第27話 それは逃げているだけです


「えっと...それで今に至るわけですか? あんまり腑に落ちないないですね」

「なんでよ!?」


 自分としては勇気を振り絞って打ち明けた話だったが、どうやら伊織ちゃんはあまり納得がいっていないらしい。とはいえ、これ以上なにを話せばいいと言うのだろうか?


「だって単純な話、渚先輩が楓先輩と別れる必要なかったじゃないですか」


 私がそんなことを考えていると伊織ちゃんはなんてことないようにそう告げた。私は一瞬意味が分からず固まるが、慌てて口を開く。


「い、いや、だって私といるとまた彼に危害が及ぶ可能性があるのよ? そんなの絶対に避けなきゃじゃない」

「...はぁ」

「なんでそこでため息!? 別に私の言ってることおかしくないわよね?」


 しかし、何故か伊織ちゃんが呆れたようにため息をつくので私は動揺する。


「考えなしすぎですよ、渚先輩。どのくらい考えなしかと言うと、至高のボードゲーム「人◯ゲーム」の良いところを全て無くしたようなテレビゲーム版「◯生ゲーム(人生はクソゲーや!)」を出し続けたタカラト◯ーくらい考えなしです。まぁ、一応最新作は私的には最初はそこそこ楽しめたので最低限は評価しますけど」

「いきなりなんの話か全く分からないけど、とてつもなく罵倒されてるのは伝わって来たわ。でも、じゃあどこら辺が考えなしなのかしら。私はちゃんと楓くんに少しでも危害が出ないように——」

「それで楓先輩には危害が出なかったとして、渚先輩が危害を受けたとしたら楓先輩がどれだけ傷つくか、とか考えなかったんですか?」

「えっ?」


 思ってもみなかった伊織ちゃんの言葉に今度こそ私は完全に固まってしまう。


「確かに渚先輩が楓先輩に酷い言葉をかけていたのは、もし渚先輩が危害を加えられたとしても楓先輩が気にしすぎないように必死に嫌われようとしていたから、っていうので今なら理解は出来ますよ? ...まぁ、だとしてもあの言葉は許せませんけど」

「だったら...」

「でも、それ如きで楓先輩が渚先輩のことを嫌いになりますか? あの楓先輩ですよ? どれだけ酷い言葉を吐かれようと自分が悪いとしか考えないですよ。そんなこと渚先輩が1番分かってるはずでは?」


 伊織ちゃんはまたも淡々とそんな風に言葉を続けた。確かにそうだ。彼はそういう人間だった。何故、今までそんな当たり前のことを私は忘れていたのだろうか。

 それなのに、私は彼に酷い言葉を浴びせ嫌われようとした。無意味な上、彼を傷つけることでしかない行為をしてしまっていたのだ。


「楓先輩にちゃんと事情を打ち明けていれば事前にそれだけの情報があればストーカー対策も出来ますし、渚先輩の身も守れるじゃないですか」

「でも、だからって楓くんと付き合ったままでいていいわけがないじゃないっ。わ、私は...私のせいで彼は死んだのよ!? そんな私がたまたま時間が戻れたからって、彼に頼って...また、彼を危険な目に合わせて幸せな日々を送ろうだなんておかしいでしょ? 私は罰を受けるべきなのよっ」

「ようやく、本音が聞けましたね」

「っ」


 私が吐き出した言葉を聞き終えた伊織ちゃんは穏やかな笑顔を浮かべただ立っていた。


「渚先輩は楓先輩に危害が及ぶことを恐れ自身に罰を求めていた。でも、それを望むのは渚先輩が楓先輩のことが大好きだったから。大好きだったからこそ自分のことを許さずにいた」

「...」

「でも、本当に渚先輩が心の底から望んでいたことはまた楓先輩といつもの日常を送ること...そうなんですよね?」


 伊織ちゃんの顔すらまともに見ることも出来ず、その言葉にただ頷く。


「伊織、人の感情の変化に人一倍敏感なんですよ。だから、渚先輩に会う度楓先輩以上に苦しそうでどこか自分の本当の気持ちとは真逆の行動を取っている感じがして、とてもモヤモヤしていたんです。やっぱり思った通りでしたね」


「まぁ、人の感情の変化に敏感すぎるせいで親切心の裏に見える下心とかをすぐ感じ取ってしまって、人が信じられなくなってゲーム好きも相まって不登校にもなっちゃったんですけど」伊織ちゃんはそう付け足すとフフッと笑い漏らす。...いや、そのネタは反応しづらいわよ。


「渚先輩、本当はずっと辛かったんですよね? こんな伊織ですが先輩にアドバイスです。...困ったことがあるなら誰かに頼っていいんです。なにも1人で抱え込む必要なんてこれっっぽっいもないんですよ。現に伊織は色んなこと楓先輩に頼りっぱなしです! なんなら、執事かってレベルで頼り尽くしてます」


 伊織ちゃんはビシッと人差し指を立てるとそう宣言する。いや、最後の件に関しては楓くんの困り尽くしている様子が浮かぶのだけど。


「でも...また、楓くんを危険に晒すことは」

「なーんで、楓先輩だけなんですか。私や浜崎先輩だっているんですから、是非是非頼ってください。まぁ、通常時の伊織は攻撃力マイナスですけど」

「マイナスってなに!?」

「でもでも、楓先輩のピンチなら攻撃力∞ですからっ。なんでも出来ますよ。きっと浜崎先輩も渚先輩がピンチなら同じはずです。...だから、渚先輩はもっと人に...仲間に頼っていいんです!」


 そして今度は私の方を指差すと伊織ちゃんはそう言い放った。


「そして、もし辛くて苦しくて限界なら...思いっきり泣いていいんですよ。心配をかけるかもなんて遠慮はいらないんですよ」

「うっうっ、うわぁぁぁぁぁぁ」


 その日、私はあの日以来に思いっきり泣きじゃくった。それでも、その涙はあの日の辛く悲しい涙と違ったもので溢れていた。



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 次回「全く渚先輩が馬鹿なら、楓先輩も馬鹿野郎ですねっ」


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