第26話 明かされる真実 (渚 視点)


 今の私の目の前には、真剣な眼差しで此方を見つめる後輩である伊織ちゃんの姿があった。


「...なにも隠してなんかないわよ。ただ部活に飽きたから辞めたくなった。それだけよ」

「はぁ...」


 しかし、そんな伊織ちゃん相手とは言え本当のことを話すわけにはいかない私は若干言葉を詰まらせながらもそう口にするが、伊織ちゃんからは呆れたようなため息が漏れる。


「あぁ、もう。これじゃあ、なんの為に伊織が勇気出して先輩に振られたのか分からないじゃないですかっ!」

「えっ?」


 そして、次の瞬間伊織ちゃんは一切予想だにしていなかった衝撃的なことを口にした。

 そして私は今の状況も忘れ、脳の処理が追いつかず固まっていた。伊織ちゃんが振られた? 誰に? いや、でも流れ的に楓くん以外いないし。


「そりゃあ、楓先輩は私どんだけアピールしても渚先輩のこと見てばっかりですし、私的にも最近の渚先輩は好きですからね。それに渚先輩も楓先輩のことまだ好きなのは分かってますから」

「す、好きじゃないわよ」

「この後に及んでそれは無理がありすぎますよ。伊織も楓先輩のことが好きですからね。同類はなんとなく分かるんです」

「私はゲーム廃人じゃないわよ」

「渚先輩は昇竜拳でもくらいたいんですか?」


 少しネタに走って逃れようとしたところ、割とマジトーンでそんなことを言われてしまい私はおし黙る。怖い。ゲームの類ではこの子煽っちゃいけないのすっかり忘れてたわ。気をつけないと。


「とにかく、お願いです。楓先輩には言いませんから、どうか事情だけでも聞かせてくださいませんか? 楓先輩、口にこそ出さないものの分かり易すぎるくらい落ち込んでいます。それに、私の目には渚先輩も苦しそうに見えます。楓先輩と渚先輩をずっと見てきた身としてなにか相談に乗れるかもしれませんし」

「...」


 伊織ちゃんにダメ押しと言わんばかりにそう言われ、私はしばらく考え込むことにする。

 どうするべきなのか、それに正解はないような気がした。でも、伊織ちゃんはきっと自分も辛いだろうに楓くんの為にと、こうして話を聞きに来たのだ。だったら、


「...話して納得したら退部させてくれて今後関わらないようにしてくれるなら、いいわよ。それに今から話す話は全然現実感ないし、嘘だと思うかもだけど——」

「全然、オッケーです」

「分かったわ」


 結局、私は退部を条件に隠して通してきた真実を話すことに決めたのだった。正直に言えば、これは悪手なのかもしれない。でも、もう深く考えることの出来るほど私の精神に余裕はなかった。


「実はね...」



 そして、私はついに口を開くのだった。



 *


 その日は私にとって何気のない普通の一日...となるはずだった。


「なぁ、渚って誕生日プレゼントなにか欲しいものあるか? あと、パーティ俺の家で考えてるんだけど予定空いてる日ある?」

「そんなものないわよ。今までも貰ったことないし、パーティもいらないわ。余計な手間をかける必要ないわよ」

「だからこそ俺はお前に誕生日の喜びというもの知って欲しいんだが...パーティだけでもダメか?」

「うっ、しょ、しょうがないわね。いいわよ、仕方ないからあなたの計画に付き合ってあげることにするわ」

「よし」

「...全く、あなたはもう」


 2.3日前に喧嘩をしたはずの私達は何事もなかったようにそんな会話を交わしながら、雪の降る暗い夜道を歩いていた。少し前まで楓くんの家へと遊びに行っていてその帰り道だったのだ。ちなみに、一応「1人でも帰れる」とは言ったのだが楓くんは一切聞く耳を持たず付き添ってくれたのだ。

