第15話 渚、面白い部活動が出来る噂があるらしい


「先輩、おはようございます!」

「...おはよう」

「あれ、今日は扉閉める伝統芸やらないんですか?」

「なにが伝統芸だ、なにがっ」


 結局、無駄だからもう諦めたんだよ。何故かあまり休日感のなかった土日を終え迎えた月曜日の朝、最早最近では当たり前となった伊織の出待ちに俺はそう答えていた。


「いや、ようやく先輩も無駄な努力ということを分かってくれて良かったです」

「急募、厄介モンスターから逃れる方法募集」

「なんか、先輩大変そうですね。伊織で良かったら協力しますよ?」

「...そうか」


 こいつ、なんで自分じゃないと思ってるんだ。


「はい、追い払うために朝から先輩家の前で見張っておきます」

「問題は解決されました。以後の協力は必要ありません」

「それは良かったです。じゃあ、明日も来ますね」


 違った。こいつ、分かってて俺のことからかってただけだわ。本当に生意気すぎる。


「そ、それで先輩、昨日の話どうですか?」


 すると伊織は少し緊張の面持ちで俺にそんなことを聞いてきた。俺の中での答えはもう決まっていることだが...たまには仕返ししてみるか。


「うーん、いや、ちょっとまだ悩んでてな」

「そ、そうですか。いや、伊織的にはめっちゃくちゃ魅力的な提案だと思いますよ。副部長という圧倒的な権力! これを断るなんて勿体ないです」

「いや、半分帰宅部の副部長とかそこまで...」

「この可愛く優秀な伊織という人材が部長な部活の副部長ですよ?」

「だからだよっ」


 自慢げに胸を張る伊織に俺はツッコミを入れる。普段、他の奴と話す時はあんなに自信なさげなのになんで俺の前だと自信満々なんだよ。というか、半分うざさもある気がする。


「というか、なんでそこまで俺に入って欲しいんだ?」

「い、いや、別にそんなにじゃないですけど...」


 俺から目を背けながらそんなことを言う伊織。珍しく俺が伊織を押し込めている。まっ、いつもやり込められてるからこういう時くらいからかってみるか。


「ふーん、じゃあ入らなくてもいいか」

「そ、それは早計だと思います」

「やっぱり相当入って欲しいんだろ。というか、そこまでこだわるってもしかして俺こと好きだったりする?」

「っっっ〜〜!!」

「えっ?」


 その瞬間に伊織の顔がボッと真っ赤に染め上がった。

 まっ、んなわけないか〜、と続けようとしていた俺は伊織の予想外の反応を受け固まる。

 なに、その微妙な反応。どういう意味を含んだものなんだ。というか、リアクションしづらい。


「な、なんてな、冗談だよ、冗談。入ることに決めたよ」

「...そ、そうですか」


 未だに赤い顔を手で隠しながらも伊織はホッとしたようなリアクションをとる。あ、危ない。ちょっと仕返ししたかっただけなのに変なムードになるところだった。

 ...伊織に仕返しとかはあまり考えない方がいいかも。打たれ弱すぎて逆にダメだ。


「ま、まあ、分かってましたけどね。なにせ、この伊織がいる部活ですから先輩が入りたくないわけないと!」

「あっ、退部で」

「我が部活は一度入ると死ぬまで抜けることが出来ません」

「ブラック!」


 でも、やり返さないとやり返さないでうざさすぎるんだよなぁ、こいつ。

 そんなこんなで俺は今後の伊織に対する対応について頭を悩ませながらも登校するのだった。にしても、なんか嫌な予感がしてやまないんだよなぁ。なんでなのかは分からないけど。




 *



「渚、面白い部活動が出来る噂があるらしい」

「へぇ、雫が部活動に興味持つなんて珍しいわね」


 楓が学校に着いた頃、渚とその友人である雫はまだ2人しかいない教室でそんな話をしていた。


「うん、でも私1人だと色々浮きそうで怖い。渚、着いてきてくれない?」

「別に私も部活動入ってないしそういうことならいいわよ。なんなら、雫がもし入りたいなら一緒に入部してもいいし」


 渚は雫の珍しい人と関わるという行動を応援したくなり、特に考えることもなく軽くそんな風に答えていた。すると、その瞬間に雫はパッと顔をあげ渚の手をガシッと掴む。


「本当!?」

「え、えぇ。部活入ったら楓くんは部活に入ってないはずだから、放課後会うことは絶対なくなるだろうし丁度いいかも...」


 雫の勢いにやや押されつつも普段は絶対にすることのない友人の挑戦を応援したい渚は、本心も混ぜつつそう発言した。


「言質とったからね!」

「なんでそんなハイテンションなのか分からないけど、私に二言はないわ」

「よしっ」


 そして、渚は異様なテンションの友人に若干の違和感を覚えつつもそんな風に答えるのだった。



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 次回「ゲーム部始動です!」


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