不精の表舞台
日の沈んだ今夜は、寂寞の空。地面に滴る天使の涙を、俺は強く悔いた。
今朝から天使がいない。
ずっといないのが普通だったためこれと言った問題なない。はずなのだ。
なのになんだか、物悲しい。
たった二日間天使がいただけで、俺の感情はこうも簡単に変わってしまうモノなのだろうか。
今まで自分が何をして時間を過ごしたのか、何を目標に頑張っていたのか。すべてを思い出せない。
雨音が耳につんざく。憂う気持ちは緊張か、焦りか。凪る心に波紋を落とした心は静寂を知らない。
そんな静かな部屋で一人考えることと言えば昨晩の言葉だろう。
「死なないでほしい」
火中の栗を拾うようなものだ。天使を敵に回せば味方はおそらく悪魔のみ。
悪魔に身を捧ぐ人間がどのような結末を辿るのか。知りたくもない事実を「非現実」だと否定する。
現に天使が現れたのに。
しかし、人の魂を天へと送るのが仕事の天使にそんなことを言わせてしまうとは、なんてひどいことなのだろうか。
頭を抱える。後悔が毒となり、身を滅ぼす。
人は天使となり、天使は人となる。
だがその過程で記憶を失うため、天使時代に堕天した人間にはその記憶はない。そしてそんな彼らは無情にも殺されてしまう。
何たる非情、強い屈辱を感じる。
「ごめん」
途端に後ろから声が聞こえた。反射的にそっちの方を見る。
クマのできた目元、青白い肌、乾いた唇、彼女の美しさはどうやら天使には理解できないらしい。
天使は涙をいっそ強める。彼女は焦りを禁じ得ない。どうやら彼女だけは違ったようだ。
「あした、一緒にあそびに、行かない?」
そう言うと彼女は天使の笑顔を見せた。
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