第12話 休日だから渚に会うことはないだろう


「う〜ん」


 土曜日の朝、目覚めた俺はゆっくりと体を起こした。普段は時間を意識して朝早く起きているから、休日にこうしてぐっすり眠って起きるととても体の調子が良いんだよなぁ。


「時間は..9時か。そこまで遅いわけじゃなかったな」


 そして、カーテンを開け窓から差し込む光を浴びながら俺はスマホで時間を確認した。


「この時間なら...どっか行くか」


 そして、時間をチェックした俺は誰に言うわけでもなくそう呟くとゆっくりと支度をするのだった。

 流石に渚に会うこともないだろうし本当に気が楽である。何故か、学校だと異様なほど遭遇するし。...なんとか渚本人の前では大丈夫風を装っているが、やっぱりどうしても会ってしまうと胸が痛くなるからな。それに普通に気まずいし。


 あー、本当に休日ってなにもかも楽で最高だ。


 *



「これ、良さそうだな」


 朝食は軽くトーストで済ませた俺は自転車を漕ぎ家から20分ほどの場所にある市の図書館に訪れていた。

 そう、土日は確かに楽だ。特に部活もやっていない俺にとっては。だが、圧倒的に暇なのである。いや、ゆっくり休める。これは素晴らしいことだと俺も思う。でも、暇なのだ。

 だからこそ、こうして暇を潰せる場所へと足を運ぶのが俺の休日である。

 こんなこと涼太に言ったら凄い非難受けそうだけど...あいつ、土日ほぼ部活で消えるらしいし。

 ちなみに今日、俺が図書館を選んだのは本当にたまたまである。要するに場所は気分次第なのだ。


 そんなわけで、久しぶりに訪れた図書館で少し手間取りながらも、読みたい本を何冊を見つけた俺は図書館内にある読書スペースへと向かっていた。

 ちなみに読書スペースというのはその名の通り本を読む為にイスや机が設置されている場所のことだ。まぁ、でも電子機器の使用さえなければ勉強してもいいらしいのだが...俺はごめんだ。

 わざわざ本当にたまにしか来ない図書館で勉強なんてしたくない。


「混んでなぁ」


 そんなことを考えながら読書スペースへとやって来た俺は想定以上の人の多さに驚いていた。正直、市の図書館を舐めていたかもしれない。しかし、こうなるとそもそも座れる場所が空いてるかどうか...。


「おっ」


 そんなわけで少し場所を探すこと少し俺はようやく空いている所を見つけることが出来た。その場所は、机一つに椅子が二つ向かいあうように設置されており奥の方だったこともあってか誰もいなかったのだ。

 確かに、本読む時に目の前に知らない人がいたらちょっと嫌かもだけど、まぁ本の世界に没頭したら気にならないだろ。

 俺は俺が座った後、他の人が目の前に座る可能性を考慮し少し考えたが特に困るほどのものではないなという結論に至った。


「んっ?」


 そして俺が一方の椅子に腰掛けようとした時、向かい側の席にも座ろうとしている人がいるのに気がついた。こういう時って一応挨拶しとくべきか? 髪の毛も長いし女性っぽいのだが帽子を被っている上顔を伏せている為、顔は見えない。でも、どこはかとなく会ったことがあるのは気のせいだろうか?


「あっ、こんにち————は?」

「えぇ、こんにち————は?」


 俺は帽子を取って顔を上げた彼女の顔を見て...彼女の方は俺の顔を見るなり...俺と彼女は2人揃って固まった。

 何故なら、


「な、渚...」

「か、楓くん...」


 向かいの席にいたのは俺の元カノこと十六夜 渚その人だったからだ。

 ...なんで、よりにもよって本当にたまにしか来ない図書館で出会うんだよっ!!


 *


「...それで、楓くんはなんでここに?」

「俺はちょっと暇つぶしに本を...。な、渚の方は?」

「...私は勉強よ。まぁ、図書館でやるのなんて滅多にないけどたまには気分転換としていいじゃないかと思ってね」


 まさかの休日に出会ってしまった渚と俺は大きな声を出すわけにはいかないので、小声でそんなことを話していた。


「...本当に呪われてるのかしら? 今度お祓いにでも...」


 そして渚はそんな結論を出していた。いや、そうなるのも分からなくはない。本当になにかに取り憑かれているとしか思えない偶然が続きすぎてる。俺も是非お祓いに行きたい所だ。


「他の席は...なかったわね」

「だったな」


 渚も相当嫌だったのか一度席を立ち上がるが思い出したのか、仕方なくといった様子で座り直した。


「ま、まぁ、こうなった以上お互い気にしすぎないようにしよう。どうせ、読書と勉強をするんだ。集中しちゃえば気にならないだろ?」

「そ、そうね。それが1番ね」


 せっかく来たのに帰るのは俺も流石に嫌なので、俺は渚にそう提案する。渚もほぼ同意見のようでそれに頷いてくれた。

 そうして、俺と渚はお互いになるべく気にしないように黙々と読書と勉強を始めるのだった。

 いや、冷静風装ってるけど割とマジでこれどんな状況!? というか、下手したら付き合ってる前より渚と会ってる気がするけど...流石に気のせい、だよな?



 *


 読書を始めて1時間ほど、俺はとてつもない睡魔に襲われていた。

 というのも、俺が読んでいるのはミステリーなのだが途中までは良かったのだが肝心の推理パートがとてもだれていた。タイトルが良さげだったのでこれにしたのだがチョイスミスだったかも。

 目の前では渚が変わらず真剣に勉強をしている。


 せっかく図書館まで来ておいて寝てしまうのはいかがなものだろうか、そうは思うのだが睡魔には逆らえず俺の意識は遠ざかっていきやがて途絶えた。


 *


「...」


 寝てしまってからどれくらい時間が経っただろうか? というか、なんか頭がくすぐったいような?


 ようやく意識を取り戻した俺は頭の辺りなにか物が置かれていることに気がついた。だが、体を起こすほどの気力は湧かず少し目を開けてみることにする。


「っ!?」


 しかし、その瞬間に俺の体温は一気に上昇したような気がした。というのも、


「フフっ」


 机に突っ伏すようにしている俺の頭を渚がとても幸せそうな顔をしながら、撫でていたのだ。どうやら、俺が起きたことには一切気がついていないようだ。

 えっ、本当にどういう状況? そして、俺はどうしたらいいの!? 下手に動けないんだけど、これ。




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 次回「やらかした、やらかした、やらかした」


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