第29話 お前だろ
「楓先輩の家周辺にはいませんでした。情報もなしです。渚先輩の方はどうでしたかっ?」
「学校周辺もくまなく探したけど少しの情報すら得られなかったわ」
あれから数十分ほど伊織ちゃんと別れて楓くんを捜索していたわけだが、どれだけ探しても見つからないので一旦情報共有と状況整理を兼ねて再び集まっていた。
「あと他の候補を探す...と言っても他に居そうな場所ないのよねぇ」
結局、これだけ探しても成果はゼロ。こうなると学校周辺や家付近にはいないと考えるのが妥当だろうが他の場所はもっと思い当たらない。
「楓先輩、そもそも寄り道するような人じゃないですからね。家に帰ってない時点でおかしな事態なんですよね」
「電話もラインも応答ないのよね?」
「はい、まさかのスルーです。返事が返ってきません。これは伊織、楓先輩から嫌われちゃったんでしょうか?」
スマホの画面を見せつつ涙目になる伊織ちゃん。
「いや、未読なんだから返事が返ってこないのは当たり前よ」
そしてその画面を見た私は一言そんなツッコミを入れる。
「えっ、そんなの分かるですかっ!? どこでっ? どうやって?」
「既読ついてないじゃない。スマホ初心者!?」
すると、伊織ちゃんは酷く驚いた様子で私の手を掴みつつそんなことを言うので、むしろ私の方が衝撃を受ける。
「失礼な、伊織はゲーマー。様々なソシャゲーをプレイし数万円課金なんてザラにするスマホ上級者ですよ」
すると、伊織ちゃんは胸を張ってそう宣言する。
「それはスマホ上級者じゃなくてただの課金中毒者よ。ラインはあまり使ったのことないの?」
「いやー、今まで友好関係楓先輩くらいしかなかったですし、その上伊織はアナログ派なので基本連絡もラインより電話というか...Switchより3DSというか——-」
「そんなことあるのね...」
全く言っていいほど友人がいない私でさえ家族と連絡をとる時はラインを使うので、一応一通り使い方は分かっている。まさか伊織ちゃんが知らないとは思ってもいなかったが。
「とにかく既読って文字が送ったメッセージの横についたら教えて。それが楓くんが見たっていう合図だから」
「分かりました」
私はとりあえず伊織ちゃんにそう指示を出す。
「さてと、まぁそれはいいとしてどこを探すかよね」
「もう、こうなったら学校から先輩の家までの道の周辺をしらみ潰しに探すくらいしかないですよね...」
「そうね。でも——」
「...やっと見つけたっっ」
伊織ちゃんと顔を見合わせどうすべきか真剣に頭を悩ませていると、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「雫、どうした——」
「話は後! ...2人が探してるのは楓くん。合ってる?」
突然、姿を現した親友に私が戸惑っていると語気を強めてそう尋ねてくる雫。
「あ、合ってるけど...」
「楓くんの場所なら私が知ってる。...から着いてきて」
「ちょっ、ちょっと待ってください!? なんで浜崎先輩が楓先輩の場所知ってるんですか!? あと、なんで私達が探していることも...」
有無を言わさぬ態度でそう告げると背を向けて早歩きを始めた雫に伊織ちゃんは当然の疑問を投げかける。
「今はとにかく説明の時間が惜しい。説明なら後でする...から今は黙ってついて来て」
「その楓くんがいる場所に間違いはないのよね?」
確かに伊織ちゃんの言うように雫の行動には疑問は多い。だけど今はそれ以上に優先すべきことがある。
「ん」
私の言葉に対し親友は真剣な表情のまま頷く。雫は嘘をつくタイプではないし、なにより私は雫を信頼している。理由は分からないが雫は楓くんの場所を知っている。今はその情報だけで充分だ。
「分かったわ。伊織ちゃん、とりあえず今は雫を信じて着いていきましょう」
「りょ、了解です!!」
「...こっち、着いてきて」
この胸のざわめきがどうか杞憂であることを願いつつ、私は走る雫の背中を追うのだった。
*
「ち、近寄るな! ぼ、僕は何もしていないし君のことも十六夜さんのことも知らない!!」
「...十六夜って名前出してる時点で知ってるし心当たりありまくりじゃねえか」
俺は震える足をなんとか怒りで押さえつつ、目の前でハードを被りサングラスをつけ体を震わせている挙動不審な男に対峙する。
「か、隠さなくてもいい。お前がここの所渚にストーカーしてるのは分かってるんだ」
そう俺は今、渚をストーカーする男に話を聞いていた。というのも、ここ最近の渚の様子の異常さを感じ取った俺は原因を探った。その結果、渚をストーカーしている男がいることに気がついたのだ。
だから、こいつを対処する必要があった。その為に、今日は伊織に勘付かれないように早く学校を出てスマホの電源も落として足跡も辿れないようにした。
早くこいつを対処して渚の不安を消し去ってやりたい。そう意気込んでいたが実際行動に移してみると足は震えるし、頭も回らない。全く格好がつかない状態である。
おかしいな、もうちょっとクールな感じでちゃちゃっと終わらせるつもりだったんだけど。
「す、ストーカーじゃないっ!!! 彼女は僕のこと好きなんだぞ!??? 君こそがストーカーだろっ、なにを言ってるんだ」
「お前こそ何を言ってるんだ?」
すると、ストーカー男は早口でそんなことをまくし立てる。俺は意味が分からずそう聞き返すしかない。本当にこいつはなにを言ってるんだ?
「ぼ、僕は知ってるぞ! 君は彼女に...十六夜さんに振られてはずだ。は、ははん、元カレが未練たらたらでストーカーか。彼女はもう君のことは好きじゃないんだよっ。君の希望が叶うことはない。無駄なんだよ、諦めな!」
少し得意そうな様子でそんなことを言うストーカー男。
「そんなことどうでもいいんだよ。重要なのは渚がお前みたいな奴のせいで不安な気持ちになっているってことだっ!!」
「ち、近寄るなっ」
俺がジリジリと距離を詰めていくと怯えたように手を振るうストーカー男。
「俺にもうチャンスはないとかどうとか関係ない。俺は渚が好きだ。幸せになって欲しい。本当に好きな人と結ばれて幸せに。でも、それはお前じゃない。お前はただのストーカーだ。渚を傷つける害でしかない。だから、二度と渚に近寄るなっ!」
「——だったら、こんな危険なことしないで。...そしてアナタが私を幸せにして」
俺が更に一歩を踏み出し声を荒あげそう叫んだ時だった、後ろから大好きな凛とした声がその声が聞こえてきた。
「っ!? な、渚!? な、なんでここに」
「楓くんこそなにしてるのよ、もう」
予想外の展開に俺が焦っていると、渚は呆れながらも安心したようにホッと息をつき俺の手を握る。
「せ、先輩。間に合って良かったです!!」
「それに伊織に浜崎さんも...」
俺が呆然としていると伊織や浜崎さんも姿を現わす。
「っっっ!! くそストーカーが僕のっっ十六夜さんにこれ以上近づくなっ!!」
そして俺がほんの少しストーカー男から目を離したその時だった、ストーカー男はそう叫ぶと右ポケットから刃物を取り出し、俺に向かって突き出した。
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このまま最終話まで頑張る! うおぉぉぉ!!
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