009 不良さん、連れの手際の良さに呆れる

 コンパに行く筈だったのだが。

その相手が、2つ年上の知り合いで、近所に住んでる姉ちゃんである……千尋だと。



「もぅアンタ等ねぇ、ガキじゃないんだから、いい年こいて、街中で声を掛け難い事してんじゃないわよ……それとヒデ、呼び捨て禁止」

「なんでだ?いつも呼び捨てじゃん。今更、そんな事を気にする様な仲でもあるまいし」

「はぁ……アンタはもぅ」

「おぉ、そんな事よりも千尋。途中で倉津にも逢ったから、拾ってきてやったぞ」

「おっ、ホントだ。真琴じゃん。久しぶりだねぇ、元気だった?」

「おっ、おう」


俺……実は、コイツの事がスゲェ苦手なんだよな。


―――なんでかって?


そりゃあ、あれだ。

この樫田って女は、女なのに、自分から矢鱈とベタベタくっ付いて来るし、妙に馴れ馴れしいと言うか、鬱陶しいと言うか。

なんて言うか、女慣れしてない俺にとっては、どう対応して良いか悩むんだよな。


ほら、そう言ってるうちにも、腕を絡めてきたよ。


つぅか、親しき中にも礼儀ありだぞ!!

そう言うのは、人前でベタベタする行為は辞めろちゅう~の。


なのに樫田は、そんな状態のまま話を続ける。


……胸が当たってるんだから、女だったら、そこは気にしろよ!!



「ところで他のは?」

「あぁ、紹介する。コッチが有野で、コッチは山中。山中は知ってるだろ」

「久しぶりやな、カッしゃん」

「あぁ~~~っ!!この子、マジで可愛いぃ~~~ぃ!!」

「あっ、あの、やっ、止めて下さい」

「……オイオイ、また此処でも無視かい」


有野を見た瞬間、樫田は俺をドンっと突き放して、有野に抱き付きほっぺたを擦り付ける。

それって、有野の事を、猫かなんかと間違ってんじゃねぇのか、この女。


そして山中は、完全に無視されている。


まぁいつもの事なんだが、どこまでも哀れな奴だ。



「カッしゃん、カッしゃん。有野は自分の好きにしたらえぇけどやな。頼むから、先に女の子の紹介だけはしてぇなぁ」

「そっちの髪の長いのが清水で、もぅ1人が向井」

「さよか。ほな、後は好きにせぇ」

「よっしゃ~~~ぁ!!(すりすりすりすり)」

「ちょ!!山中君~~~!!」


今度は、山中が有野を無視。

樫田の対する用事が済んだら、さっさと有野を樫田の生贄にして、別の女の子の方に向かって行く。


この辺は、流石、ウチの学校屈指の『遊び人』だな。

誰を千尋の犠牲者にするのが適任か、瞬時に決めやがった。



「初めまして、俺、山中寛和。今日はよろしゅう」


突然、山中は清水と呼ばれた女の子の手を取って自己紹介。


そんな風に手を握られた相手は、少し大人しそうな感じの子なので、山中の行動に対応しきれず動揺してる様子だ。



「あぅ」

「んで、俺が仲居間崇秀……宜しくね、清水さん」


山中に便乗したのは馬鹿秀。

コイツは山中と違い、相手の手を軽く握るだけだ。


しかし、女って、こんな事を簡単に手に触れる事を許すのか?

初対面の男なのに、自分の手を握られてるんだぞ、アンタ等。



「あっ、はい」

「ところで清水さんは、なにさんかな?」

「あっ、咲。清水咲」

「んじゃ、改めて宜しくね、咲さん」


コッ、コイツ等……マジで手が早過ぎんぞ。


ってか、俺、完全に出遅れじゃねぇか。


それにしても……不思議なのは、清水と言われた女より、向井って女の方が可愛い事だ。

普通、そっちの方を先に口説くもんじゃないのか?



「あぁ、そやそや、もぅ1人の子もコッチに呼びぃや」

「あっ、そうだね」


機嫌良く清水さんは、向井さんを呼ぶ。


なるほど。

これは所謂『将を射んとするならまず馬』と言う奴か。


でも、向井って女は、清水って女が先に声掛けられて、機嫌悪くならねぇのか?



「カイちゃ~ん」

「……なに?」


ほら、見た事か。

誰がどう見ても、完全に機嫌悪いじゃねぇか。


良いか、盛った馬鹿2匹。

女って言うのはな、常に自分が一番で有りたい存在なんだよ。

それをそんな、片方だけをチヤホヤした扱いなんかしたら、もう片方は不機嫌にもなるってもんだろうに。


オマエ等、女慣れしてるくせに、そんな事も知らねぇアホなのか?


