011 不良さん 女子に話し掛けられ照れまくる

 崇秀と別れた後、予定通りMACに到着したんだが。

店内が混んでいたので、注文をしてから席に着くまで、少し時間が掛かった。

その間も山中は、女達と喋り続けていたんだが……俺はと言えば、あまり彼女達と話す為の話題も無く、ただただ後ろに並んでいるだけ。


まさに、ただこの場に居るだけのお飾り状態だ。


なのでこの時点で、俺の存在なんて既になんの意味も持たない。


しかしまぁ、なんだな。

そんな無様な俺の事は、どこか遥か彼方に置いておくとしてだな。

山中の奴、一切、女子達との会話が途絶えないなんて、どんな情報量してやがんだよ。

2人を同時に相手にしてるのにも拘らず、話題が切れる様子すら見受けられない。


まるで、話題の宝石箱。

崇秀が、コンパに山中を推奨してるだけの事はある。


まぁ……そんなこんなが有りながら。

俺は、結局、全ての会話を山中に任せきりにまま、ほぼ何も話せてない状態で席に着いた。



「ごめん……店に着いて早々で悪いんだけど。ちょっとトイレ行って来るね」

「あっ、じゃあ私も」


席に着くなり、女達2人は、何の会話も無いままイキナリトイレに行った。


なんだ?

ひょっとして、この様子から言って、長時間小便でも我慢してたのか?


俗に言う、女版のツレしょん、って奴か?


コンパについてなにも知らない俺は、そんな間抜けな発想を持っていたんだが。

次の瞬間、すかさず山中が、俺に話し掛けてきた。



「マコ……あの2人、作戦会議に行きよったで」

「はぁ?んだよ、その作戦会議って?」

「オイオイ、オマエ、マジかいな?マジでそんな事を言うてんのかいな?」

「あぁ、至ってマジだが」


大体にして、こんな場所で、なんの作戦会議が行なわれるんって言うんだよ?


おまえの言ってる言葉の意味が、俺には全く理解出来ねぇぞ。



「さよか。……ほんだら、えぇか、マコ?説明すんで」

「おっ、おぅ」

「コンパの途中で、女が連れ立ってトイレに行く理由はな。『どっちがえぇ』とか言う話題の時や」

「へっ?」

「これじゃあ解ってへんか。要は、お互いの初印象を聞いて、俺等を品定めしとるちゅうこっちゃな」


なるほど、そう言う事か。


しかしまぁ、コンパ中に女子が連れ添ってトイレに行くのにも、そんな理由があったんだな。



「ほぉ……じゃあ、この状況じゃあ、圧倒的にオマエ有利って事になるのか?」

「それが、そうでもないんやな……これが。そんな単純な話でもないんや」

「また、なんでだよ?」


あんだけ仲良くやってりゃ、無愛想なだけの俺なんかより、圧倒的に山中が有利になる筈なんだがな。

なのに山中は、それは違うと断言した。


これも、なんでだ?



「そやな。例えば、簡単な話で言うたら、好みの問題やな」

「好みだと?」

「そぉそぉ、好みや。喋る男が好きやったら、俺みたいなお喋りな人間を選ぶやろうけど。そう言う気軽に話し掛けられるのが苦手な女子もおる。そやから好み次第では、寡黙なマコの方が好印象に成り得る可能性があるちゅう~~~こちゃな」

「いやいや、寡黙もなにも、俺は、ただ単に喋ってないだけじゃね?」

「オマエ、ほんまアホなんやな。そんなもん、それでえぇねんって」

「なんでだよ?」

「超能力者でもない限り、相手に、そんなオマエの事情なんぞ悟られる訳があらへんがな。故に、今のマコは、硬派なイメージで通ってる訳や」


ほぉ~~~、なるほどなぁ。

そう言われてみれば、そんな気がしないでもないし。

世の中って、意外と上手く出来てるもんだなとは思える。


確かに、超能力者でも無い限り、そんな俺の心境なんて見透かせる訳ねぇもんな。


俺は、山中の普段見せないロジックな部分に感心していた。


***


 そうしている内に、トイレに行った女達が帰ってきた。



「んっ?なになに?2人して、コソコソ何話してたの?」

「うん?そんなん決まってるやん。マコと2人で『2人とも可愛いから緊張するなぁ』って言うとってん」

「マコ?マコ君って、そっちの彼の事?」

「そやそや、コイツは倉津真琴……通称マコ。よろしゅうな」

「真琴君って言うんだ」


清水さんがそう言った時、山中が俺の脇を小突いてきた。


多分、これって、この機会に自己紹介をしろって事だよな。



「倉津真琴……よろしく」


緊張して、素っ気ない自己紹介になっちまった。


けど、コンパ初挑戦だったら、頑張ってもこんなもんだろ。

俺に、馬鹿秀や山中みたいな、気の利いた自己紹介なんか出来る筈がねぇ。



「(コイツ、マジかよ)……そっ、素っ気無い奴やけど、コイツ、めっちゃえぇ奴やで」

「うっせぇよ」

「えっ?マコ君、なんか怖そう」

「(オイオイ、此処に来て、女の子をビビらしてどうすんねんな……)マコ、怖いかぁ?そんな事ないで……」

「そうかなぁ……」

「(こら、アカン。まさに最悪のパターンに嵌まりそうな雰囲気や!!)咲ちゃん、アホな事を言うたらアカンで。マコは、見た目はこんな形やけど。これでも悪を許さへん正義の味方なんやで」

