六夜 、十六夜 渚よ。一切 覚える必要はないわ」
どうやら彼女は俺の視線に根負けしたようで
、手を自らの額に当てながら天を仰ぎ答えてくれる。
「まぁ、二度と会うこともないでしょうしさようなら」
「ちょっ、どうやってこの恩を返したら...」
「別に忘れればいいわよ」
慌てる俺に対し渚は一言だけそう告げるとスタスタと去っていってしまった。
*
「で、どうやって恩返しをしたらいいですか? それと友達になってくれませんか?」
「...まさかアナタ同じ学校の人だったなんて」
「いや、どこかで聞いた名前だなぁと思って
もしかしたらと来てみたらって感じです。ちなみに昨日言い忘れましたが自分は赤田 楓って言います」
「そう、どうでもいいわ」
翌日の朝、普段より早く家を出た俺は自分のクラスではなく5組へと足を運んでいた。
「私に関わってもいいことなんてないわよ。分かったら帰って頂戴」
「じゃあ、今日の所は帰ります」
「「今日の所は」じゃなくて、って聞いてる!?」
*
「おはようございます。十六夜さんって昨日もそうでしたけど朝早いんですね」
「まさか本当に今日も来るなんて...」
そのまた翌日、俺が昨日のように彼女の元へと足を運ぶと彼女は心底呆れたような様子でそんなことを呟く。
「それで恩返しの件なにか思い付きましたか?」
「帰って頂戴」
そんなことが続いたある日、
「...本当に来ないでって言ってるでしょ。大体、私と関わっても損しかないわよ。私性格悪いし...」
いつもなら即「帰って頂戴」しか言わない渚が真面目な口調でそう口にした。
「十六夜さんはとても優しくて素敵な方だと思いますけど...?」
「っ。...あなたも私の話を聞いたことあるなら知っているでしょ? 私は告白してきた相手に邪魔と呟いて去る非情な女よ。それに人との関わりがトコトン嫌いで、近づいてくる人間には基本塩対応な嫌われ者よ? 関わるメリットないじゃない。むしろ、周囲からアナタまで変な目で見られかねないわ。...悪いことは言わないからこれ以上私に関わらないで」
渚は俺の言葉に一瞬たじろいだ後に珍しく感情の大分こもった声でそんな風に吐き捨てる。
「でも、周囲の人の評価が例えそうであろうと俺は十六夜さんにさんが本当は困っている人を放っておけないいい人だって知ってますから」
「っだから、アレは本当にたまたまで気分で助けただけ。いい人でもなんでもない。それに、私が言っているのはアナタも周囲の人間から良くない評価を受ける可能性があるって話で——」
「他人からの評価なんてどうでもいいんです。俺は十六夜さんになんとか恩返しをしたいし...十六夜さんと仲良くなりたい。ただそれだけです」
「...なんでそこまで私なんかと?」
彼女は俺への「関わるな」という警告を止めそんな疑問を投げかけて来る。
「ただ、あの時俺を助けてくれたアナタがその...とてもカッコよくて綺麗で目を奪われてしまったんです!」
「っっっ!? そ、そう」
俺が少し恥ずかしいような気持ちなりながらも素直にそう答えると、彼女はブワッと耳まで顔を真っ赤にする。
「...分かったわよ。友達になってあげる。恩返しの件も考えておく...これでいい?」
「えっ?」
俺が見たことのない彼女の表情に戸惑っていると渚がそっぽを向き、そんなことを言うので俺は思わず固まってしまった。
「な、なんでアナタが固まるのよ!? 言っておくけどアナタがそうしたいって言うから仕方なく受け入れてあげただけで...その私がそうしたいと思ったわけじゃ——」
するとその途端に彼女は少し焦ったような言い訳でもするかのような口調でそうまくし立てる。
「そんなこと分かってますよ。でも、それでもまさか受け入れて貰えるとは夢にも思ってなかったのでつい...」
「...そう。ならいいわ」
俺の言葉を聞いた渚はホッとしたように胸を撫で下ろすと、息を整えた。
「あっ、あと、それと前から思ってたけどアナタのその敬語やめて頂戴。同級生なんだからタメ口でいいわよ」
そして渚は最後に付け足すようにそんなことを言うのだった。
*
「で、その後どうなって付き合うことになったんですか?」
「その1週間後くらいに我慢出来なくなって告白したら、まさかのオッケーを貰って付き合うことになったんだ」
「へぇ、そうなんですね」
「...アナタはよくもまぁ昔のことそんな鮮明に覚えてるわね」
俺の話に渚は少し恥ずかしそうに顔をうつむかせつつ、そんなことを口にする。
「だって、一番大事な思い出だからな」
「っっっ。伊織ちゃん楓くんの口を塞ぐのを手伝って、今すぐにっ」
それに対し俺が素直にそう答えると渚は顔をブワッと真っ赤に染めて伊織に向かってそんなことを呼びかける。
「いやー、いい話じゃないですか。はい、とてもイライラ出来るしニマニマも出来る素晴らしい話です」
「それはどういう感情なの!?」
「嫉妬と尊いの両面感情です」
「カオスじゃないっ」
しかし、伊織に振り回される渚。うーん、なんとも珍しい光景だ。
「にしても、本当に懐かしいなぁ」
「その...楓くん、ちょっといいかしら?」
俺がそんな渚と伊織を眺めつつ思い出にふけっていると、渚が先程までとは違う真面目な顔をして俺に声をかけてくる。一体どうしたというのだろうか?
「話を聞いてくれないかしら? アナタに伝えなきゃいけないことがあるの」
そして渚は真剣な口調でそう続けるのだった。
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次回「謝罪と罰」
あと、3話の予定(ワンチャン4話になるかも)
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