第23話 何があったの?
「はぁ」
「...どうしたの?」
「えっ、あっ、いや」
伊織から告白された昨日から今日を迎えた俺は、授業が終わり部活...と今日はそういうわけではなく1ヶ月に一度の清掃委員の仕事として渚と中庭周りの草を集めていた。
「でも、さっきから何度ため息ついたのか分からないし、顔色も随分と悪いわよ? 体調でも悪いの? それとも、なにかあったの?」
「うっ」
とまぁ、ここまでならただただ普通に委員会活動をやっているだけで、渚とも最近は全然気まずいわけではないから良かったのだが...問題は渚が俺の顔を見た途端にこんな風に問いただしてきたことにあった。
確かに今日は調子があまりよくない。それは俺も感じているし原因も分かっている。
昨日の話だ。確かに俺と伊織はなんやかんやあって友達関係でいることになったし、告白した伊織がスッキリしたような顔を浮かべていたのも事実。だが、今まで俺が伊織の好意に全く気がつかずそれらを無下にしてきたこともあったのか、と想像すると色々と申し訳なくなってしまったのだ。
分かってる。伊織にこんなこといったら「気にしすぎですね先輩。正直キモいですよ」くらい言われるような案件だって。
でも、それでもやはり考えると胸が痛くなるのだ。思い返せば何度もそれらしいアピールはあった。だが、それに俺は気づかなかった。
いや、無意識のうちに気づかないようにワザと思考を止めていたのかもしれない。あの関係性を壊したくなくて。それに確かに伊織との関係性は保たれた。だが、それが正解なのかは分からない。もしかしたら、伊織としては辛い気持ちはあるが俺に負い目を感じさせない為にそうしたのかもしれない、と色々考えてしまうのだ。
だが、まぁこんなことは人に話すようなことではないし渚相手なら尚更だ。最近はマシになったものの1ヶ月前は相当苦しそうにしていたし、ここで余計な心配をかけさせるわけにはいかない...のだが。
「黙りこまれたらどうしようもないじゃない。どうなの? 体調が悪いなら遠慮せず休みなさい。あとは私がやっておくから」
「いや、そういうのではない。別に保健室とかで休む必要もないから大丈夫だ」
「いや、明らかに大丈夫じゃない顔色よね、それ。最近ゲーム部でやったバイオでそんな顔の人見たわよ。...それで体調不良じゃないならなんなのかしら? やっぱりなにかあったの?」
今日の渚はやけにしつこかった。普段の渚といえば聞いてきたことに対して曖昧に答えたとしても、「ふーん」くらいのリアクションでそれ以上は追求してこない。だが、今日はこれでもかというほど食いついてきた。
ま、マズイ。どうすればいいんだ、これ。
「はぁ...別にどうしても言いたくないなら言わなくてもいいけど。自分でどうにかならないなら話くらい聞かせなさいよね。相談にのってあげることくらいは出来るから」
「あ、ありがとう」
俺が頭を抱えて考えを巡らせていると、渚は小さくため息をこぼすとそう口にした。そして俺はといえば酷く驚いていた。
確かに最近俺と渚は気まずいわけではないし、仲が悪いわけでもない。だが、結局単に「わけでもない」だけであって特段関係性が良いわけでもない、と俺は捉えていた。まぁ、この辺りはどこまでいっても元カレ元カノなわけで流石に無理がある範囲なのでしょうがないわけだが...。
しかし、今の渚はかなり踏み込んで俺を気遣ったり心配するような仕草を見せている。
「...なぁ、なんで今日はそこまで気にかけてくれるんだ?」
こればかりは俺が考えても仕方ないことなので率直に尋ねてみることにする。
「...ちょっと前は本当に悪いことをしたと思ってるの。無意味にあなたを傷つけてしまった。だからあなたがなにか困ってることがあれば助けてあげたい。ただのエゴよ、自己満足よ、気にしなくていいわ」
「...そっか」
すると渚は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべながらそう語った。どうやら、渚の中で前の出来事に大分罪悪感があるらしい。
「でも、本当に気にしなくていいからな? 理由は知らないし無闇に探ろうと思わないが、あの時の渚は俺なんかより遥かに苦しそうだった。だからあの時の渚の行動は悪くないとは言ってやれないけど俺は気にしてない...だから渚も気にする必要はない。でも、気持ちはありがとう」
だが、その大きすぎる罪悪感は間違いだと俺は伝えることにする。それにもう謝ってもらったし過ぎたことなのだ、本当に気にする必要はない。まぁ、真面目で律儀な渚らしいけどそこが不安要素でもあるからな。
こうして声をかけないといつか抱え込みすぎて倒れてしまいそうで怖いのだ。
「...あなたはもう口を開かないで頂戴」
「なんで!? さっきの「助けてあげたい」発言どこいったんだ!?」
しかし、何故か両手で顔を覆ってしまった渚にそんなことを言われてしまうのだった。
本当に何故?
