第10話 元カノの友人に昼飯を誘われた...なんで?


「先輩ー、昼ごはん一緒に食べましょ〜」

「...はぁ」


 辛い4時間目の数学を乗り切り迎えた昼放課、さも当然かのように現れた伊織に俺は呆れを隠しきれず思わずため息をついてしまう。


「なんで、ため息をつくんですか!? こんな可愛い子が来てあげたんですから喜んでください」

「というか、お前いい加減に一緒に食べる友人くらい——」

「そんな幻の存在見つけるくらいなら先輩と食べる方が楽でいいです」

「いや、クラスメイトからしたらお前の方が幻の存在だと思うがな」


 1ヶ月に一回くらいしかこずにしかも昼放課すらどっか行くって...話しかけたくても話しかけられないだろ。伊織と話したがってる奴も少なくないというのにもったいない。


「まぁ、いつも先輩もどうせ涼太兄早弁で昼放課食堂行ってて、ボッチ飯なんですからいいじゃないですか。むしろ、私が来てくれた方が嬉しいですよね?」

「いや、そんなことはない」

「むぅ...意地っ張りですね」


 伊織は不満げな様子だが実際そうなので訂正するつもりはない。だって、昼ごはんくらい静かに味わって食べたいからな。


「1人飯には1人飯の良さがあるんだよ」

「先輩、何事も一人で行動するよりみんなで話したりやったりする方が楽しいですよ?」


 伊織は何にもわかってないな〜、と言わんばかりのやれやれ顔をこれでもかと見せつけてくる。


「自分のクラスで誰とも話さずゲーム弄ってるお前がそれを言うのか」

「うぐぅぅぅ」


 しかし、完全なる矛盾以外の何者でもないので普通に反撃させて貰うことにする。...なんで、自爆してるんだこいつ。


「まぁ、いいや。じゃあ、とりあえずさっさと食うか。どうせ帰れって言っても無駄なんだろ?」

「先輩っ!!」


 余程ダメージがデカかったのか机に突っ伏していた伊織だが俺がそう口にすると、心底嬉しそうに声を上げて椅子を持ってくると俺の前でウキウキで弁当を広げ始めた。

 ...こうやって甘やかすから舐められているのかもしれないけど、正直伊織が嬉しそうな顔してると俺も自然と嬉しくなるからこればかりはしょうがないよなぁ。


「じゃあ、私も混ぜて貰っていい?」

「うん、全然いいぞ——って誰!?」


 すると自然な流れで現れた見たことのない女子生徒がいつのまにか俺の横にいて、びっくりして思わず大きな声を出してしまう。

 前では伊織もビックリした為か固まっていて少し震えていた。...こいつ、人見知りだからなぁ。


「私は2年5組浜崎はまざき しずくって言う。

 私は廊下で何人かに聞いて楓くんがここにいるって聞いたから会いに来た」

「へっ?」


 浜崎さんというらしい彼女は真顔でそんなことを言うので俺は一瞬脳内処理が追いつかずフリーズする。結果、その場にはフリーズした俺と今尚固まっている伊織と、真顔の浜崎さんという世にも奇妙な構図が出来上がった。本当にこれどういう状況?


「固まられると困る...」


 それによく見ると浜崎さんはとても同年代に見えないほど幼く見えた。この人、本当に高校生か? 中学生..なんなら小学生と言われても...いや、これは浜崎さんに失礼か。


「い、いや、一切面識なかったのでそんなこと言われると思ってなくて驚きました。それで、なにかの用事ですか?」


 浜崎さんとは初対面なはずなので用事があるとしか考えられない俺はそう尋ねてみる。


「ただ、ちょっと渚友人として渚との関係について聞きに来た」

「へっ?」


 またも驚き内容に俺は再びフリーズしてしまう。こ、この人渚の友人なのか? 確かに静かそうだし渚とは気が合いそうな感じするけど...だとしても、聞きに来たって何を!?


「本当に渚の方から楓くん方振ったの? 実は楓くんの方から振ったけど恥をかかせない為にそういう話にしたとかじゃなく?」

「えっ、あっそのことですか。はい、ちゃんと俺が振られました。そこにはなんの嘘もないですよ。事実です」


 ちょっと自分で言ってて悲しくなるがしょうがあるまい。というか、渚の友人なら渚から直接話聞いてるだろうに..なんで俺のところまで来たんだ?


「...違った」

「?」


 すると浜崎さんは心底意外そうな顔でそんなことを呟いた。この様子を見るに本当に俺が振ったものだと考えていたのか?


「うーん、よく分からなくなった」


 困ったように首を傾げながらそんなことを言う浜崎さん。いや、本当によく分からないのは俺なんですけど!? これどういうことなの、マジで。説明プリーズ。


「まぁ、じゃあいいや。教えてくれてありがとう」

「えっ、あっ、いえいえ」


 そして浜崎さんはしばらくすると持ってきた弁当を持ってそれだけ言うと俺から離れていく。俺はまだ若干戸惑いつつもそう返すが、浜崎さんは突然なにかを思い出したかのようにこちらへと引き返してきた。

 どうしたのだろうか?


「あの、なにか忘れ物でも——」

「私の見立てだと渚はまだ楓くんの方が好き。というか、大好きだと思う」

「はい?」

「じゃっ」

「ちょっ、待って待ってください!?」


 浜崎さんは一瞬で俺の横まで来たかと思えば耳元でそんなことだけ呟くと、俺の声など聴こえていないようで満足したように去っていってしまうのだった。




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 次回「楓くんに女の子出来てたけど...いいの?」



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