 しかし、それ故に悲劇は起こってしまった。



「あと、さっきから思ってたんだが寒くないか? 大丈夫か?」

「全然大丈夫よ、心配性ね」

「渚は自分のことを疎かにしすぎるから心配になるんなんだよ」

「あなたにだけは絶対に言われたくないセリフNo.1ね」

「なんで!?」


 よおーく、これまでの自分の振り返ってみないさい、私が次にそんなことを口にしようとした時だった。


「全く思いあたる節が——っ!? 危ないっ!!!」

「きゃっ!?」


 どうやらなにかを察知したらしい楓くんが酷く慌てた様子で、なにかから私を庇うように私を突き飛ばした。


「か、楓くん急になにを——」


 一瞬すぎる出来事になにが起こったのか分からなかった、私は雪の積もった地面から起き上がってそんなことを尋ねようとして...固まった。

 何故なら、そこには、


「楓くんっ!? 楓くんっ!!? 嘘っ、嘘よ、なんで...なんでよっ」


 腹部に銀色のナイフが突き刺さり、白かったはずの服を真っ赤に染められ倒れ込んでいる楓くんの姿が街灯によって照らし出されていた。私は訳が分からず視界が真っ白になりながらも必死に彼に何度も呼びかけるが、彼から返事が返ってくることはなかった。そして私が重度のパニックに陥りながらも、なんとか救急車を呼び止血を試みるが血は止まるどころかむしろドンドン流れ出てくる。心臓も止まってしまっている。



 もう、助からない。



 素人である私からしてみてもそれは明らかだった。あまりの出来事に現実を受け止めきれず、私が手を動かしながらも呆然としていると


「も、もう、無駄だと思うよ。確かに手応えあったし、失血もこれだけしてる。まず助からない。そ、それよりも僕と話さない?」

「えっ!? あ、あなたは誰よっ!!」


 暗闇中からそんな言葉が飛んできて私は更なるパニックに陥ってしまった。すると、暗闇から灰色のパーカーを被った男が姿を現したかと思えば、


「か、彼を刺したのは僕だよ?」

「はっ?」


 何故か、誇らしげに少し胸を張ってそんなことを口にした。一瞬、意味が分からず固まってしまった私だったが、確かにどう考えても楓くんは誰か刺されたのであり本人がそう口にしていることからも嘘ではないことを理解した。


「あなたが!? なんでっ、なんでこんなこと...」

「痛いっ。 痛いってなにをするんだよ。というか、なんで泣いてるんだよ」


 そして気がつけば私は咄嗟に彼を地面へと叩きつけていた。しかし、当の本人は何故私が怒り泣いてるいるのから全く意味が分かららないようで、不思議そうに首を傾げていた。


「覚えてないの? 僕だよ、僕ほら半年前くらいにひったくりにあった時に助けてくれたよね? 君は絶対に僕に気があったもんね。それをこの男が無理矢理...そうなんでしょ? ねっ? ねっ?」

「あなたはなにを...なにを言っているの?」


 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。


 目の前の男に対し吐き気という吐き気を覚えつつも私はなんとか声を絞り出した。


「だ、だって、君言ってたんじゃん。2、3日前くらいにさ「私にもう近づかないで」って。僕、いつも君を見守ってたから知ってるよ?」

「そ、そんなのっ!」


 その時、私の脳内で喧嘩をした時の情景が蘇った。楓くんとクラスメイトの女の子が仲よさげに話しているのを見てしまった私は、くだらない嫉妬心が芽生えてしまい、つい楓くんにキツくあたってしまった。楓くんは終始申し訳なさそうにしていたが私は永遠と攻め立てていた。

 結局、冷静になった私が翌日謝罪をして楓くんも快く「気にしてないから大丈夫、というか嫉妬するくらい好きになってくれて嬉しいよ」なんてことを言ってくれたことで事なきを得たはずだった。


「ね、ねっ?思い出したでしょ? でもさ、君が近寄るなって言ったのにこいつがさ、また近づいてたからさ。こ、こんなんストーカーじゃん。だ、だから迷惑だろうとおもって排除してあげたのに...なんで、そんな態度取るの? 酷いよ。僕は君の為にしてあげたのに」

「わ、私の為って、こんなのっ、こんなのっ」



 泣きじゃくりながらそこまで言いかけた所で私はとあることに気がつき固まった。つまり私がつまらない嫉妬心を働かせなければコイツが楓くんに手を出すことなんてなかったのでは? それにさっきも私が瞬時に接近に気がついて楓くんを守らなくちゃいけなかったのに、あっさりと守られてこうしてのうのうと生きてしまった。

 それにそもそも、私が楓くんと付き合っていなければ彼に狙われることは絶対になかったわけで...。


「私の...せい?」


 そんな考えが浮かんでしまい、私はついに吐き出してしまう。体の震えも止まらなくなり、頭痛も酷くなっていく、


「ねぇ、そんな奴のこともう忘れて僕と——」

「あなたは黙って。もう、黙ってよっ!!」

「な、ナイフなんか握ってどうしたの?」


 そして、その後のことはもうよく覚えていない。なにをしたのか、全部全部忘れてしまった。そして最後はいつのまにか視界が暗転して私はその場に倒れた。

 そして、


「今は7月...!?」


 次に目を覚ますと時間が巻き戻っていたのだった。



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「それは逃げているだけです」


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