「えっ?えぇ~~~っ、そうなの?ほんと~?」


この咲さんの言動からも解る様に、完全に俺を疑ってるな。


まぁそりゃそうだわな。

山中の嘘は、あまりにも無理が有り過ぎる。

大体にして、こんな不良の基本みたいな形をしてる奴が、正義の味方な訳がない。


だが山中は、その嘘を辞め様とはしなかった。



「あぁホンマや。こないだも不良に絡まれとる女の子助けとったで」


女を助けた?


あぁ……なにかと思えば、なんだ、あの事かぁ。

確かに俺にも、過去に女を助けた記憶があるから、そりゃあ全くの嘘って訳でもねぇわな。


けどよぉ。

オマエの言ってる、その話って、いつの話だよ?

その女を助けた記憶なんざ、中学入学して直ぐの奴ぐらいしか憶えてねぇぞ。


しかも、それ、オマエが転校してくる前の話じゃねぇかよ。

なんでそんな事を、転校生のオマエが知ってるんだ?



「そうなんだぁ。じゃあマコ君。もし私が、街で不良に絡まれてたら助けてくれる?」


そりゃあまぁ。

知り合いが絡まれてるのを見掛けて、そのまま素知らぬ顔で見過ごす様な真似はしねぇわな。


確かに俺はクズだが、そこまで人間を捨ててる訳じゃねぇからな。


しかも、絡まれてる相手が女の子だったら、尚更そんな卑劣な真似はしねぇよ。



「もっ、勿論、いつでも呼んでくれたら、直ぐにでも助けに行きますよ」

「ホント、嬉しいな」

「いやっ、嘘じゃなくて、マジっすよ」


けど、緊張してるから、所詮は、こんな感じにしか言えないけどな。


この状況で、俺には余裕なんてねぇしな。



「オイオイ、マコ。オマエ、なにマジなっとんねん。それ、熱過ぎやろ」


そう言う部分を指摘すんなな。

その辺は、自分でも良く解ってるんだからよぉ。

正直言えば、女と話せて、ちょっと浮かれちまってる部分があるんだからよぉ。


マジで辞めてくれ。



「うっ、うっせぇ」


でも、ホントだよな。

山中の言葉も一理あるよな。

初対面の女に、なにマジなってんだろな、俺。


こりゃあ、見様によっちゃあ、流石に恥ずかしいぞ。



「なに照れとんねん……あぁそやそや、マコの自己紹介も終わった事やし。男同士・女同士で席に座っててもショウモナイやん。ちょっと席替えせぇへんか」

「そうだね」


ここまでは男女別々に、向かい合う形で座っていたんだが。

山中の言葉に応じた清水さんが俺の横に座って、向井さんは山中の横に座る。


しかしまぁ、やっぱ、女が横にくんのは緊張するなぁ。


そんなヘタレな俺は、咄嗟に自分の体を半分位ずらし、清水さんとの距離を取る。



「うん?どうしたの?」

「いや……俺、あんまり女子と話した事とかねぇもんだから」

「ふぅ~ん。そうなんだ。そんな風に見えないのにね」

「いや、マジで女子とは、あんま口をきいた事とかねぇから」

「そう……なんだ」

「あぁ、なんて言うか……ミットモネェ話なんだが、女子に横に来られるだけでも、変に緊張するんだよ」

「ふ~ん。じゃあ、さっきの話で、助けた女の子にはなんか言ってあげたの?」

「いや、あの話も偶々助けただけで、別に、最初から、そんなつもりじゃなかったから、黙って立ち去った」

「そうなんだぁ。なんか良いねマコ君って。純粋な感じ」


うっ!!なに、この漫画みたいなシュチュエーション?

清水さんは、眩しいばかりの笑顔をこちらに向けながら、そんな事を言ってくれるなんてよ。

世の中には、こんな奇跡みたいな事って有るもんなんだな。


漫画漫画って言っても、結構、馬鹿に出来無いもんだ。


実際、俺が、今、体験してんだから。



「いや……あの……俺、そんなアンタが思ってる様な良い奴じゃねぇぞ」

「そぉかなぁ?……でも、悪い人には見えないよ」

「いやいや、それはアンタが……」

「アンタって言われ方なんか嫌。私は清水咲だよ」

「あぁ、すまん。清水さんが……」

「咲で良いよ」


えっ?なに?


えぇえぇええぇぇ~~~~~!!

彼氏彼女でもないのに俺が、イキナリ清水さんを下の名前で呼べってか?

