第25話 再び渚に避けられてしまうようになった


「最近、渚先輩来ませんよね。今日は来るんでしょうか?」

「...だな」


 朝の登校中、伊織のそんな言葉に俺は曖昧に頷く。

 階段でのあの一件があって1週間が経つが、あれ以来渚は部活に顔を出すことはなく、また俺と顔を合わせることもなかった。

 まるで俺を避けているかのように。

 実際のところはどうなのかは分からない。再び俺のことを嫌いになったのか、ただただ体調があまり良くないのか、それとも他になにか理由でもあるのか。

 ただ、あの時の渚の顔を思い出すとあの出来事が原因としか俺には思えなかった。


「あっ、先輩のその表情は伊織になにか隠しごとをしている時の顔ですね」

「げっ」


 そして俺が心の中でそんなことを考えていると、伊織が俺の顔を指差してそんなことを言う。なんとなく伊織にバレると事態が絡まるような気がして、話していなかったのだがまさかこうも簡単に見破られるとは。


「...なぜ、そこまで分かる」

「先輩はとても分かりやすいですから。先輩のことを好きな伊織からすれば分からない方があり得ないです」

「お前、ナチュラルにそういうこと言うのやめない?」

「その言葉は先輩にそっくりそのままお返しします」


 あまりに自然に「好き」だと言う伊織に俺は軽くツッコミを入れるが、何故かそんなことを言われてしまう。理不尽だ。


「とーにかく、なにがあったのか話して貰いますよ? いまや、渚先輩は私の友人でもあるんですから、話を聞く権利が私にもあります」

「うっ」


 伊織にそう言い切られてしまった俺に拒否権などなく、結局先週の階段での出来事を詳細に説明することになるのだった。



 *



「なるほど、それは確かに変ですね」

「だろ?」


 俺の話を一通り聞き終えた伊織がそう呟くので、同意が得られて少し嬉しくなった俺はウンウンと頷く。


「まぁ、色々と謎の部分はありますがとにかく先輩はそれもあって気になってはいるものの、渚先輩の気持ちもあるので容易には話しかけに行けなくて困ってたってことですね」

「まぁ、そうなるな」


 そう話をまとめる伊織に俺は再度頷く。


「あれ? となると、変ですね。それでなんで先輩はこの頭脳明晰、容姿端麗、完璧超人の伊織に相談しなかったんですか」

「いや、それは...まぁ、うん」


 伊織に1番気づいて欲しくなかった所に気づかれてしまい、俺は軽くお茶を濁すように愛想笑いを浮かべるとそれだけ言って頷いた。


「何故、目を逸らしているのかとても気にはなりますが...今は見逃してあげます」

「ほっ...」


 するとしばらく訝しげな目を向けていた伊織が軽くため息をつくと、そう言うので俺は思わず安堵する。


「まぁ、今はそんなことを気にしている場合ではないですからね。そっちの話は下校時に聞くとして」

「結局聞くのか...」


 どうやら見逃して貰えたわけではないらしい。


「問題は渚先輩の方ですよね」

「まぁ、それはそうだな」

「にしても、浜崎先輩に聞いても「分からない」の一点張りだし先輩は黙ってばかりだったのでまるで事情が分かりませんでしたが、そんなことが起こっていたとは...で、先輩はそれでいいんですか?」

「んっ?」

「だから、先輩はそんな感じで渚先輩に避けられてるからって事情も知らずに諦めていいんですか? まだ、好きなんですよね?」

「それは...」


 伊織の言葉に俺は思わず固まる。


「...渚本人が望んでないなら俺が関わるのは違うだろ?」

「先輩の気持ちを聞いたつもりだったんですが...まぁ、先輩がそう言うならいいですよ」


 伊織が少しガッカリしたようにそんなことを言うがこればかりはしょうがないだろう。

 ...それに、今は他にやるべきことがあるからな。正直、俺の気持ち云々を優先するべきではないのだ。なにせ、そっちは事を急ぐ事態だ。悠長にしていられるほどの猶予がない。まぁ、伊織に言ったら巻き込み兼ねないので言えないが。というか、なんなら伊織なら絶対に「私も」と言って聞かないだろうからな。やはり絶対に言えない。


「先輩がまだなにを隠しているのかは知りませんが、これ以上の詮索は無意味でしょうして勘弁してあげます。さっ、早く学校に行きましょうか。これじゃあ、遅刻してしまいます。先輩が遅刻の罰として校庭に吊るされてしまいます」


 その後もジト目で俺のことを睨み続けていた伊織だったが、やがて根負けしたのかようやくそう口を開いた。というか、マジで時間がいつのまにかギリギリじゃねぇかっ。


「なんで、俺だけ吊るされるんだよ。その場合、お前もだろうが」


 俺は少し早歩きで伊織の横を歩きながらもそんなツッコミを入れる。


「先輩は別に可愛げはありませんから許されません」

「罰の重さに可愛げは関係ないだろ」

「ちっちっちっ、先輩は分かってませんねぇ」

「ヘイSiri、オススメの鈍器を教えて」

「はい、頭を撫でてあげることを強くオススメします」

「偽物のSiriは黙ってろ」


 そして、俺と伊織はそんなやり取りをしながらやや早歩きで学校へと向かうのだった。あ、朝から色々と疲れたな。



 *


 三人称視点です。






「...やっと、見つけましたよ渚先輩」

「...っ。久しぶりね、伊織ちゃん。折角だからこの退部届けを受け取ってくれないかしら?」


 STも終わった放課後、素早く教室を出てまだ誰もいない下駄箱で靴を履き替え、西門を出てとある公園の前へと歩みを進めていた渚の前に、事前にここを通ると知っていたとしか思えない伊織が現れた。

 渚は内心動揺しつつもあくまで表面は冷静を装う。


「そんなものは受理しません。...楓先輩から話は聞いています。どうか、渚先輩が隠していること、伊織に話して貰えませんか?」

「っ」


 しかし、対する伊織は真剣な眼差しで淡々とそんなことを口にするだった。



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「明かされる真実(渚 視点)」


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 割と終わり近いかも。

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