第7話 先輩、気をつけた方がいいですよ!
気まずい空気感の中、ようやく清掃を終えた俺と渚は素早く報告を終わらせるとあれ以降話すことはなく無言のまま解散した。
「あー、疲れた」
伊織と一緒に帰ることに約束(一方的)をした俺は精神的にも物理的にも疲れてしまった体をなんとか動かし、西の校門へと向かっていた。
「かわわわ! 君、アメいる?」
「ふぇっ、だ、誰ですか?」
「通りすがりの三年六組 福田 鈴よ。とりあえず、アメあげる」
「な、なんでそんなアメを押してくるんですか!?」
「いや、可愛かったからついなにかあげたくなったちゃって...というか、君みたいな可愛い子見たことないんだけど何年生? 何組なの?」
「かわっ...い、いや、あの——」
すると校門では何故か伊織が女の先輩からアメを与えられそうになっていた。...相変わらず、貢がせ属性だな。本人は嬉しくないかもだけど。
「おーい、伊織来たぞー」
俺はそんな感想を抱きながら初対面の相手に緊張で噛み噛みの伊織を助けるのだった。
*
「はぁ、助かりました。執事さん、ありがとうございます」
「いえいえ、お嬢様の為ならこれくらい...って、誰が執事だ。誰がっ」
「うーん、25点といったところでしょうか」
「人にツッコミをさせておいてその辛口評価はなんなんだよ」
「冗談ですよ、冗談。先輩は短気なんですから」
「おい」
全く、助けてやった途端これである。誰だ、こいつ甘やかした奴。そのせいで俺にしわ寄せが来ているので責任の一端でも持って欲しいものである。
「にしても、先輩、あの人には気をつけてくださいよ!」
「あの人って渚のことか?」
伊織の口から出たあの人に対して俺が反応すると、伊織はそうです、そうです、と言わんばかりにブンブンと首を振って頷いた。
「でも、別にそんな心配するようなことじゃない気もするけどな。元カノだし、振ってきたの向こうなんだから。むしろ、向こうからしたら俺とか疫病神以外のなにものでもないだろ」
「いや、それは違いますね。あの時のあの人の先輩を見る目は完全にメスそのものでした」
「いや、それはあり得ないんだが。それはそれとして...なんかもう少し他になんか言い方なかったのか?」
あまりにド直球すぎる伊織の言葉に俺はそんな指摘を飛ばす。流石にマズイだろ、色々と。
「..思いつかないです」
「そんなガチのショボン顔して言わないで!? 嘘だよな? それ以外呼び方思いつかないは流石に嘘だよな」
頼むから嘘であってくれよ。
「ま、まぁ、それはそれとしてですねとにかく先輩は気をつけた方がいいと伊織は思います」
「分かった。気をつけておく」
無論、伊織が言うようなことはまずあり得ないのだがまたなにか口を挟むと平行線になりそうなので、ここはひとつ素直に頷いておくことにする。
「ところで、明日の伊織は先輩のアドバイスにならってスイッ◯を持っていくことにしたのですが、なんか学校に持っていくべきおススメのゲームってあります?」
「お前は俺のアドバイスのどこを聞いてた? そして、学校に持っていくべきゲームなんてものはない」
当然のようにそんなことを言う伊織に俺は最早諦めの境地に至っていた。...なるほど、こうやってみんな諦めてこんな駄目な子が誕生してしまったのか。
なんだか、とても嫌な伊織誕生秘話が分かった気がする。
まぁ、でもよく考えれば2日連続で行くってだけで奇跡か。
「先輩はそう言うと思ってましたよ。でも、ご安心してください! マリオカー◯は必ず持っていきますから! これで、先輩もやれますっ。伊織はみんなと遊ぶことを覚えたのです」
「いや、なんかいいこと風に言ってるけど俺がナチュラルに共犯になるだけじゃねぇか」
またも(ない)胸を張ってフフンと誇らしげに言う呆れながらも俺はツッコミを入れる。なんか、ここで俺が折れてしまったらいよいよ駄目な子ルートまっしぐらな気がする。
...本当に色々と残念な奴だ。黙ってさえいれば容姿だけは見知らぬ先輩がアメを与えたくなるほど可愛いというのに。
「いや、先輩違いますよ? 伊織は可愛いので許されますが先輩は許されないので犯行したのは先輩だけになります」
「やかましいわ」
だが、今日の3D◯が没収されていなかったことを踏まえると、あながちないとも言い切れないのが嫌なところだ。
「というか、そろそろ一緒に帰る友達の1人や2人くらい作る努力をしてくれ」
「嫌ですよ〜」
「お前なぁ」
別に今は困らないかもしれない。一か月に一回ほどとは言え来ているし、勉強は謎に出来るし。だが、伊織は1年で俺と涼太は2年だ。
となれば、伊織が3年となった時は俺と涼太はもう学校にはいない。
そんな状態で学校に来られるのかが本当に不安でしょうがないのだ。
「...だって、そうしたら今日みたく先輩と帰れなくなるじゃないですか」
「伊織?」
「な、なんでもないです!」
小さすぎて聞こえなかったのでもう一度と言おうとしたところだったが、少し顔を赤くした伊織の声に遮られてしまう。
「そうか..」
だが、なんでもないと言われればそれ以上聞くことは出来ず俺はそう答えるしかない。
「ま、まぁ、とにかく気をつけてください? 伊織お姉さんからのお願いですからね?」
「分かった、分かった」
お姉さんはないだろと思いながら俺は適当に頷く。
「むぅ、分かってないような気がします」
「あっ、お前の家着いたぞ。じゃあな!」
「ちょっと、先輩!?」
俺は後ろから聞こえる伊織の制止も聞かずそれだけ言うと走って自分の家へと帰るのだっだ。理由はなんかめんどくさそうな気がしたからである。
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次回「今度の噂は俺が振ったことになってんの!? なんで!?」
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