012 不良さん モテ期かもと示唆される
カラオケに向かって移動中。
まだ緊張しながらも、機嫌良く俺が、咲さんと話しながら歩いている。
そんな感じだから、自動的に山中は、向井さんを相手にしながら歩いているんだが、何故か、この2人に問題が発生していた。
その問題って言うのがな。
【幾ら山中が話し掛けても、向井さんからは、薄~~い反応しか返ってこず、酷い時になったら、その薄い反応すらしない御様子】
一体、この2人の間には何があったんだろうか?
しかも、そんな状況に困り果てた山中は、いつの間にか、その饒舌な口を閉じ、トボトボと向井さんの後ろを付いて行く始末。
2人共、なんか雰囲気が悪いんだよな。
そんな中……
「おっそ~~~い、何時よ今?」
「ごめんね、千尋。遅くなって」
「奈緒は謝んなくて良いの。山中、遅いじゃない!!」
「すんまへん」
「あれ?山中、どうかしたの?やけに素直じゃない」
「いや、ホンマ、すんまへん」
壊れてる。
山中が今まで築き上げたコンパ話術で、向井さんを盛り上げ様として失敗。
どうやらこの様子から言っても、彼女によって、山中のプライドをズタズタに切り裂かたんだろうな。
「まぁ、謝ってるんだから許してあげる」
「おおきに、おおきに」
「じゃあ、謝罪も済んだ事だし。早速、カラオケにでも行くとしますか」
そんな樫田の発案に応じて、奴の指定したカラオケBOXに入って行く。
……ってオイ!!
順当に、どこかのカラオケ有名チェーン店に行くのかと思ってたら、此処、ウチの組が経営してるカラオケBOXじゃねぇか!!
なんで敢えて、こんな危険な場所に……
ヤバイヤバイ!!
間違っても、こんなロクデモナイ所に、女の子達を連れて行けるかよ!!
慌てて、みんなを制止させる。
「ちょ、ちょっと待て、樫田……此処は、あまりにも良くねぇ、此処だけは辞めねぇか?」
「なんでよぉ?ヒデがくれた割引券、此処でしか使えないんだけど」
あっ、あっ、あっ、あの野郎だきゃあぁ~~~!!
此処が、俺の実家が経営してるカラオケボックスだと知ってて、わざと樫田に渡しやがったな。
そう言う嫌がらせは辞めろつぅの!!
「あっ、あぁ、そっ、そうなのか?じゃあ俺が、先に手続きしてくるから、ちょっと待っててくれ」
「なんでよぉ?別にカラオケの手続き位、みんなで行けば良いじゃない」
「いやいやいや、実はそう言う意味じゃなくてだな。俺、此処に知り合いが居っから、俺を先に行かせてくれたら、かなり安くなるんだよ」
「なにそれ?ほんとなのぉ~?」
「マジマジ、信じやがれつぅの!!格安にする様に頼んで来るからよぉ」
「じゃあ仕方ないなぁ。10分だけ、此処で待っててあげるよ」
「おっ、おぅ!!解ったから、ちょ、ちょっと待ってろよ。ぜっ、絶対上がってくんなよ」
超ダッシュで階段を駆け上がって行く。
なんて言っても。
『10分待つ』なんて言ってやがるが、樫田の性格から言って、精々アイツが待てる時間は5分限界。
それ以上と成ったら、約束を反故してでも階段を上がってきやがるからな。
いそげぇ~~~い!!
***
『ガチャ』
「は~~~い。いらっしゃい……」
グッ!!
扉を開けて、勢いよく店内に入ったまでは良かったが。
店員の一声目が、なんともやる気のねぇ声を出しやがって、店員の態度が最悪な店だな、オイ。
客に対する感謝の念ってもんが、一切伝わって来やしねぇ。
その上、煙草をプカプカ噴かして、新聞を読んだまんまの対応って……
流石、ヤクザの組が経営してるだけの事はあって、最低極まりないな。
……って、経営してるの俺の実家じゃねぇか!!
「テメェ、ブッ殺すぞ!!時給貰って仕事してんなら、ちゃんと接客しろよな。マジ、ブッ殺すぞ」
「あぁ?」
「『あぁ?』じゃねぇんだよ『あぁ』じゃ」
あのなぁ。
文句を言う前に、せめて客の顔ぐらい確認しろ。
それ、どんな経営態度だよ?
大丈夫か、この店?
大丈夫か、ウチの実家?
