第17話 ゲーム部始動です?
「な、なんでアナタがここに来るんですか!?」
俺と渚がお互いになんと言っていいのか分からず固まっていると、あまり関わりのない人間に対し耐性のないはずの伊織が珍しく自分から声をかける。前もそうだったけど伊織、渚に対しては割と話しかけていけてるんだよなぁ。なんでなんだろう。
「騙したわね? 雫!?」
「...騙してない。ただ、私がたまたまゲーム部入りたくて、そうしたらたまたまゲーム同好会の噂を聞いて、だからたまたま渚に相談して、そしてその結果たまたま楓くんがいたってだけ」
「たまたまって言ったらなんでも乗りきれるわけじゃないからね!?」
そして、渚と浜崎さんはといえばそんなやり取りをしていた。いや、分かってはいたことだけど渚はやっぱり俺がいるのは嫌なのか。
浜崎さんの言葉や土曜日のこともあってか多少疑っていたが、やっぱりもう好意なんてものは存在しないのだろう。
これ以上無意味な期待をするのはやめるんだ。俺自身が傷つくだけである。
「と、とにかく、あなた達は入れませんからっ。特にアナタ!」
伊織はやや強引にそう言うと渚をビシッと指差した。やっぱり渚に対してはこいつ強気なんだよなぁ。まあ、今の状況だととても助かるんだけど。
「その子の言う通りよっ。私も絶対に入らないから、入る気ないから」
そして渚も伊織に便乗するようにそんなことを口にする。
「私達がどこに入るから私たちが決めるものであり、それに対してなにも意見を出すことは出来ない」
「うぐっ」
「そして渚は渚で私と約束したのだから逃げることは許されない」
「うっ」
しかし、意気揚々と反論を掲げていた伊織と渚は浜崎さんによってあっさりと黙らされてしまう。
お、思ってたより浜崎さん口論強くない!?
このままだとなんやかんや押し切られてしまいそうだ。だが、俺としてはそうなってしまっては困る。
「いや、確かに浜崎さんの言わんとするところは分からなくはないけど...流石に俺と渚が一緒の部活なのはどうにも...こればっかりは厳しいと思うんだが」
なんとか絞り出した俺の言葉に伊織と渚もウンウンと頷く。いや、出来れば渚にはもう少し頑張って欲しかったんだけど。このいるメンバーの中、唯一渚は浜崎さんの友達なんだから。
「いや、そんなことはない。なんとなくだけど休日前と雰囲気が違う。よって、休日中なんやかんや会って距離感が縮まった可能性がある。つまり、いける」
「全く...なにを根拠ないこと言ってるんですか。ねぇ、先輩? 先輩? えっ、あ、あの、先輩?」
伊織は浜崎さんの言葉に多少余裕を取り戻したのか軽く此方へと笑いかけてくるが、当の俺と渚は全く笑えずにいた。えっ、なにこの人。もしかして実は知ってる? それとも本当にたまたま察知しただけ? どっち!? いや、どっちでも怖いことに変わりはないけど。
「えっ、なんの返答もなしってことは本当に休日会ったんですか!? ねぇ!?」
「冗談で言ったつもりが本当にそうだったとは...。なら、やっぱり大丈夫」
そうして、俺と渚が黙り込んだ結果伊織は驚きの声をあげると俺の肩をゆっさゆっさと揺らし始め、浜崎は満足げにしきりに頷いていた。ま、マズすぎる。
どうにか、どうにかしないと。最早、強行手段を使ってでも。
「い、伊織っ——」
「せ、先輩、まさか退部なんて言いませんよね? まさかこの状況でこのメンタル脆弱、体は虚弱、まさに歩くその姿は最弱スライム!な伊織を置いて逃げたりしませんよね!? そんなことされたら伊織は...伊織は...」
「しないっ、しないから安心しろ」
とは思ったが俺が退部を言い切る前に伊織に先に泣きつかれ、そう答えるしかなくなってしまう。くっそ、最終手段までもダメか。というか、なんだその妙にリズミカルな自己罵倒。
「雫、私は本当にアナタことを大切な友人だと思ってるわ。でも、これだけはこれだけは無理よ。いくら大切な友人の頼みとはいえこれだけは...」
「渚が入ってくれるって言ったのに」
「うっ、そ、それを言われると弱いけどそれとこれとは...」
「逆に楓くんを避ける方が意識してるみたいに思えるけどそこのところ大丈夫?」
「ぐぅっ」
そして横では渚も浜崎さんにラストアタックを仕掛けていたがまたもアッサリと言い負かさせれていた。だからもう少しぐらい粘ってくれよっ。
「というわけで、伊織ちゃん私達入るってことでいい?」
「こ、こちらに選択権がないことを知っていながら...嫌な先輩ですね」
そして渚との話が終わった浜崎さんの言葉に対し、敗北宣言に近い言葉を返す伊織。
「どうも」
「褒めてないですよっ。もう、好きにしたらいいじゃないですかっ。あっ、でも先輩は絶っ対に逃げちゃダメですからね」
そしてどうやらその一言が決めてとなったようで...、
「よし、じゃあ、今日からゲーム部としてこの4人で頑張ろう。伊織ちゃんに楓くんに渚、よろしく」
「もう、なんでこうなるんですかっ」
「「嫌(だ)ぁぁぁぁぁぁ」」
満足げに机にバンッと手を置きながらそう宣言する浜崎さんの言葉に、伊織は頭を抱え渚と俺は2人揃って絶叫するのだった。
ほ、本当になんでこうなったの!? これ。流石にこうはならないだろって。いや、実際なってんだけど...。
「とりあえず、まずは掃除から」
「なんで、アナタが仕切ってるんですか。そのポジションは伊織のものですよ!」
「私のが先輩」
「この部活においては私の方が先輩ですっ」
そして、そんなこんなで波乱すぎるゲーム部が始動するのだった。
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次回「早速、揉めてます」
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