第11話 楓くんに女の子出来てたけど...いいの?

 三人称視点です


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「帰還なう」

「よ、よかったわ。割とすぐに帰ってきてくれて」


 ガラリと空き教室の扉が開き、雫が入ってきた瞬間に渚は心底安心したようにホッと息をついた。


「で、どうだったの?」

「別に...渚の言った通り渚の方が振ったって答えてくれた」

「まぁ、そうよね。というか、よく普通に聞いてこれるわね、割とメンタル化け物よそれ」

「?」


 堂々と楓に対し聞いてきたという雫に渚は少し呆れつつも、そんな自分の言葉にはてなマークを浮かべている雫を見て雫がやや天然であったことを思い出した。

 多分、雫にとっては他意はなく本当に気になったから直接聞きに行っただけなのだろう。渚はそう結論づけると、それ以上その件に関しての追求はしないことに決めた。


「でも、これで渚がなにか私にも隠し事をしていることが確定した」

「なんでよ!? な、なにも、隠し事なんて...」


 すると突然雫にそんなことを言われてしまい、渚は内心動揺しつつもあくまで冷静を装う。


「いや、してる。渚は嘘をつくとき目を合わせてくる。普段はそっぽ向いてるのに」

「そ、そんなことないわ」

「なにを隠してる?」


 が、友人歴9年の大ベテラン雫には通じない。あっさと、嘘を見破ると更なる追撃を繰り出していく。


「そもそも、今も渚が楓くんのことを好きなのは私の中で確定してる。というか、私でなくても近くにいる人なら分かる。表情に出すぎてるし」

「す、す、好きじゃないって言ってるのにっ」


 雫にとってはこれ事実であり渚を慌てふためかせたいわけではないが、渚は必要以上にその言葉に反応してしまう。


「だから私は本当は楓くんに振られたんじゃないかと思った。...でも、これも違った」

「そ、そうよね。だからそもそも雫が考えてる私が楓くんのことを好きだってのが勘違いで——」

「ダウト。とても苦しそうな顔してる。本当になにを隠してる?」


 渚はなんとか雫の考えを否定しようとするが、逆にドンドンと追い詰められていく。


「な、なにも...」


 渚からすれば絶体絶命のピンチであることは明白だったが、


「...はぁ。別に私は渚をこんな風に追い詰めたくて聞いてるわけじゃない」


 焦りに焦る渚を見た雫がため息をつくと攻撃の手を緩めた。渚の少しだけホッとする。だが、雫の目は言っていた。まだ終わりじゃないと。


「渚は楓くんと別れた日からずっとずっと辛そうにしてる。友達の渚が辛そうなのは私も辛い。だから、少しでも話を聞いて協力出来ることがあるならしようと思った。でも、渚はずっとなにかを私に隠したまま。友達ならちゃんと辛いことや大変なことは私にも相談して欲しい。私じゃ力にはなれないかもしれない。でも、話を聞いて少しでも和らげてあげることくらいは出来る。確かに友達だからと言ってなんでも話せって言うのは違うのは分かってる。でも今の渚を見てると、いつか倒れてしまうじゃないかって不安になる。だから...私をちょっとは頼ってよ!」

「っっ!」


 普段は大きな声を出すことや感情を露わにすることなど滅多にない雫が、珍しく感情的になってそんなことを言うので渚は少し揺れた。

 話すべきではないか、と。少しでも楽になる為に。


「雫が心配するよう、な、ことは...なにもないわ」


 だが、渚はすんでのところで踏み止まった。雫が心底心配して言ってくれているのは分かっていた。でも、ここで話してしまえばきっといよいよ自分は自分の感情に嘘をつけなくる。そのことが渚には分かっていた。

 それに下手に話せば雫をも危険に巻き込んでしまう可能性すらある。

 そう考えた渚は嘘を嘘で押し通すことに決めた。


「...あっ、そう言えば楓くんに女の子出来てたんだった」

「えっ!?」


 するとそんな渚の言葉を受けた雫はなにを思ったのか突然そんなことを口にした。渚にとって想定外すぎる話に思わず渚は驚きの声を漏らしてしまう。


「可愛い子だった。アメとかあげたくなるくらい。多分、あの子楓くんのこと好き」

「ふ、ふーん?」

「渚、顔が死んでる」


 天然な雫からなかなか酷いことを言われる渚だが、今の渚はなんとか一言返すのが精一杯だった。


「あっ、明日って土曜日よね?」

「渚、話題を逸らすにしてもあからさますぎる」


 そして渚はもうこのままではジリ貧だと逃げの一手を繰り出した。雫はジト目だが渚はそんなことは気にしない。というか、気にしている余裕がない。


「明日は流石に楓くんと会うことはないだろうし、ようやく安心して過ごせるわ。...学校だと何故か会うことになるから」

「そんなこと言ってたら会うよ」

「予言!?」


 なんとか自分も落ち着かせる意味でもと振った話題だったが、雫からそんな言葉を受けてしまい少し不安になる渚。


「だ、大丈夫よ、流石に」

「でも、会えた方が渚は嬉しいはず」

「だから違うってば!」



 そして結局、その後も雫からの渚に対する探りは昼放課が終わるまで続けられるのだった。


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 次回「休日だから流石に渚に会うことはないだろう」


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