それって、俺にとっちゃあ、結構、ハードル高いぞ。



「あっ、あの……さっ……咲さんが、俺を知らないだけだ」

「じゃあ、さっきの『絡まれたら助けてやる』って言うのは嘘なの?」


あれ?なんか打って変わって、急に清水さん……いや、咲さんの眼が怖いぞ。


なになに?何事?



「そりゃあ嘘じゃない。なにがあっても、絶対に咲さんを助けに行く」

「なぁんだ。じゃあ、やっぱり、マコ君優しいじゃない」

「いや、だから」

「じゃあさぁ。マコ君って、どんな人なの?」


言えねぇ~~~。

普段の俺の話なんか、腐りすぎてて言える訳がねぇ!!

寧ろ、正直に話したら、ドン引きされるのがオチじゃんかよ!!


ほんと、ろくでもない事しかしてないからな。



「あっ、あのよぉ。じっ、実は、あんま俺って良い奴じゃねぇんだよ」


けど、隠そうとする感情より、素直に言う方向に働いてしまった。


まぁ良いか。

初対面だが、折角こんなにも優しく接してくれた咲さんに嘘つくのもなんだしな。


もぅこれですべてが終わっちまうだろうけど。

此処で嘘を付いて誤解されたままにするのも良くないし、誠実さにも欠ける行為だと思う。

俺を真正面から見てくれようとしてくれたんだから、コチラも、それに応えるのが礼儀ってもんだ。


だから、嘘は言わん。



「なんで?マコ君、良い奴だよ」

「俺さぁ、ホント咲さんが思ってる様な良い奴じゃないんだ……ただの不良なんだよ」

「それぐらい知ってるよ」

「へっ?」

「マコ君が不良なのぐらい、誰だって知ってるよ……県内でも有名だもん」

「へっ?じゃあ、なんでだ?なんで良い奴とか言うんだ?」

「うん?話してみたら、聞いてたイメージと全然違ってたからだよ。それにマコ君は優しいよ」


本気で『優しい』なんて言葉、生まれてこの方、初めて言われたぞ。


いやまぁ、今さっきも言われたんだがな。



「けどよぉ……『優しい』つってもよぉ。酷い事をしてる時の方が多いぞ」

「そう……なんだ?」

「こんなもん、なんの自慢にもなんねぇけど。普段は喧嘩ばっかしてるし、勉強もロクにしない。それに親はヤクザ……この上なく救い様がない様な不良なんだぞ」

「でも、私が困ってたら助けてくれるんでしょ?」

「そりゃあまぁ、飛んで行ってでも助けるよ」

「じゃあ、それで良いんじゃないかな。他の人がマコ君の事を酷い奴だと思っていても、私にとっては良い人な訳でしょ。じゃあ別に、そこまで否定する事無いんじゃないかな」


あぁやべぇ。

俺、咲さんの事が好きかもしんねぇ。

こんな人間性溢れる言葉を俺なんぞに掛けてくれるなんて、この人、天使かなんかじゃねぇのか?


このままじゃあ、ドンドン深みに嵌りそうだ。



「仲が良ろしおまんなぁ」


この緊迫した状況を打破してくれたのは、山中の一言。


有り難いんだが、妙にテレくせぇな。



「違ぇよ」

「違うんだ」

「いや、あの、そうじゃなくて……」

「何が違うねん?2人して自分等の世界に入っとったやないけ」

「入ってねぇよ」

「入ってないんだ」

「いや、だからよぉ」


咲さん……そうやって、俺をからかうのは辞めてくれねぇかな。

そんな可愛い顔で、そんな風に言われたら、なにも言い返せないってばよ。


恥ずかしいやら、照れるやら。



「ねぇ……そろそろ行かない?」


そんな俺等のやり取りを見ていた向井さんは、綾○レイも真っ青なぐらいの冷淡な話し方で、この場を凍りつかせる。

まるで、その話し方は、バカップルを諌める様な言い方だ。


しかも、なんか、さっきより機嫌悪そうな雰囲気だな。



「そっ、そやな。そろそろ時間も時間やし。本格的に移動せな、カッしゃんが待ってるかも知れんしな」

「そうね」

「ほっ、ほな、行こか」


この後、向井さんの言葉に従ってMACを出たんだが。

俺が思った以上に時間が経過していたので、途中寄る予定だったゲーセンに行くのは却下になった。


樫田のアホが、カラオケで待ってるかも知れないっと言う理由も重なり、直ぐ様、カラオケボックスに向う事に相成った。


ってか、アイツら、ちゃんと来てっかな?

これだけ時間が経ってるんだから、まさか、まだあのままって事はねぇよな。


相手が樫田なだけに……不安だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

はい、最後まで読んで下さって、ありがとうございました<(_ _)>


真琴君はDTなだけではなく。

実は今までの人生で、女性と話す機会すらなかったから、ガチガチに緊張してましたね(笑)


っで、今回解った事があるとしたら。

彼はクズな行動はするのですが、自分とキッチリ向かい合ってくれる人間には【誠実でありたい】と思っているようですね。


それ程までに、咲さんの言葉が嬉しかったんでしょう。


意外と純情で笑えますね(*'ω'*)

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