第22話 もう、待つのは辛いんです
「はぁ...」
俺があまりの突然の告白に固まっていると伊織がそんな俺を見て大きくため息をついた。
「まさか気づいてなかったとは...これでもかなりアピールしてきたつもりだったのですけど」
「えっ、いや、えっ? だって、そんな素振り—」
「いやー、先輩が鈍感なのは重々承知してましたけどここまでとは...流石に呆れます」
何故か、先程までの真っ赤な顔はどこへやら冷たい視線を俺へと飛ばし、そんなことを言う伊織。あれ? なんで、あのムードから俺が責められてるの?
「登校も下校も伊織は先輩と一緒にいけるように毎回合わせてましたよね?」
「? ...そうだな」
すると、伊織が途端にそんなこと口にするのでイマイチ意図が分からない俺は、一応事実ではあるので頷いておくことにする。
「部活も誘って」
「そうだが」
「多分、伊織学校生活での大半を先輩と過ごしてますよね」
「いや、友達を作れよとは思うが事実ではあるな。それでその話がどう繋がるんだ?」
伊織が続けざまにそう言うが結局意図が分からないので素直に尋ねてみることにする。
「普通、異性からずっと誘われ続けたらどんな鈍い人でも気づきますよ!? というか、気づいてくださいっ。それにもしそこまでは思わなくても「こいつ俺に気あるんじゃね?」くらいは思うのが正常です」
すると少し怒ったように頬を膨らませる伊織。なんか、ハムスターが餌を口いっぱいに詰め込んでるみたいな可愛さあるな、
「いや、それを正常と捉えるかは人それぞれだと思うんだが...」
「屁理屈は今求めてません、要するに先輩は鈍すぎるってことです。って、こんな話をしたいんじゃありませんっ」
「...確かその話を始めたのはお前のはずなんだけど」
ネタかと見紛うほど綺麗なノリツッコミに俺は内心感心しつつも、少し伊織が落ち着くのを待つことにする。
「と、とにかく、そういうわけで伊織は先輩のことがす、好きなんです。分かってくれました?」
「わ、分かった」
いや、実際にはなにも分かってないけどな!? とにかく急展開すぎて感情が追いついていないというのがリアルなところである。
再び顔を真っ赤に染め上げてる伊織には悪いけど。
だが、だとしても状況はどうあれ伊織はこうして俺に好きだと勇気を出して伝えてくれたのだ。ここでなにも返さないなんて失礼なことが出来るわけもない。俺は俺自身の気持ちをまだ上手く整理出来ていない、それでもたった1つだけ言えること...。
「伊織、俺はだな——」
「分かってます。先輩はまだ渚先輩のことが忘れられない。ですよね?」
「っ!?」
俺が言うよりも早く伊織に言おうとしていたことを言われてしまい、再び俺は固まる。いや、正確に事を表現するのなら俺は伊織に言葉をとられたから固まったわけではない。
そう言った伊織の瞳に浮かぶ涙に気がついたから固まってしまったのだ。
「そんなことずっと先輩を見てきたんですから分かってます。先輩のことが好きだからっ。...誰よりも先輩のことは知っているつもりです。勿論、先輩が伊織のことを異性として見ていないことも分かってます」
「だとしたら、なんで...?」
伊織の今の言葉からすれば伊織は俺が振ることを分かってた上で、告白をしてきたことになる。
「先輩が想像している通り伊織は振られることが分かっていて告白しています。だからこそ、付き合ってくださいとも言いません」
「本当にどういう——」
「もう、待つのは辛いんです。気持ちを隠し続けることが辛くなったんです。だから、今日先輩に好きだと伝えました。付き合えないのは分かってます。それでも好きだって伝えたかったんです。...め、迷惑だったらごめんなさい」
伊織の胸をキュッと締め付けるような告白についに俺はなにも言葉を発することが出来なくなる。
「今日は本当にただの自己満足に付き合ってもらってすいませんでした。忘れて貰って結構です」
「自己満足だなんて...」
どこはかとなく寂しげでそれでいて悲しそうな表情を浮かべ、頭を下げる伊織。それだけは違うと俺は言葉をかけようとするが、伊織によってまたを言葉を遮られてしまう。
「でも、先輩は実際伊織と付き合う気はない。そうですよね? 私はそれを分かっていて好きだと言ったんです。だから自己満足なんです」
「...」
確かに伊織本人がそういうのならそうなのかもしれない。それに俺が伊織と付き合うという選択肢を取ることがないのも事実だ。
実際、伊織と付き合うのはアリだ。気兼ねなく話せるし、ウザいところもあるがそれ以上に可愛い奴だ。それに美少女で頭も回る。そんな奴が俺なんかのことを好きでずっとアピールしてくれたと言うのだ。
正直、男なら彼女でもいなければ断るのはどう考えても勿体ないと俺でも思う。どうせ渚とは脈がないのだ。今の俺に断る理由なんてない。
でも、だからこそダメなのだ。そんな奴が真剣に俺を好きだと言ってくれるのに、俺はそれに好きだと返すことが出来ない。
故に俺に伊織と付き合うという選択肢はない。
でも、それでも...。
「自己満足だったとしても俺は嬉しかった。伊織にそんな風に思って貰えて。それだけは揺るぎない事実だから」
これだけは伝えるべきだと思ったんだ。
「っ〜。そんなんだから好きになっちゃうですよ。先輩のバカっ」
「いてっ、おい。叩くな、蹴るな、噛み付くな!」
「う、うるさいです。先輩はちょっとは自分の行動を反省してください」
「お前もな」
全く、伝えられたと思ったらこれだ。さっきまでのシリアスなムードはどこへやら、これじゃあいつもの俺と伊織じゃないか。
「...はぁ、先輩は本当に締まらないですね」
「なに自分を棚に上げてるんだ」
どうやら伊織も同じことを思ったのかやれやれと言わんばかりにため息をつくと、そんなことを口にする。
「...先輩、明日からも一緒に登校していいですか?」
そして付け加えるように少し不安そうな顔でそんなことを尋ねてきた。それに対する俺の答えは決まっていた。
「今までだって俺は別にいいとも言ってないんだ。伊織がそうしたいならそうすればいい」
確かに伊織と付き合うことは出来ない、それでも友達としての関係を続けることを望むのは俺も同じなのだから、
「じゃあ、やめときます」
「ワザワザ聞いてきておいて!?」
ちょっとカッコつけてみたところまさかの返答をくらい思わずツッコミを入れる俺。
「ジョークですよ、ジョーク。では、また明日です」
「お、おう、また明日」
そしてそんな俺を見てニヤリといつもの悪い笑みを浮かべると伊織はどこかスッキリとした顔で、そう告げると家の中へと入っていくのだった。
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次回「何かあったの?」
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