第21話 しばらく経ちまして

 さて、あれほどまでに不安しかなかったゲーム部での部活動だったわけだが、


「なんでここでサンダーなんですかっー!? 防御アイテムが...しかも、なんか赤甲羅まで来てますぅぅ」

「いける」

「あっ、あぁぁぁ、伊織の15連続1位がぁぁぁあ」

「天は私に味方した」

「いや、1位とったの渚先輩ですから。さも、浜崎先輩がとったかのように言わないでください」

「天は俺を見放した」

「15回連続最下位の先輩は黙ってください。それは運とかじゃなくてただただ弱いだけです」

「...まぁ、私の勝ちということで」

「渚先輩は渚先輩でボソッと呟くのやめてもらえます!? なんでちょっと嬉しいの隠そうとしてるんですか。相変わらず素直じゃないですねぇ」


 色々とありすぎた初日から1ヶ月を迎え...特に何もなかった。そう、驚くほど本当になにもなかった。

 結局、伊織と渚の言い争い(?)が起こったのはあの一回のみで、ギスギスムードどころか最近では渚も段々と打ち解けてきて部室内には平和ムード一色が溢れていた。

 いや、とてもいいことなんだけどね? でも、最初の様子からこれは流石に誰も想像つかないって。

 まぁ、こうなった要因としては2日目からの渚の態度の変わりようが大きいかったのだと思う。初日の刺々しさは一切なく少し顔色も良くなって俺と伊織に挨拶してきたらからな。

 当然、色々と警戒していた俺と伊織は拍子抜けを食らったわけだが、その後も特にその態度は変わることなく今に至るというわけだ。

 本当に女心ってやつは分からない。いや、もしかしたらそんなんだから俺は振られたのかもしれないけど...分からないものは分からないのでどうしようもないのだ。

 まぁ、確実に前の渚より今の渚の方が表情柔らかいし、苦しそうな顔を見せる回数も減ったから理由なんてなんだっていいか。なんなら、付き合ってたころより接しやすいまであるし。いや、それはそれで付き合ってた頃マジでなんだったのってなるから、ちょっと悲しくなるから流石に気のせいだと思うことにしよう。うん。伊織も楽しそうだしな。


「...本当、最近楽しいな」

「? 先輩、急にどうしました? 伊織という完璧で究極なカワワ美少女の隣にいれる喜びにようやく気づいたりでもしたんですか?」

「それだけはないから安心しろ」


 俺としては口に出したつもりはなかったのだがどうやら漏れてしまっていたらしく、伊織に拾われいつものドヤ顔でそんなことを言われたので 軽く伊織の頭をチョップする。


「ぼ、暴力ですぅ。この人、DVですぅ」

「よしよし。...楓くん有罪。懲役99年」

「なんだ、その連携」


 すると、伊織が明らかにオーバーなリアクションをし浜崎さんが伊織の頭を撫でると、俺の方をビシッと指差してそんなことを言ってくる。本当に仲良くなったな、伊織と浜崎さん。


「べ、弁護士の手配の準備をしておくことね」

「...そんな無理してまで入ってこなくてもいいんだぞ?」


 するとそんな俺たちを見ていた渚が小声でそう呟いたので、俺はそんなツッコミを入れる。どう考えても柄じゃないだろうに...。いや、まぁそれだけ渚も今のムードの良さを壊したくないのかもしれないから、だとしたらいいことなんだけどな。

 俺からしてみれば、あそこまで俺を避けて嫌っていた渚がここまで歩み寄ってくれるのは嬉しいことだし。ただ一つ問題があるとしたら...やはり、勘違いしてしまいそうになることだろうな。

 渚はただこのグループを壊したくなくて友達として歩み寄ってくれているだけ...脈なんてないのだ。下手な希望を抱いてはいけない。邪な感情が見破られてしまえば俺のせいでこのグループを壊しかねないからな。

 伊織が心底楽しそうに学科生活を送っているのだ、それを奪うのが俺であっていいはずがない。


「先輩?」


 俺がそんなことを考え黙り込んでいると伊織が不思議そうな顔で俺の方を覗き込んできた。


「んっ? なんでもないぞ」


 そして、内心少し焦りつつも俺は素早くそう返すのだった。



 *



「はぁ、やはりマリ◯ーは運ゲー要素も強いですね」

「だな、運が悪いと最下位になってしまう」

「いや、先輩のレベルだと運ゲーとかではないんですけど。ただの実力不足なんですけどね」

「おい」

「だって先輩が弱いの事実ですもん」

「...おい」

「雑魚モンスター」

「おい、誰が雑魚モンスターだ、誰が」

「クソ雑魚モンスター」

「そういうことじゃない」


 今日のゲーム部も終わり俺と伊織はそんなくだらないやり取りをしながら帰り道を並んで歩いていく。というか、気のせいか伊織なんかいつもより若干攻撃的なような。ここはちょっと褒めて気分でもとるか。


「にしても、本当にお前頑張ってるよな。前までなんて学校来たら偉い、って感じだったのに当たり前のように毎日登校して授業もちゃんと受けて、ゲームを約束守って学校では部活以外でやらないようにして、とか」

「き、急にどうしたんですか? 伊織をそんな褒めても今日クラスの人から貰ったメロン味の飴くらいしか出ませんよ」


 俺がふとそう口にすると途端に伊織は酷く照れたように顔を赤くする。可愛い奴め。


「いや、だって実際そうだろ。普通に感心してるし」

「ほ、本当にどうしたんですかっ。...そんなに言うならご褒美に頭でも撫でてくれます?」


 更に顔を真っ赤にして大きな声を出し少し黙り込んだ後に、上目遣いでそんなことを口にする伊織。


「? そんなことでいいなら全然するけど?」

「...や、や、やっぱり遠慮しておきます」

「そうか」


 俺はそれは果たしてご褒美になるのかと思いつつもそう返すが、伊織は焦ったようにそう返事を返した。よく分からない奴だ。


「っと、ついたな。毎度のことだが話してるとあっという間だな。じゃっ、さよなら」

「ま、待ってください」

「?」


 そうこうしているうちにいつのまにか伊織の家の前に着いてしまったので、別れの挨拶だけ告げて俺がいつものように去ろうとしたところを伊織に止められる。

 なんか、まだ用事でもあったのだろうか?


「1つ聞きたいことがあるんですけど...いいですか?」

「どうした、改まって。よほどとんでもないことじゃなければ基本的に答えるぞ?」


 やけに真剣な顔をしながら伊織がそんなことを言うので俺は少し不思議に思いつつ、そう答える。


「...先輩、ってまだ渚先輩のこと好きですか?」

「っ!?」


 すると伊織から予想だにしていなかった言葉が飛んでくる。


「今日も昨日も一昨日もその前もずっと先輩は気がつくとすぐに渚先輩のことを見ています」

「...」

「別に先輩を責めてやけじゃないですよ。前までの渚先輩なら止めましたけど今の渚は伊織も好きですし。...で、やっぱり元の関係に戻りたいと思うんですか?」


 珍しく語気を強くして話す伊織。


「お前こそ急にどうした? もし、そうだとしても一体お前になんの関係が——」

「好きなんですよっ」


 本格的に不思議に思いつつも一旦伊織を落ち着かせるべく、俺は冷静に返そうとするが伊織の言葉が俺の言葉を遮った。


「わ、私は先輩のことが好きなんですっ」

「えっ?」


 そして続けざまにそんなことを言い放つのだった。



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 次回「もう、待つのは辛いんです」



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