「なっ!!ぼっ、坊ちゃん……なんで坊ちゃんが、ウチなんかの店に?」
「んな事は、どうでも良いんだよ……良いか、テメェ。これからウチのダチが此処に上がって来るから、速攻で一番広い部屋を用意しろ」
「へっ?あぁっと、はっ、はい」
「それからなぁ、俺の事は、オマエの後輩って事にすっから、俺にはタメ口をきけな……良いな、タメ口だぞ?出来るな?」
「はっ、はい」
「あぁ、それとなぁ。ドリンク・フードは、俺が後から金を払うから、他の奴から、絶対に集金すんなよ」
「あぁはい。わっ、わかりました」
「以上だ。どれか1つでもミスったら、コンクリートの服を着て相模湾ダイブの刑だからな」
「はっ、はい」
「……解ったんなら、オラ、試しにやってみろ。先輩風によ」
「マッ、マコの我儘には困ったもんだな。よっ、用意出来てるから、いつもの部屋使っても良いぞ」
なにを緊張してんだオマエは?
こんな程度の事で、緊張してんじゃねぇぞ。
馬鹿じゃねぇのか?
「あぁもぉ、こんな程度の事でイチイチドモッてんじゃねぇよ、まぁ良いや。大体それでOKだ……けどよぉ。本番は、今みたいに絶対に、ドモんなよ」
そう言い終えると当時に、再び、階段をダッシュで降りる。
だが、その時既に、座っていた筈の樫田の腰は浮き上がっていた。
あぶねぇ~~!!
まだ3分も経ってねぇってのに、コイツ、どんだけ待てねぇんだよ。
「おぉ、お待たせ」
「おそ~~い」
全然遅くねぇわ!!
「悪ぃ悪ぃ。ウチの先輩がよぉ。なんか、妙にはしゃいじゃってよぉ。一番良い部屋用意してくれるらしいんだよな」
「へぇ~、そうなんだ。ラッキー」
「だろだろ。俺に任せて良かっただろ」
「そうだね……じゃあ、早速行こかっ」
今度は、みんなで『なに唄う』とか、少し盛り上がりながら階段を登り始める。
コチラの方は万全だ。
ただ心配なのは、階段を上がり切った後だ。
店員よぉ……頼むから、ボケた事すんなよ。
「すんません、先輩。迷惑じゃなかったですか?」
「まこノ我儘ニモ困ッタモンダヨ。用意出来テルカラ、イツモノ部屋使ッテ良イゾ」
・・・・・・・なんでそうなった?
俺の予想は、残念な事に的中。
このアホ店員、一昔前の音声合成みたいな喋り方をしやがって、テメェ、ブッ殺すぞ!!
ドモらなかったのだけは褒めてやるがなぁ、なんで、そぉ、棒読みになっちまうんだよ?
さっきは、ドモッたけど、ちゃんと出来てたって言うのによぉ。
もぉ……
「ふふっ、マコ君の先輩さんって、面白い人だね」
「あぁ、まぁな、まぁな」
咲さんは天然なのか?
俺の思ってた様な悪い方向には転がらず、天然と言う方向で片が付いたみたいだな。
こりゃあ助かった。
「そやけど、マコの先輩や言うたけど、俺、知らんなぁ」
咲さんが、折角良い方向に向けてくれたのに、余計な事を……
「あっ、あれだよ、山中。オマエは知らねぇって」
みんなには見えない様に、山中の脇を小突いた。
これで察しろ。
「あぁ……そう言う事かいな。俺が転校して来る前からの知り合いかぁ」
「そうそう、だから馬鹿秀なら知ってんだけどな」
上手いぞ山中。
俺の態度で何か気付いたのか、言葉を上手く合わせて来てくれている。
流石に、現状を察するのが早ぇな。
「ねぇ~~~。んな事どうでも良いからさぁ。早く行こうよぉ。時間勿体無いよ」
「おぉ、そっ、そうだな。あぁでも、心配しねぇでもフリータイムで遊ばせてくれるらしいぞ……なぁ先輩」
「まこノ我儘ニモ困ッタモンダナ……」
この野郎だきゃあ、同じ事ばっか繰り返し言ってんじゃねぇぞ。
壊れたテープレコーダーかテメェわ!!
フォローするコッチの身にもなりやがれっての!!
「だっ、だってよ」
「ラッ、ラッキー」
山中は、さっき感づいたから、必死でフォローしようとしてくれてるのは解るんだが、店員のアホさ加減に良い反応が出来ないでいる。
此処まで酷いと、そりゃあ無理だよな。
フォローしろって方が、寧ろ、どうかしてるよな。
しかし……山中が、こんな調子だと、どうにもならねぇな。
どうすっかな?