*
「...はぁ、本当にあなたって危険人物よね」
「さっきからその妙な警戒心はなんなんだ? 俺、なんか無意識のうち悪いことでもしてたのか?」
「いや、そういうわけじゃないのだけど...やっぱり自覚ない辺り凶悪よね。本人すら予測出来ないならガードのしようがないじゃない」
「だからなにが!?」
掃除を終えて先生に報告に行くために階段を上がっている途中、前を歩く渚がそんなことを言うので俺は何度も理由を聞くが答えてくれない。本当に俺はなにをしたんだ? ...でも、これ以上聞いても答えてそうにないしどうにかしてこの話題を逸らした方がいいような気がしてきたな。理由が分からないのに攻撃くらうの理不尽すぎる。
なんか、いい話題ないか? 一瞬考えた俺だがこんな話題なんて吹き飛ばすくらいのいいネタがあったじゃないかとある1つの出来事を思い出した。
ずっと気になってたことだし前までなら無理だったが今から多少は緩和されてるだろ。
「そういえばさぁ、話は変わるんだけど」
「なに?」
「俺と渚が図書館で会ったことあったよな?」
「そ、そんなこともあったわね」
俺がその話題を出した途端に、何故か渚は少し動揺したかのようにうわずった声を出したら。
「それでさ、俺があの時寝ちゃったことあったと思うんだけど」
だが、俺はそんなこと一切気にせずどんどん話を進めていく。
「気のせいじゃなきゃ...あの時の俺の頭撫でたよな? あれ、どういう意図があってやったんだ?」
そう、それこそ俺がずっと気になっていたことである。話題もそらせるしこの際ちょうどいい。と思っていたのだが、
「えっ、あっ、あの、そ、そ、それは」
「だ、大丈夫か? 落ち着け!? 俺が悪いかった。話したくないなら無理に話す必要はないからなっ!?」
思っていた以上に渚が動揺してしまい見たこともないほど声も体も震わせるので、俺は慌ててそう声をかけるが、
「わ、私は——」
「っ、危ない」
動揺しすぎたのか渚は足を滑らせ階段から落下してしまう。後ろにいた俺は咄嗟に渚を受け止めるように体を突き出す。そしてその甲斐あってかなんとか渚が階段から転げ落ちるような展開にはならなかったが、
「楓くんっ!?」
代わりに俺が床へとごっつんこすることになってしまった。いや、声的に渚は無事っぽいしそんな段数あったわけでもないから全然いいんだけどな。でも、やっぱり痛いものは痛いな。
「っ痛! だ、大丈夫。ちょっと地面と戯れてただけだ。それより渚は大丈夫か? 怪我とかはないか?」
そして俺は渚に心配かけさせまいとすぐに体を起こして大丈夫アピールをする(本当に割と大丈夫)が...。
「血が...。ご、ごめんなさい。また私のせいで。本当にごめんなさい」
「えっと、渚?」
渚は俺の足から流れるほんのわずかな血を見ると、血相を変えてドンドンと青ざめていくのだった。まるで、なにかトラウマでも蘇ったかのように...。一体どうしたんだ? 渚は確か血は平気なはずなんだけど...。
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次回「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい(渚 視点)」
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あと新作書いたので良かったら是非! この作品とは真逆で甘々なの書いてます。休憩的な感じで読んでみてください。
新作
俺以外と人間関係を築こうとしない幼馴染の為、嫌われるべく行動を始めたはずが何故かベタ惚れされてしまった件
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