だが、山中は、俺のそんな思いも無視して、お構い無しに話しかける。



「初対面で、こんな事を言うのもなんやけど……向井さんって、声掛け難いって言われん?」

「えっ?」

「やって、めっちゃ可愛いやん」

「えっ?」

「ねぇ、山中君。それって、私が可愛くないって事?」

「ちゃうちゃう。誰も、そんな事は言うてへんやんか。ええか、咲ちゃんはな、なんて言うのか、めっちゃ可愛いねんけど、めっちゃ優しそうやん。なんて言うんか暖かいねん。そやから、どっちかと言えば、咲ちゃんの方が声掛けやすいねん……咲ちゃん滅多な事で怒れへんやろ?」

「えっ?あっ、うん、まぁ」

「ほんで向井さんは、どっちかと言うとやな、クールビューティ系やろ。1テンポ置かな、俺みたいなショボイ奴は声掛け難いねん」

「そんな事……」

「ホンマ、今回の合コンどないなっとんねん?こんな可愛い子が2人も来るなんて信じられへんわ。これ、なんちゅうコラボ企画やねん。ホンマ、俺等みたいなショボイ中学生で申し訳ないわ」


うまっ!!

どうやって、この状況を切り抜けるのかと思ってたら。

山中の奴が1人で喋って道化を演じ、女心を擽ってるやがる。


コイツだけは……



「「そんな事ないよ」」

「ほんまかぁ~?ホンマにそない思てるんか?実はショボとか思って、内心メッチャガッカリしてるんちゃうんかいな」

「まぁ、心配しなくてもオマエは、いつもガッカリ大賞だよ。そりゃあ、彼女達も相当ガッカリしてるだろ」

「ってオイ!!そりゃないやろ!!ったく秀は、いつもながら厳しいな。そやけど、そんな馬鹿正直に『ガッカリ大賞』とか言うもんやないで……俺かて落ち込むねんぞ。意外と精神デリケートやねんぞ」

「そりゃあ悪ぃな。けど事実は事実。歯に衣は着せれない性質でな」


2人して顔を突き合わせて、ニヒヒっと笑ってやがる。


これがコイツ等の手口って奴か。


中学生にして、呆れる手際の良さだな。

どんだけ遊び回ってんだよ、オマエ等はよ。



「まっ、そろそろ、こんな所で立ち話もなんだ。有野も限界みたいだし移動すっか?」


おぉそうだ、そうだ。

コイツ等の駆け引きが面白くて、スッカリ有野の事を忘れてた。


気になって樫田の方を見てみると、樫田のアホは未だに有野に絡んだままだだった。


オイオイ、マジで有野は、オマエのペットじゃねぇだぞ。


しっかりしろ樫田。

有野のペットうんぬんよりも、オマエは年上なんだぞ。

少しは、この状況の空気を読んで、年上らしい行動をしろよな。



「オイ、ち・ひ・ろ。いつまでも有野とじゃれ合ってんじゃねぇぞ。いつまでも遊んでねぇで、そろそろ移動しようぜ」

「えぇやだぁ。もぅちょっと~~~、今、堪能中なのぉ~~~」

「ったくもぉ、コイツだけは。んじゃあ、先行ってんぞ」

「OKOK。どうせMAC→ゲーセン→カラオケの経路を辿るんでしょ。んじゃまぁ、私達はカラオケで合流って事で」

「あぁそうかよ。じゃあもぅ勝手にしてくれ」

「ほな、有野、カッしゃんと、ごゆっくりなぁ~~~」

「えぇ~~~っ!!」


死して屍拾うもの無し……


サラバだ有野。

俺等は、俺等で愉しんで来るから、オマエが生きていたら、また後で会おう。


・・・・・・うん?


おっ!!おっ?おぉ??ちょ、ちょ、ちょっと待てぇ~~~い!!

今冷静に考えたら、そんな有野の事よりも、俺、まだ樫田のアホと最初に喋っただけで、他の子に自己紹介もしてねぇんじゃねぇの?


これじゃあ、有野が屍じゃなくて、実質は俺の方が屍じゃねぇか!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

いつも読んで下さって、ありがとうございます<(_ _)>


真琴君、コンパの初期段階では、何にも出来ないまま話が終わってしまいましたね。

実は今回、千尋に絡まれただけで、一言も喋ってないと言うね(笑)


そして、女性慣れしていない事を、皆さんにも暴露してしまっていると言う状況。


……哀れ。

(*'ω'*)b

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