第8話 今度の噂は俺が振っていることになってるらしい!? なんで!?


「ふあぁ〜」


 朝ごはんを詰め込んだ俺はいつものように眠たい体をやや無理やり動かして玄関へと向かう。基本的に朝は弱いのは自分でも自覚しているので、無理やりにでもこうして決まった時間に出るようにしているのだ。

 じゃないと、多分なまけて遅刻しそうだし。

 とまぁ、そんなわけでいつものように7時10分となったので扉を開けて外へと出た俺は...。


「先輩、いい朝ですね〜。って、なんで逃げるんですか!?」


 何故か家の前で待機していたらしい伊織の姿を確認すると、ゆっくり中へと戻り扉を閉めるのだった。...いや、こんな朝早くから伊織相手は厳しいって。


 *


「まぁ、結局先輩の家の出入り口一つしかないので逃げようがないんですけどね。無駄な労力です」

「いや、そもそも伊織が来てなければ起こらないはずの問題なんだがな」


 俺の横を歩く伊織やれやれと言わんばかりそんな口を開く。朝も変わらず生意気な奴である。


「というか、なんで本当に来たんだ。お前の相手を朝からは勘弁してくれ」

「...そんな酷いこと言われたら伊織休んじゃいますよ?」

「冗談。冗談だ」


 他の奴が言う分には無視できるがこいつに関しては多分ガチで休むからな。引きこもりの実績は伊達じゃない。


「にしても、2日連続来るってのはどういう風の吹きまわしだ? いや、素晴らしいことなんだが本当にどうした? なんか、無理してないか?」

「せ、先輩は伊織のことなんだと思ってるんですか?」


 俺が単純に疑問に思ったことを口にすると伊織は少し涙目でそんなことを言ってくる。


「うーん、お前に分かりやすく伝えると一回動くのに30ターン要する家が大好きなメタルスライム?」

「な、なんてことを!? まるで、それじゃあ伊織が引きこもりかつ虚弱体質でうざい奴じゃないですかっ。——あっ、でも割とそんな感じだったかもです」


 伊織は納得いかないと言わんばかりに反論を飛ばそうとしたが、途中で思い直したのか認めるとしょぼくれていた。

 良かった。自分で自分のこと正しく認識しててくれて。


「ずーん」

「素直なのはいいことだと思うぞ。それに別に今からでも直していけば全然大丈夫だ」


 ただ、少々落ち込みすぎなので一応俺はそんなフォローを入れておくことにした。うざい奴なのだが悲しそうな顔をしてるととても心が痛む。つくづくズルイ奴だなぁと思う。


「そうか、そうですよね! 素直でこんな美少女とか取り柄しかないですもんねっ。いや、伊織のスペックには困ったもんです〜。先輩が嫉妬して悪口言いたくなるのもしょうがないですね」

「...明日からガムテープ持ってこようかな」


 はぁ、ちょっと可哀想と思ったらこれだよ。


「ふっ、甘いですね先輩。当たり前のように伊織が明日も来るなんて思わないことです」

「確かに説得力凄いけど、お前はドヤ顔でなにを言ってるんだ?」


 なにも誇れることではないのだが謎にドヤっている伊織に俺はそんなツッコミを入れる。


「駄目人間」

「うっ」

「引きこもり」

「うっ」

「酒井 伊織」

「うっ...って、それは悪口じゃないですよ!? というか、なんでそこまで言うんですか」


 さっきとはうって変わってまたもやや涙目の伊織。本当に単純すぎるよなぁ、こいつ。


「言われたくなきゃ明日も来いってことだよ。俺だってお前が昨日も今日も頑張ってんのは分かってる、だからこそ俺はお前に来て欲しい」

「...わ、分かりました」


 俺の言葉に何故か顔をやや赤くしてそう返事すると黙りこんでしまう伊織。


「おっ、そんなこと話してたら着いたな。じゃあ、俺は行くから。今日は来るんじゃないぞ?」

「な、なんでですか!? 時間まだありますし先輩のクラス寄っていっても...」


 確かに伊織が言うようにSTが始まるまでにはかなり時間がある。普通の奴なら他のクラスに寄っていっても余裕だろう。だが、


「お前、それで昨日結局自分のクラスに戻るの遅れて遅刻扱いになってただろうが!」

「うっ」


 ということなのだ。伊織もこれには分が悪いと判断したのか目を逸らした。


「で、でも、先生は遅刻でも伊織が来たことに泣いて喜びましたから!」

「それはお前が来なさすぎなだけだから。とーにかく、お前は来るの禁止! 分かったら、大人しく自分のクラス行って友達の1人や2人作ってこい」

「ちょっ」


 謎の観点から反論してきた伊織に俺はそう言い切ると、尚もなにか言いたげな伊織を放置して素早く自分の教室へと向かうのだった。

 予想は出来ていたことだが朝から疲れたな。



 *



「...なんだ?」


 教室へと入った俺は妙に多く視線を受け疑問を抱いていた。今、教室にいるのは7人程度だがほぼ全員が俺の方をチラチラと見ている気がする。

 いや、これが一昨日とかならまだ分かる。あの時は渚に俺が振られたっていう大ニュース流れてたらしいし、当たり前っちゃ当たり前だ。

 だが、俺はそういうことでもない限り基本的に人から視線を集めるような美男子でもなければ変な奴でもない。だからこそ分からなかった。何故、ここまで見られているのか。


「おはよう! 楓、伊織が朝からお世話になったみたいでありがとな!」

「おはよう」


 俺がそんなことを疑問に思っていると、教室中に響き渡るような大きな声でそんなことを言いながら涼太が入ってきた。今日は...ヤ◯チャヘアーか。油断してサイバイマ◯の自爆でも受けなきゃいいが...。


「前失礼するぜ。よっと」

「ところでさっきから凄い視線感じるんだが、涼太なんか知ってるか?」

「あっ、うん」


 荷物を自分の席に下ろすと俺の元へとやって来て、俺の前の席にドサっと腰を下ろした涼太にダメ元で尋ねてみると案外あっさりと涼太は頷いた。ということはやはりなにか噂になってるのか?

 でも、そんなの思い当たる節...思い当たる節...あれ?


 そう言えば俺昨日渚を半ば押し倒したみたいなことしてなかった!? えっ、もしかしてそれ!? だとしたら、相当まずい気が...いや、でもあれ事故だし。でも、多分説明しても分かってもらえないだろう——。


「なんか、俺もなんでか分かんないんだけど十六夜さんがお前を振ったんじゃなくて、お前が十六夜さんを振ったことになってるっぽい」

「へ?」


 焦り散らかしていた俺は涼太の言葉を聞きフリーズしてしまう。いや、マジでそれはそれで一体どういうこと!?


「いや、俺は一昨日お前から振られたってのは聞いたからそんなわけないのは知ってるんだが...なんかそんな噂話が流れてるらしい。しかも、ソースがあるとかないとか」

「...」


 おかしい。完全にあの話は俺が振られたということで認知されていたはず。というか、それが事実なのだから。

 なのになんで今更になってそんな話が...?


 俺は意味が分からず頭を抱えるのだった。

 頭、痛い。




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 次回「噂の真相〜十六夜 渚の悶絶〜」



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