第14話 先輩、様子が変ですよ?


 ピンポーン。


「楓、出ておいて頂戴」

「分かった」


 衝撃的な出来事の連続だった昨日を終え迎えた日曜日の朝、訪問者を知らせるチャイムがなり、たまたま居間で姉とテレビを眺めていた俺は母から頼まれ玄関へと向かった。

 郵便や宅配の類だろうか?


 カチャ。


 俺はそんなことを考えながら鍵を開け扉を手にかける。


 ガチャリ。


「はーい、どなたでしょう——」

「こんにちは。先輩、日曜日にレアキャラな伊織が現れましたよ!」


 ガチャリ。カチャ。危なかった。もうすこしで侵入を許すところだった。ちゃんと、律儀に挨拶をしてくるタイプの敵で助かった。


「ちょっ、なんでだから無言で閉めるんですか!? それに鍵まで」


 しーらない。俺、しーらない。


 *


「伊織ちゃんよね? はい、お茶」

「ありがとうございます」

「アメいる?」

「ありがとうございます」

「アイスいる?」

「あ、ありがとうございます」

「プリンいる?」

「あ、ありがとうございます」

あおいねえそろそろやめてやってくれ。伊織が困ってる」


 結局、あのまま開けないわけにはいかず家の中へと伊織を通したのだが、姉に見つかったのが運のツキだった。俺が女の子を家に連れ込んだことなどなかったので、なにを勘違いしたのかニコニコ顔で伊織に次々にお菓子の類を渡していく。


「だって、伊織ちゃん可愛いだもん。色々と与えたくなっちゃう」

「か、かわっ」

「葵姉、伊織は人見知りなんだ。いきなりそう言うことを言うのは勘弁してあげてくれ」

「だって事実だもん」


 伊織が顔をボッと真っ赤にして俯いてしまったので俺は慌てて、葵姉に注意するがそんな風に返されてしまう。やはり、伊織はとことん可愛がられる属性なのが分かるな。


「なんか用があって来たんだろ? 葵姉いると話しにくいだろうし俺の部屋にでも来て話すか?」


 だが、こうしていると話が進みそうにないので俺がそう伊織に言うと伊織もコクッと静かに頷いた。...こいつ、本当にとことん初対面相手には弱いよなぁ。


「え〜、私の伊織ちゃんを独占しないでよ。今楽しく話してたんだから」

「じゃあ、行くか」

「は、はい」


 そうしてまだなにかを言っている葵姉を居間に残して俺と伊織は二階にある俺の部屋へと向かうのだった。


 *


「にしても、なにかしら用があるのは分かるんだが何故今日来たんだ? もしかして、急がないといけないこととか?」

「いえ、全然そんなことはないんですけど、休日なら先輩油断してると思って面白い反応見れるかなぁとおもって。でも、先輩も嬉しいですよね? 休日にも伊織に会えて」

「お帰りください」


 葵姉がいなくなった途端これだよ。


「ちゃ、ちゃんと用があるのは本当ですから」

「...俺の面白いリアクションが見たかったのは?」

「それも本当ですけど」

「お前、俺が年上ってこと忘れてない?」

「伊織、ちゃんと先輩って呼んでるんじゃないですか」


 どこまでも生意気な態度に俺は呆れつつそう聞いてみると少しズレた返事が返ってくる。


「で、何の用なんだ?」

「まぁ、先輩がどうしてもって言うなら仕方ないですね、特別に話してあげます」

「おい」


 普段なら絶対に寝ている日曜日の朝にわざわざ起きてまできた奴がなにを言ってるんだ。


「伊織、これからちゃんと学校に行くことに決めたんです」

「おっ、いいことじゃないか」


 改まった顔でなにを言うのかと思えば案外まともなことを言う伊織に俺は感心する。良かった。ついに本格的に行く気になってくれたんだな。


「それで、学校行くからには部活動みたいなものもしてみたくて」

「それは意外だけど...いいんじゃないか?」


 正直、伊織が部活動に打ち込んでる姿は全く想像つかないが素晴らしいことである。

 いつの間にこんなに立派な奴に...。


「なぜか、先輩からとてもおや感が溢れてるのは気になりますけど話を続けますね。部活動に入ってみようと思ったのはいいんですが、賢い伊織はそれだとゲーム時間が減ることに気がついたのです」

「いや、別にそれはいいんじゃないかな?」


 むしろ健康的で素晴らしいことだと思うが、


「だから思ったんです。そっか、じゃあ伊織がゲーム部を作ってしまえばいいんだって」

「...それで?」


 色々と言ってやりたいことはあったが話を進めるべきと判断した俺は伊織の次の言葉を待った。


「先輩に伊織が作るゲーム部の副部長になる権利を与えてあげます」

「あっ、遠慮しとくな」


 なんとなくそんな気はしてたけどやっぱりそう来たか。


「な、なんで断るんですか?」

「一応聞くけど俺にとって入るメリットは?」

「伊織がいるので心が癒されます」

「つまりゼロっと」

「ちょっ、冗談ですからまだ決めるのは待ってください」


 俺の言葉に慌てた伊織がそんなことを言う。なんだ、いつもみたいな冗談話じゃなくてこれガチな話なのか?


「帰宅部からゲーム部に見事に昇格出来ます」

「いや、正直どっちもどっちだと思うぞ」

「伊織に毎日学校に来る口実を与えられるので先生達に泣いて喜ばれます」

「それはメリットなのか?」

「渚先輩は帰宅部なので先輩が色々と気まずい渚先輩に会うことがなくなります」

「...」


 突然、伊織の口から出た渚という言葉に俺は思わず昨日のことを思い出してしまい、体中が熱くなる。


「せ、先輩、どうしたんですか? そんな顔真っ赤にして。それに、いつもなら「いや、今までは偶然続きすぎてるだけで普通にしてたら会わないからっ」くらい言いそうなのに黙りこんで...様子が変ですよ? なにかあったんですか!?」


 伊織の言葉にどう返すべきなのか分からない俺は何も喋ることが出来ない。


「ほ、本当にどうしたんですか!? もしかして、今日体調悪かったですか!? な、なにか言ってくださいってば」

「大丈夫、体調は大丈夫だから」

「そ、それなら良かったですけど」


 伊織が変な心配をし始めてしまったので慌ててそう答えると、伊織はホッとしたように息をついた。なんやかんや優しい奴だ。


「それでどうなんですか? は、入ってくれませんか?」

「ちょっと考えさせてくれ」

「分かりましたです」


 そして、どこか祈るような伊織の言葉に俺はそう返すと伊織には今日のところは帰ってもらうのだった。話してたら色々とボロ出そうだったからな。

 にしても部活動か、どうするかな。渚とは確かに異様なほど会うし、家に帰って特にやることもないから実際ありかもしれない。



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「渚、面白い部活動が出来る噂があるらしい」



 良かったら星や応援お願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る