第28話 全く渚先輩が馬鹿なら、楓先輩も馬鹿野郎ですねっ
「...ごめんなさいね。私ったら後輩の前で泣いちゃうなんて...」
「全然、気にしないでください。むしろ、1人で我慢してる方がよっぽどダメですからっ」
ひとしきり泣き、ようやく今までの感情を出し切った私は清々しい気持ちになりながらも伊織ちゃんに謝罪するが、伊織ちゃんはそんなことを言ってくれる。本当にいい子である。
「それに伊織としても渚先輩の泣き顔ゲット出来たのでこれを脅しに使えば、渚先輩からゲーム機ねだり放題ですから」
「...」
違ったわ。悪魔そのものみたいな子だったわ。
「じょ、冗談ですからね!? そんなガチ引きみたいな顔やめてくださいっ。お願いですから。メンタル最弱な伊織はその表情に耐えきれないのでっ」
「...ゲーム機って何円なのかしら?」
「やめて下さい、そんな酷く怯えた表情でサイフなんか取り出さないでください?? 伊織の罪悪感今凄いことになってるのでっ」
今度はむしろ伊織ちゃんの方が泣きそう顔でそう懇願してくる。本当に素直で優しい子だ。どうりで楓くんが面倒をみたくなるわけである。今日で伊織ちゃんがあそこまで楓くんに気にかけられているわけが分かったような気がする。
「でも、渚先輩前よりずっと明るい顔になりましたね。...まぁ、1番嬉しそうなのが伊織を遊んでいる時なのは気になりますが」
「そうね...」
「いや、伊織の部分はちゃんと否定してください!?」
「でも、私嘘つくの苦手だし...」
「いや、今の今まで嘘つき続けてきた人が何言ってるんですかっ!? ボケですよね?? 本当は伊織で遊ぶの楽しいとかは思ってないんですよね? ねっ?」
「...」
「無言で「心苦しい」みたいな表情やめて下さい」
本当に面白い子である。
「はー、大分気持ちが楽になったわ。今日は本当にありがとね」
「それは伊織が相談に乗ったからですよね? 決して、伊織で遊んで満足したからとかではないですよね?」
「子供の頃、オモチャで遊ぶの大好きだったのよね...」
「それ伊織のことオモチャって言ってます!?」
「冗談、冗談よ。今日はわざわざ相談に乗ってくれてありがとう。私の誤った考えを正してくれてありがとう。本当に心の底から感謝してるわ」
「べ、別に伊織は楓先輩の為に動いただけですけどね」
素直に頭を下げ感謝の意を伝えると、伊織ちゃんは照れくさそうに頰をかきながらそんなことを言う。
「でも、伊織ちゃんは本当にこれで良かったの? 私は誤った選択をして楓くんを傷つけ続けてきたわ、それに多分今も...。だったら、こんな私は放置しておいた方が良かったんじゃ——」
「伊織と渚先輩はもう友達ですから。友達が泣いてるのを助けるのに理由がいりますか?」
「友達...」
伊織ちゃんから放たれた言葉を私は噛みしめるように口にする。
「い、いや、伊織の中ではゲームを一緒に遊んだ人は友達って認識でそんな深い意味は無いというか、なんといいますか。一般的な友達という意味ではなくただゲーム仲間というですね——」
するとそんな私の反応を見た伊織ちゃんが慌てた様子で顔を真っ赤にしながらそんなことを言う。可愛い。
「ふふっ、じゃあ、私とちゃんとしたお友達になってくれない?」
「...そこまで言われたしょうがないですね」
思わず笑いをこぼした私がそう言葉にして手を差し出すと、伊織ちゃんは少し恥ずかしそうに片手で顔を隠しつつもう片方でその手を掴んでくれた。
「あ、あのー無言で抱きしめるのやめて下さい!? せめて一言...」
「抱きしめるわ」
「い、いや、そういうことではなくて。それにもう抱きしめてますし。と、とにかく離れてください。そもそもなんで急に抱きついてるんですか」
いや、可愛かったから。
「お、思ったより渚先輩ってガツガツ来る感じなんですね」
「自分で言うのもなんだけど私は愛が重いタイプよ」
付き合った時に楓くんが他の女の子と話してるところを見る度ムカムカしてたくらいには。
「本当に自分が言うのもなんですねっ」
「話がずれちゃったけどまぁ、とにかく伊織ちゃんが無理をしてないか気になっただけよ」
「伊織の方はもう大分吹っ切れたので渚先輩が心配するまでもないですよ。というか、渚先輩は今度こそ選択を間違えないでくださいよ。吹っ切れたといはいえ伊織は楓先輩のことまだ全然好きなので、今度はうばっちゃいますからね?」
「大丈夫、今度はもう楓くんを傷つけたりしない。選択は間違えないわ」
私は伊織ちゃんのことを真っ直ぐに見つめながらそう宣言する。ここでしっかりと応えないのはここまでしてくれた伊織ちゃんに失礼だ。
「...全く、こんな可愛い伊織が譲ってあげたんですから任せましたよ?」
「そうね」
「まさかの肯定!? うー、なんかツッコミされないと違和感が」
自分で可愛いと言ったのに頷くと恥ずかしそうにする伊織ちゃん。変な子である。
「じゃあ、今から伊織がここに楓先輩を呼び出します。ちゃんとこれまでのことのこととこれからのこと話し合って下さい。分かりましたか?」
「えっ!?ちょっと、それは心の準備が...」
思わぬ展開に私は慌ててそう口にする。
「こういうのはなるべく早い方がいいですから。それにさっきもう選択は間違ないって言ってくれたじゃないですか。なら大丈夫ですよね?」
「うっ、確かに.............分かったわ。覚悟を決めるわ」
「はい、頼みましたよ」
そう言ってニコリと笑うとスマホを取り出す伊織ちゃん。私になんやかんや言っておきながら伊織ちゃんも存外も強引である。
「..........んっ?」
「どうしたの?」
そして恐らく楓くんに連絡を取ろうとした伊織ちゃんだったが突然手を止めてしまうので、私は不思議に思い尋ねる。
「いや、電話をしようとしたんですが楓先輩が出ないんですよ。いつもなら、5秒以内には出てくれるのに...」
すると、伊織ちゃんは何故か顔を青くしかながらそんなことを伝えてくる。そして、何故か私の額も嫌な汗がつたう。
「凄い嫌な予感がします。なんでこんな時に限って出ないですか楓先輩っ。全く、渚先輩もバカですけど楓先輩も馬鹿野郎ですねっ!」
そして伊織ちゃんは焦りを露わにしスマホの液晶画面に向かってそう吠える。
「とにかく手分けして楓くんの居そうな場所を探しましょう」
「はい」
そんなわけで私と伊織ちゃんは走り出すのだった。
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久しぶr
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