「あっ、あの、倉津さん。そろそろお部屋に案内して貰ったら、どうかな?」
意外にも、有野がナイスなフォローを入れてくれた。
さっきの山中とのやり取りで。
流石に有野も、此処がウチの組が経営してるカラオケBOXだって気付いたんだろうな。
やるな有野!!ちょっと見直したぞ。
「そっ、そうだな。じゃあ先輩、勝手に部屋を使わせて貰いますよ」
取り敢えず、どの部屋を使って良いものか解らんが、適当に使お。
これ以上、此処に居るのは、心臓に負担が掛かり過ぎる。
***
結局、なにも解らないんで、選んだ部屋は、一番奥にある一番広い部屋にした。
みんなはガヤガヤと楽しそうに中に入っていくが……俺はそうは言ってられない。
あの馬鹿店員が、下手に注文を取りに来て、またおかしな言動で、面倒を起こされたんじゃタマらねぇからだ。
故に俺は『これ以上、先輩に我儘言えねぇから、ちょっとセルフサービスしてくるわ』っとか言って、みんなの飲み物の注文を聞き、フロントまで取りに行く算段だ。
だが、これには何故か『1人じゃ持たれへんやろ』っとか言って、山中が同行して来た。
―――この山中の行動、多分、あれが目的だな。
俺の予想が反しなければ、必ず山中は話し掛けて来る筈だ。
「なぁ、マコ。悪いけど、1つお願いがあんねん」
「なんだよ?」
「頼むから席替えしてくれ。俺、向井さんと楽しく喋る自信ないねん」
……やっぱりな。
さっきの様子から言っても、どうせ、そんなこったろうと思ったよ。
まぁ普段の俺なら、この申し出には断固として断るだろうが、今回に限っては、少し状況が違う。
コンパ初心者の俺が困っている所を、山中は何度も救ってくれたし、咲さんと話す切欠さえ上手く作ってくれた。
この行為をして貰ったのに、自分だけ愉しんで、山中は無視……なんて人道外れた事を出来る筈もねぇ。
人の親切を無碍にしちゃいけネェからな。
しゃあねぇな。
咲さんの横に座れねぇのは、些か不満だが、席は変わってやろう。
これ位してやっても、罰は当んねぇだろ。
「良いぞ。変わってやるよ」
「すまんな、マコ。なんか知らんねんけど、俺、向井さんとは相性悪いみたいやねん」
「そうなんか?しかしまぁ、オマエでダメだったら、俺なんかじゃあ到底無理だろうけどな」
難攻不落の向井城。
そんな所だな。
「そやないねん。それがな、そうでもないんや」
「はぁ?」
はぁ?何言ってんだ、オマエ?
そんなの、考えるまでもなく、どう考えても無理だろ。
普通に考えても、無理に決まってんだろ。
大体にして、コンパ慣れしたオマエが撃沈した女を、俺なんかが上手く会話を繋げられる筈がネェ。
そんな事は、天地がヒックリ返っても有り得ないだろ。
「いやな。マコは気付いてへんかも知れんけどな。向井さんな。なんや知らんねんけど、MACに居った時から、ズッとお前の事を、矢鱈と気にしとってん」
「はぁ?おっ、俺をか?」
「そやねん。だからな。オマエ、実は、今、滅茶苦茶モテ期なんちゃうか?」
「モテ期だと……マジ……かよ?」
えぇ~~とよぉ。
山中の話を真に受けたとしたら、向井さんが、俺に気が有るって可能性が有るって話だよな。
まぁ、本当なら嬉しいんだけどよぉ。
それってなんか、かなり無理がネェか?
第一俺は、まだ彼女とは一言も会話してねぇし、逢うのだって、今日が初めて。
当然、今まで全く接点がない訳だから、そんな俺に、向井さんが気が有るなんて事、それこそ天地がひっくり返っても有り得なくねぇか?
なら、これは、多分、山中の席替えする口実だよな。
だから、そんなに気にしないでおこう。
そう思いながら、2人でフロントに行き。
勝手に厨房に入って、適当なフードを作り部屋に戻って行く。
だが、この直後、部屋に戻って行く訳なんだがな。
此処でまた、予想だにしない展開が待ち構えていた。
【俺の人生を、少しだけ変える事件】が起こる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
毎度、読んで下さり、誠にありがとうございます<(_ _)>
さてさて、樫田千尋と合流し、カラオケに付いた真琴君ですが。
イキナリロボ語を話す変な店員に遭遇したり。
山中が席替えの口実に『モテ期の到来』を示唆してきた訳なんですが。
どうなんでしょうね?
罠かもよ(笑)
(*'ω'*)b
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